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[赤と金の影が、吊り橋を渡るのを見た。
色だけは判別できたが、それが誰だかまでは分からなくて]
私の他にも、お客様が居るのね。
……って、当たり前か。
『事情があったの、だから、戻って来たの』
これだけ言っておけば、大丈夫だよね……
[花に語りかけても、答えは戻ってこない。
なるべく花弁を踏み散らさないようにしながら、風の吹く中館の玄関へと向かった]
─館玄関前─
それにしても、天気がよくないこと。
花散らしの雨がくるかしら、ね?
[呟きは、独り言のような、問いかけのような。
それから、こちらへやって来た気配の方へと向き直り]
……あなたは、どう思うかしら?
[投げかけるのは、唐突な問いかけ]
[玄関まで辿り着く。生温い風を感じる。
紅を纏う女性は、そこに立っていた]
…え?
あ、雨……なら、近いうちに降りそうですね。
こんな天気ですし、風も出てきてますし。
[どぎまぎする内心を抑えながら、問いに返すのは当たり障りのない答え]
ええと、お客様…ですか?
―二階の部屋―
[墓守が何気なく外に向けた視線は、白以外の色を捉えた。
見えている右目、隠れた左目が共に細まる]
来客ですよ。
お二人。
[部屋に来ていた仲の良い使用人に目を向ける。
使用人が応対に出て行った後、墓守は本を閉じ、それを窓枠に置いた]
[収穫したものは取っ手付きの籠へ。
思いの外、沢山の収穫物が手に入った。
その様子にほんの少しだけ口元を緩め、ラッセルは籠を持ち立ち上がる。
刹那の突風が作物の葉を揺らし、ラッセルもまた舞う土埃から眼を庇うように泥だらけの手を掲げた]
………。
風、つよ…。
[これ以上は止めておこうと、菜園を気にしながらも足を玄関へと向けた。
籠を抱え、ゆっくりと歩を進める。
途中、玄関前に人影を見つけたなら、一度足を止め軽く眉根を寄せたことだろう]
そうね、空も風も泣き出しそう。
[返された答えに、風が乱す金と紅を抑えつつ、頷く。
相手の内心の様子など、気づいた風もなく]
客といえば、客かしら?
時々寄らせてもらっている、旅の者よ。
あなたは?
[ゆるり、首を傾げて問いかける。
深い碧の瞳に宿るのは、どこかたのしげないろ]
[暫く窓の外を眺めていると、先程の二人の客人のものとは違う、赤い髪の色が目に映った]
嗚呼、また外にいらしたのか。
[息のような声を洩らす。
それから窓を離れ、墓守は部屋を出た]
旅の方……
[女の抑える金色の鮮やかさに、ほうと息を吐いて]
私は、麓の村の方から…久しぶりに、顔を出そうと思って。
特別に呼ばれた訳じゃないんですけど、以前はそれなりに訪れていた場所ですから。
[扉に手をかけた丁度その時、使用人が顔を出しただろうか]
久しぶり。ソフィーです。
アーヴァインおじさまはお元気?
[使用人と、館の中に向って声を発する]
[玄関前に居た女性はどちらも見覚えはあった。
見覚えがあったとは言え、進んで声をかけるほど親しく─ラッセルにとっては大概の人物がその対象なのだが─はなく。
けれど見知っているが故に声をかけるかどうかを迷う。
両腕に籠を抱えたまま、玄関前に居る女性二人をラッセルは困惑した表情で見ていた。
玄関に入りたいが、二人が居るために近付きにくいと言うように。
玄関からではなく、裏口から入ると言う考えにまでは至らなかったらしい]
ああ、村の方。
久しぶり、という事は、里帰りか何かかしら。
[何気ない口調でこんな事を言いながら。
開いた扉の向こうに見知った使用人の姿を認めれば、優雅な笑みと共に一礼を]
お久しぶり、また寄らせていただいたわ。
アーヴ殿は、お元気?
[それから、ゆっくりと視線を巡らせる。
碧が捉えるのは、野菜の籠を抱えた青年]
そんな所で、どうしたのかしら?
[呼びかける声は、からかうような響きを帯びて]
ええ、そうですね。
里帰りというか……まあ、里帰りです。
[帰るだけで、二度と行かない里帰り。
積極的に口に出す話題でもないから、適当に話を濁す。
紅の女の声に、誰かまだ外に居たのかしらと首を傾げるが。
使用人に従って、素直に館の中へと足を踏み入れた]
……三年経っただけじゃ、あまり変わらないものよね。
[屋内特有の温かな空気に、安堵の息を、ひとつ]
― 一階廊下 ―
[部屋を出た墓守は階段を降りる。
使用人の応対の声と、名乗る声を耳にした]
成程。
どなたかと思えば、ゲイル様ですか。
[記憶を引き出しながら一階まで降りた。
丁度使用人の後ろに、推測した通りの客人の姿が見える]
久方振りです。
[腰を曲げて一礼した]
[赤を纏う女性──キャロルの視線がこちらを向き、ラッセルは小さく身を竦ませる。
少し後退ってしまうのも、いつものことだった]
………なん、でも。
[押し殺すような、掠れた声は相手に届いただろうか。
顎を引くような仕草をし、前髪で目元を隠した]
[濁された話題は、特に追求するでなく、そう、とだけ返す。
元より、そう深い意図があった言葉でもなく]
あらあら……相変わらずですこと。
[後ずさり、掠れた声を返す青年の様子に、ふふ、とたのしげに笑う]
それより、中に入りましょう?
風が冷たくなってきていてよ?
[足を止めていた理由は何となく察しながら、それを表に出す事はなく。
こんな言葉を投げて、館へと足を踏み入れる]
ユージーン!
ええ、こちらこそ。お久しぶりね。
[姓を呼ばれて、少々くすぐったそうに笑いながら。
記憶の中の、確かに見た顔に、安堵の笑みを深くする]
ごめんなさいね、急に尋ねてきちゃって。
村に戻ってきた以上は、おじさまの所にも顔をだしておきたいと思ったから……
せめて連絡はしておくべきだったかしら。
[礼を向けられれば、こちらも深々と礼を返した]
お変わりないようで。
[相手の深い笑みに返すように、墓守は目を細め、口角を上げた]
いいえ。
御主人は喜ばれると思いますよ。
元よりこのような場所では、連絡もし辛いでしょう。
[首を傾け、言葉を続ける]
[笑われて、更に視線が下を向く。
表情を隠したまま、眉根を寄せ、眉尻を落とした。
人と対面して話すのが苦手なのは変わらず、変えられないのだ]
…………。
[中へ、との言葉に返す言葉は出て来ない。
キャロルが中へと入ったなら、少し後にラッセルも玄関内へと入り。
そのまま玄関に居る者達をすり抜け、厨房へ向かおうと足を速めた]
あなたも、相変わらずのようね。
お墓の方はどう?
[ユージーンの表情に、笑みを崩さずに頷いた]
おじさまが喜んでくれるのなら、これ以上の事はないわ。
小うるさい小娘だと思われていないと良いのだけれど。
[ついにくすくすと笑い声を洩らす。少しだけ自嘲気味に響いたかもしれない。背後の気配には顔を上げて、小さく礼を向けた]
[玄関からの声に、改めて首をそちらに向けた]
久方振りです、オレアンダー様。
[姿を現したもう一人の客人に、先程のように腰を折り、深く一礼をする]
御帰りなさい。
[擦り抜けて行く青年には、見送りつつ声だけを投げた]
[答えがないものいつものこと、とわかっているから更に言葉を重ねる事はなく。
こちらを見、深く礼をする墓守に流れるよな一礼を返す]
お久しぶり、墓守殿。
近くまで来たから、また、寄らせてもらったわ?
そうですね。
このところ風化が酷くなっていまして。
今度石工さんに頼みに行こうかと思っています。
[墓についての問いには少しばかり眉が下がるも、表情は然程変わらなかった]
とんでもない。
このところは客人がなく、寂しがっていましたから。
[言葉に混じる自嘲の色には気付いたか否か。
墓守は静かに笑んでいるのみ]
そうでしたか。
賑やかになって、御主人も喜ばれるでしょう。
[踊り子にもまた、先程と似たような言葉を向ける。
それから少し足を進め、振り返る]
ぼくは少し外に出て来ます。
どうぞごゆっくり。
[二人の客人にまた深く礼をして、墓守は玄関へと*向かった*]
雨は仕方がないし、ここは風も強いものね。
お疲れ様。
[語彙の少なさを微かに呪いながら、ねぎらいの言葉をかけて。玄関へと向かう墓守の姿を何気なく見送った]
[埃も何もついていないのだけれど、穿いている黒いスカートを一度払って。廊下の窓から、ぼんやりと曇る空を見上げている**]
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