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[むかぁし、むかし
ある村のはずれ
ひっそりと佇む古ぼけた教会に
一人の牧師が住んでいました。
とん、とん
夜の帳が降りる頃
一人の訪問客が、教会の扉を叩きます]
はぁい。どちらさまでしょうか。
[軋む音を立てて、扉が開かれます]
おや、ホラントさんじゃありませんか。
お珍しい。どうしました、こんな時間に。
[訪問客の顔を確かめると、牧師は驚いたように声をあげます。
その男、ホラントさんは言いました。
「ここだけの話だけれど」
「ここだけの話だけれど」
ホラントさんは、噂好き。
今までもたくさんの噂話を村のみんなに提供してきたのです。
約半分は出鱈目で、約半分は出任せで
そうして残りの僅かは、みんながもう知っている、お話。
それでも牧師は嫌な顔ひとつせず、彼の話を聞くのです]
[ホラントさんは、噂好き。
含み笑いで囁きます。
一生懸命、囁きます]
人に化ける狼ですか?
それはそれは、気をつけなくてはいけませんね。
神様、どうかみんなをお守り下さい。
[噂を話したホラントさん
次に噂を聞く人を
探しに行ってしまいます。
牧師は聖なるシンボルを手にして、静かにお祈りを捧げます]
ええ、いつもあんな感じ。
人狼のお話は、ずっと昔から伝わる御伽噺ですし、すぐにいつもの賑やかさが戻りますわ。
[肩をすくめる旅人の言葉に、笑いながらこう言います。]
あらあら、こんな所で寝てしまったら、風邪を引いてしまいますのに。
女将さんはどうしたのかしら?
わたくし、ちょっと奥に行って、ブランケットを借りて参りますわ。
[寝ている人の姿に一つ、瞬きをして。
買い物袋をテーブルに置いて、奥へと向かいます]
/*
牧師……!
その肩書き変更は予想外でした。
ところでくろねこ、一つ間違っていましたの。
某村シャロよりはむしろ、某短期ステラでしたわ、このテンションは。
それならいいんだ。
やっぱり、賑やかなほうがいいからな。
[旅人はうなずきながら、宿の中に入ります。]
そうだな。このままでは寒そうだ。
[女の人を見送って、旅人はぼうしを取りました。
背中のまんなかあたりでそろえられた銀の髪が、ぱさりと落ちてきました。]
それにしても、主人はどこに行ったのだろう。
客を迎える準備はしてあるようだが。
[旅人は辺りをきょろきょろと見渡しました。
カウンターの上には宿帳が置いてあるようです。]
とりあえず、名前を書いておこう。
[旅人はそばにあったペンを取って、“ルイ”と書きました。
それが、この旅人の名前でした。]
おや、木こり ドミニク が来たようです。
木こり ドミニクは、村人 を希望しましたよ(他の人には見えません)。
あらら、女将さん、おでかけしているのかしら。
[人のいない奥の部屋に、困ったように呟きます。]
仕方ありませんわね、後でお話すればわかっていただけるでしょうし。
[宿屋には、何度かお手伝いにも来ていましたから、どこに何があるかはわかっていました。
ブランケットを一枚持ってロビーに戻り、寝ている女の人にかけてあげます。]
……あら?
もしかして……。
どうかしたかな。
[旅人が名前を書き終えた頃、女の人が戻ってきて眠っている人にブランケットを掛けていました。
それから首を傾げているのを見て、旅人もまた首を傾げました。]
[きぃ、きぃ
森の方からこうもりの鳴く声が聞こえます。
牧師は扉の隙間から、暗いお空を見上げます]
何でしょうか。胸騒ぎがしますね。
[扉を閉めてしばらくすると、教会の入口から大きな声が聞こえます]
今日は来客の多い日ですね。
……もしかしたら、狼さんでしょうか?
[ゆっくりと扉を開けると、そこには屈強な木こりの姿が見えました。
牧師は木こりの申し出を聞いて、たいそう喜びます]
これはこれは、ありがとうございます。
貴方に神様の祝福がありますように。
ああ、なんでもありませんわ。
こちらの方、知っている人かしら、と思ったもので。
[旅人の問いかけに、振り返ってにっこりと笑います。]
それより、女将さんがお出かけしているようなので、わたくしでよろしければお茶をご用意いたしますけど……。
そうか。
村人ではないのかな。
[旅人は一つうなずいて、あらためて眠っている人の顔を見ます。
それから、女の人がお茶をいれてくれるというので、]
それはありがたい。
ちょうど、喉が渇いていたんだ。
[そう言いながら、とんがりぼうしをカウンターに置きました。]
[牧師の言葉に、厳つい髭面が照れ臭そうに横を向きます。]
そんな礼を言われるほどじゃねえさ。
ホラントがまーた噂してたからな。
獣避けに薪はあっても困んねえだろ?
[噂が本当かはともかく狼でも十分怖い。
森に出入りする木こりはそう考えて言いました。]
村を離れて、色んな場所を回っているのですわ。
……見間違いでないのなら、以前よりもずっと綺麗になっていますけれど。
はい、かしこまりました。
少々お待ちくださいませ。
[楽しげに言いながら、キッチンへと向かいます。
お茶を淹れるのは大事なお仕事の一つでもありますから、準備はてきぱきと。]
勝手にしたお詫びは、後でお菓子を差し入れればいいかしら……?
[なんて呟きながら、ロビーへ戻るのです。]
大変に助かります。
獣避けにも、暖を取るにも。
ドミニクさんも、獣のお話、聞かれたのですね。
[牧師は薪の束を受け取りに行きます]
お礼に、中に入って何かお飲み物でも……。
[牧師はそう言ってから、生憎と紅茶を切らしていることに気がつきました。
ついでに明日の分のパンもありません。
くぅ、くぅとお腹の虫が鳴きました。
牧師は大層困って、苦笑いを浮かべるのでした]
なるほど。
たしかに、きれいな人だ。
[納得したというように、旅人はうなずきます。]
ありがとう。
[旅人はことばに甘えることにして、カウンターのいすに座りました。]
無駄になんねえならいいさ。
獣除けでも暖でも。
[木こりはぶっきらぼうに言うと、薪の小束を渡します。]
いや、急ぎで届けに行かなきゃなんねえ……
こっちもまーたか。
ほれ行くぞ。
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