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それは残念。
[首を振るえいかに、笑みを見せ、夕餉の膳へと向かいなおす。なますを一口噛み締めて、思い出したように外を見る]
坊達とあやめ嬢は、お腹をすかせてやしませんかねえ。
[頬に触れる感触に、わ、と短く声を上げる。
紅緋が、翳って、また、笑んで。
はくり、と照れ隠しのように白を齧る。
食べ終えた所に投げられた問い、それに、寄り添うていた仔うさぎを見やり]
……共に来る?
お家に帰る?
[そう、と問えば白に包まれし獣は首を傾げ。
慕うように、童の足元に擦り寄るか]
……共に、くるみたい。
叱られぬよ……ね?
[連れて行っても、と。呟く声は、やや不安げか]
そうかい、
きっと大丈夫だろうさ。
ここが天狗の隠れ里と言うのなら、
どこに居ろうが同じだろう。
それでは往こうか、
皆は既に夕餉の刻だろう。
[最後の一口飲み込めば、箸をきちんと揃え置き。
清水で喉を潤して、まず口にしたは咎めるよな声音。]
我は嬢に非ず。…えいかでよい。
[何と言うても笑み返されると思うてか、やや不躾やも知れぬ。]
[されど居ぬ人たちを気遣う様子に、寄せられし眉は和らいで、]
皆が一緒であれば、いずれ戻るであろ。
何処へもゆけはせぬのじゃから。
…童が逸れておらぬかだけが、心かかるかの。
[ただ見送ったに罪感じたか、思案気に袖を顎に触れようか。]
[大丈夫だろう、との言葉に、ほっとしたよに笑みを浮かべ]
うん、戻ろう。
ほら、ねいろも一緒に。
[にこ、と笑つ手を引いて。
共に行くよと促しつ、あやめについて、館へと。
その足元には、小さき獣が付き従い。
緑の森抜け、白き花の野をこえて。
たどり着くは、水車の側、しず、とそこにたたずむ館]
おや、旦那もお休みか。
[くすと笑って、雅詠の落とした杯を拾い。さすがに運んで行けはせずに、童子達が薄布を掛けるに任せる]
嬢と呼ばれるは、お嫌で?
では、えいか殿と、お呼びしましょうかねえ。
[相手の口調には頓着せずに、そう返し、一緒であれば、との言葉に頷いて]
ええ、一緒であれば良いですが。
ねいろ坊は、殊に、ひとりでいてはいけなさそうだ。
[小さき獣を伴いて、座敷に入れば、既に幾人かは眠りの淵]
揺藍のにいさまや、雅詠のにいさまは、もうお休み?
[誰かに投げる問い、という訳ではないものの。
ふと、こんな呟きをもらして]
[握り飯をもらえば、嬉しそうに礼を言い]
[さきまで泣いていたその目元はまだ赤く]
[着物の裾も濡れたままで、]
[見える足もまだ赤い]
[されど表情は少し明るく]
ゆこうゆこう。
[引かれるままに、ついてゆく]
[そうして辿り着いた館]
[からんころん]
[水車が鳴った]
ただいまだよ、烏のにいさま。
[ほっとしたよに呼びかける様子に、にこ、と笑んで言葉を返す。
足元の獣は、どこか落ち着かぬよに、座敷の様子を伺うか]
[それから、たどりついた座敷]
[何人かは寝ていて]
えいかねえさま、からすにいさま。
[まさか泣いていたのを、見られたなどとは思わずに]
[引かれたままの手は、まだ離さずに]
[烏が杯を拾うを見れば、琥珀は雅詠へと注がれて。
童子らが薄布掛けたなら、ふいと興味を失おう。]
さてさて、そなたもこなたも杯を空け過ぎじゃ。
…残らぬからとて、薬過ぎれば毒にもなろうに。
[己が苦手とするゆえか、御酒への批評はきつめや否や。]
殿も要らぬ。…えいかでよいというに。
[頓着せぬに吐息零すも、更に重ねられれば直せとは言わぬ。]
おや、可愛らしいお仲間を連れて帰ったねえ。
坊達、お腹は空かないか?
[笑いながら子供を見やり、えいかの言葉には、肩を竦める]
こちらはどうも、呼び捨てるのには、慣れませんのでねえ。
[ご勘弁をと、また笑う]
[殊にひとりでいてはいけないと、さり気に告げし言の葉に、]
そなた、何を…
[知っているのかと問いかけて、戻ってきた姿に声は消え、]
…ああ、無事であったか。
ならばよい。
[心の靄を飲み込むように、清水で唇潤した。]
森で会ったのだよ。
一緒に寝ていたの。
[可愛らしい、との烏の言葉に、嬉しげにこう返し。
えいかとのやり取りに、紅緋をきょとり、とさせるものの]
うん、あやめのねえさまにおにぎりをいただいたけれど。
[朝餉のあと、何も食べていないから、と。
続いた問いには、屈託なく返して]
ねいろ、夕餉、いただこう?
[用意される膳を見つつ、促して]
[大兄とねえさまの言葉が、誰を言うているのかはわからずに]
[だけれどおなかの話には]
おらぁ、あやめねえさまにいただいたけん。
[清水を飲むねえさまの言葉]
[首を傾げて]
[小兄に促されて、手をそっと離して]
おらぁ、ちょっとで良いんじゃぁ。
いっぱい食べると、動くのが大変じゃもの。
[にこりと笑う]
お二人は御酒に溺れたようじゃ。
…ならば好きにするがよい。
[投げかけられる童の言葉に、ぽつり呟いて。
烏の笑みには押し切られたか、ふいと琥珀を彼方へ逸らした。]
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