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[姿が見えなくなって、漸く手を下ろす。]
先約があるって言えばよかった。
[ふと思い出したように呟いて頬に手を宛がう。
少しだけ困ったように眦が下がっていた。
再び歩き出して、すれ違う人と挨拶を交わす。
声を掛けてくれる人々は娼妓のカルメンではなく
老尼僧の養い子としてみているのだろうと思う。]
[娘のことは、役場にこう記されている]
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■名前:イレーネ=ヴァルトベルク Irene=Waldberg
■年齢:15
■職業:編物職人志望
■経歴:ヴァルトベルク家の長女。
編物が好きで、将来はこれで生計を立てていきたいと思っており、老尼僧にも教えを乞うている。
小さな頃はお転婆で、よく父について回ったりしていた。
─────────────────────
─ 墓地→ ─
[しばらくの間、村の様子を眺めた後、短く白い息を吐き出して墓地に並ぶ墓を見遣る。
この場所もまた白に覆われ、石に刻まれた名は雪を払わねば読めぬものも多くあった。
さしあたって異変は無い。
それを確認した後、建物を一周するような進路を取り、聖堂の出入口へと向かって行った]
―聖堂への道程―
[聖堂の入口に居る二つの人影は親しげに会話しているように見えて、所詮余所者の男は何となく足を進め辛い。
覚えている限りで毎年この村に訪れているのだから、知った顔も大分増えてはいるのだけれど、それでもと]
……うー、ん。
[どうしよう、と躊躇う足が一度くるりと向きを変えさせた。
まだ頂上ではないけれど大分高い位置。
景色は良くて表情が綻んだ、ところで]
……あれ?
[誰か、登ってくるのが見えた]
― 聖堂の側 ―
[笑みを浮かべる様子にこちらも笑う]
何しろ、村で一つしかないからなぁ、雑貨屋。
忙しいと思うけど、さ。
[実際、この村でそこまで混雑することはそうないだろうけれど、とまでは言わずに。
その後で返された、この後どうするかとの答えに]
そう?それじゃ、俺、先に本返しに行ってくるよ。
廊下通るくらいなら邪魔にはならないだろうし、忘れないうちに。
[本来の用を先に済ませる旨をエルザに伝えて、軽く手を振る。
司書には途中で会えるかもしれないし、後で返却を伝えればいいかと]
また、あとで。
寒いから気をつけてな。
[そう言って、自身は図書室へ向かおうと]
― 聖堂への道 ―
あと少し…
[聖堂が大きく見えてきて、少し気が緩んだ。
新雪の上につけられた道は見た目以上に凸凹している。
その窪みに足を取られ、つんのめった身体が宙に浮いた]
…っ!
[放り出しそうになった荷物を慌てて引き寄せる。
その上で華麗に着地するには少々着込んできていたので、浮いた身は重力に引き寄せられるまま]
…………。
[真白と口付けを交わす羽目になった]
― 聖堂傍(入り口付近)→山羊小屋 ―
そうね。
忙しいけど、やりがいあるし。
[笑顔で話しながら軽く力瘤を作って。]
うん、エリィ兄ぃも気を付けてね。
[そう言葉を返して山羊小屋へと向かった。**]
─ 中庭 ─
In Sonnenlicht, um schwach hereinzukommen
Empfinde eine Strömung, wenn du fortschreitest
Verenge dich nur, sieht an
Ich hielt eine Hand zu Licht heraus
[空から天鵞絨を逸らした後、先も口ずさんでいた歌を小さく紡ぐ。
それに応えるように上がる、ピリリ、という声。
そちらへ視線をめぐらせ、手を差し伸べると、低木の枝に止まっていた蒼い羽根の小鳥が一羽、そこに飛び移ってきた]
……結局、渡り損ねたよな、お前。
[呆れたように言いながら、小さな頭を撫ぜる様子は先ほどまでとは打って変わって穏やかなもの。
もっとも、そんな様子は、誰かに声をかけられたならすぐにとけて消えるのだけれど。**]
─ →聖堂出入口付近 ─
[山羊小屋の前は通らずに聖堂の出入口へとやって来る。
足元を見れば、幾人かの足跡が残っているのが見て取れた。
今日の聖堂は盛況らしい]
…団長はまだか。
[未だ話は終わっていないようで、自衛団長の姿はそこには無かった。
大きく深く白い息を吐いて、視線を村へと続く道へ向ける。
白に覆われた道に浮かぶ、藍鼠の色。
それが毎年村を訪れる湯治客であると判断するには些か距離があった]
────……?
[ただ、来た道を戻るように駆けたのは見て取れ、マテウスは不思議そうに首を傾ぐ。
何か落し物でもしたかと、ゆっくりと一本道を降って行った]
─ 聖堂への道 ─
…何か、あったか?
[問いかけは湯治客の背へ。
しかしその肩越しに見慣れた姿を見つけると、焦げ茶の瞳が円く見開かれた]
イレーネ。
[向ける瞳は、何事かあったか、と問う色]
[サクサクと小気味いい音が足元から伝う。
冷えた手指をすり合わせて、はぁ、と息を吹きかけた。
陽が射していても寒いものは寒い。
あたためられた肌からほんのりと香るのは薔薇の精油。]
あぁ、そろそろこれも買い足さなきゃ。
帰りにでもエルザのとこに寄ってみよ。
[村唯一の雑貨屋の新しい店主の名を紡いで
聖堂へと続く坂をのぼりゆく。]
― 聖堂への道 ―
えっ、なんでパパまで。
[包みを胸に抱きしめながら、眉尻をへなりと下げた]
なんでもない。
こないだから編んでたのが出来上がったから、おばあ様にも見てもらおうと思って。
そんなに長く倒れてたわけじゃないです…。
[音もなく近づいてきたような青年に、むぅと唇を尖らせた。
反論しながら、自分でも頬に触れて確認はしてみつつ]
え…と。
…ありがとうございます。
[差し出された手にわずか躊躇してから、結局はその手を借りて立ち上がる。
そこで父に気が付いて。転んでいたのを青年に証言されると、うう、と唸りながら俯いた]
― 回廊 ―
あ、れ…?
ライヒ君?
[中庭に見つけたのは、これから向かう予定だった図書室の管理者の姿。
声は掛けてみたものの、どこか壊しがたい雰囲気にそれ以上言葉は掛けず、そのまま見つめて。
相手が気付けば、邪魔をしたかとの謝罪と共に、本を返しに来た旨を告げるだろう**]
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