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・・・・よし。
じゃ、そういうことで。
[交渉成立、或いは報復計画も一段落したところで、グリンピースをちまちま隣の皿に移し始めた。途中で当のユリアンが広間に姿を見せたかも知れないが、それには気付かず。
同時ににんじんや他の野菜を地道に処理しながら、女性の声にふと手を止める。]
こんばんは・・・
流石、シスターさんはすごいなぁ。
[何が流石なのかはさておき、何の躊躇も無くグリンピースを口に運ぶナターリエに1人感心してみたりするのだった。]
[奥の突き当たり、は倉庫のようだったが、一歩踏み出した瞬間に埃が舞い上がったから、中には入らなかった。やたらと薄暗かったし。
……しかし台所だけならばともかく、風呂場に寝室まであるとは、集会所というより宿泊施設だ。避難所用だろうか、あるいは――]
収容所みたい。なんて。
[呟きをかき消そうと、思い切り開いた扉の先は、ガラリと広かった。多分、娯楽室だろう。肝心の用具は、あの倉庫の中か。
多少安心したが、一人でいても仕方のない場所だ。次に行くにした]
[交渉成立の結果、無事にニンジンは駆逐され、ほっと一息。グリンピースが増える分には何の問題もないので、食事を進めていく。
養父にも、子供っぽいのなんのと言われてきたが、これだけはどうにもならない訳だから仕方ない。
……勿論、単なる食わず嫌いなのはわかっていたりするのだが]
さて、と……。
しかし、見回りにでれねぇと……する事がない……。
[どこか感心したような声に首を傾げて]
教会では好き嫌いはいえませんもの。
それに、わたくしにも嫌いなものはありますから、無理に、とはいえません。
[そう言ってにっこりと微笑む]
[置いてあった手斧を振り上げて薪に打ち下ろす。その作業を何度も繰り返す
カコーン。カコーン。と心地よい音を幾度も響かせて薪を割り、手で軽く汗を拭う]
ふぅ…やっと慣れてきた…力任せじゃ駄目ってことか
[また一つ薪を立てて、手斧を振り上げ打ち下ろせば。カコーンという心地よい音がまた一つ
最初はてこずったが、綺麗に割れると存外気持ちいいものである]
[真っ先に目に入ったのは、黒塗りのピアノ。
他にもいくらかの楽器が保管されているのが見えた。が、お世辞にも手入れがされているとは思えない]
へえ。
[鍵盤の蓋に手をかけ、……跡が残った。薄く積もった埃のせいで]
……楽器って、繊細なのに。
[母に半ば無理矢理習わされたから、心得はあった。
雑巾を取りに一度部屋を出て、ピアノの掃除と、調律を行う。
綺麗になった白い鍵盤を、ゆっくり押す]
[ポーン、][音色は思ったより澄んでいた]
え。聖書、って。
[ナターリエから投げられた言葉に、思わずきょとり、とする]
あ、ええと。
一応、家から何冊か本は持ってきたんで……。
[だから、大丈夫、と言いかけて。その言葉は、ふと途切れる]
でも、うん。気が向いたら、お借りします。
[いつもなら、そんな物に触れようとは思わないのだけれど。
ふと、こんな言葉が口をついたのは、きっと。
唐突に閃いた、緋色の意識から逃れたいという。
そんな無意識のなせる業。
決して、逃れられないと。
意識のどこかは感じているのに]
そっかぁ。
たしかに、教会で好き嫌いしてたら神さまに怒られそうですね・・・
[返ってきた返答に頷きながら、取り敢えず無事に緑の脅威は去った様。
聖書を勧めるナターリエとアーベルを交互に見る。]
聖書。
アベにぃと聖書か・・・なーんか合わないな。
[ぽつりと余計な一言。アーベルの返答には意外そうに瞬いた。]
[パチリと目を開けた。
ベッドにもたれかかったまま暫く寝ていたようで]
…ピアノ?
[目覚まし時計になったのは、どこかで響いた綺麗な音]
全然弾いてないな…。
[ツキリと小さな頭痛が走った。
ちゃんと薬を飲んだのに、と眉を顰める。
けれど動けないほどではなかったから…音に誘われ部屋を出た]
[どこからか響いた音。
それに、やや首を傾げた所に聞こえたリディの言葉に]
……お前、こないだも教会と俺が結びつかない、とか言ってたけど。
人を、何だと思ってんだよ……?
[何となく、ジト目になっていたかも知れない]
[音色に、心が疼いた。
……室内でピアノを弾くくらいなら、自衛団だって、とやかく言わないだろう。
椅子に腰かけ、モノトーンの上に手を広げる。
指が細くて長いから向いている、って言われたっけ。ピアノにも、こまやかな作業にも]
(久しぶりだからなあ)
[不安とは裏腹に、指先は自然と動いた。
まだ陽が世界を照らしているにも関わらず、紡ぎだすのは、高くやわらかで、優しくも淋しげな――月のひかりを宿した旋律]
あらあら。
二人とも、交渉上手なのね。
[食卓でリディとアーベルのトレードを見て笑っている]
[続いて聞こえてきたピアノの音に耳を澄ませる]
気が向いたら言って下さいね?
[どこか嬉しそうに笑って、リディの方を見て]
教会では節約が美徳ですから…食べ物を残すのはいけないことなんですよ。
でも、それでも食べられないものは無理、だと思いますけれど……。
[嫌いなものが並んだ時を思い出し、最後の言葉は溜息混じりで]
中々、大変なんですよね。残さないのも。
[最初は怪訝そうに眺められていたが、薪を割っている姿を見て自衛団員の監視は多少なりとも緩んだ。とはいっても逃げる気はないのでありがたみといえば、煩わしさが消えた程度であったわけだが、見ていたというのはそちらだけではなく]
む…
[軽く汗を拭い、休息するようにして、集会所まで足を向けてきた、雑魚ではない自衛団員を目に留める]
アーベルさんは教会にはよくいらっしゃるんですよ?
[助け舟、と言うわけではないけれどそう言って]
……あら?この音は?
[どこからとも泣く聞こえる音に耳を傾ける]
ええ、その時は。
[嬉しげなナターリエに、一つ頷いて。
聴こえて来る旋律に、耳を傾ける]
……ピアノ……だよな、これ。
[なんでここでこんな音が、と。小さく呟いて]
[響く旋律は、緋色の意識にも等しく響く。
柔らかな旋律。
引き寄せられるよな感覚は、それが月を思わせるから?]
……ダメだ……。
[引かれては、惹かれたら。
壊れてしまう、壊してしまう。
藍玉の零す光と、頭の芯の痛みが。
こう囁きながら、奥底で疼くモノを押さえ込もうとする]
[用がある相手であるが、それは向こうもあったのか。それとも単なる世間話か
歩いてくるギュンターを見て、手斧を置いて]
これはこれは自衛団長殿。傭兵なんぞになんのようで?
「…ふむ。大人しくしているようだな」
…ふん…仕方なくだ
[意図するつもりもなかったが、ギュンターに向ける言葉は自然と生来の重低音の声色は凄み帯びている]
[流れてくる旋律。
どこかぼんやりと、ふらふらと廊下を歩く]
Mondschein…
[静謐な音は月の光のように流れてくる]
……壊したく……ない……。
[それは、『アーベル』の最も強い願い。
でも]
……ここから……出たい……。
[多少、意味合いに違いはあれど。
それは、『アーベル』とヴィント、双方に共通する、強い、強い願い]
―二階・個室―
[男の視界にマテウスが薪割りをしている様子が見えた。やがて近づいてきた自衛団長の姿も。だが、その声は遠すぎて聞こえない]
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