─ 宿屋 ─
ちょっと、客が来たわよー。
[宿の玄関先、中にいるだろう主人に向けて呼びかける声もやはり低い。
暫く待つ程の時間もなく奥から出てきた主に笑顔と共に手をひらりと振って]
はぁい、お久しぶり。
今回もお世話になるわね、小父様。
[ハートマーク付きの語尾に苦笑を返せる程度にはこの男に慣れたのだろう主人が、部屋の用意をしてくると言ってまた奥へと引っ込んでいくのを見送り。
一人になると、やっと外気から遮断された温もりに息をついた。
帰省の始まりが父親の怒鳴り声はいつものことだが、流石にこの寒さの中玄関先で30分ほども怒鳴られ続けたのは堪えた様で]
まったく。
いい加減慣れてくれても良いのにねぇ。
[11年前に帰省した時から態度の変わらない父を思い浮かべ、ほんと頑固よね、と他人事のように呟いた]