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うん、ロット。
まだかえってこないの。はやくかえってくるといいのに。
[むぅっと口を尖らせるように。][その声色は寂しさを含んで。]
ヴィントのあるんだ、たくさんたくさん。
おゆきいがいに、すきなものなぁに?
むかしのこと。むかしばなし?どんなおはなしなの?
[質問と他意のないお願いは止る事を知らない。][絵本をせがむ子供のように。]
たくさんたいせつ…。
[表情が見えるのならば。][瞬きを何度も繰り返すような、そんな仕草だったろう。]
[初めて聞くそれを、幼子は偉く気に入ったようで。]
たくさんたいせつ、すてきだね。
たくさんたくさん、たいせつなもの。
私にもあるかな?
[言いながら意識はぴたりと止まり。][うーんと唸りながら、何やら考え込んでいる。]
[ようやく、少しは静かになっただろうか。]
かんけーないじゃん。
[アーベルが足を止めるのも構わない様子で、丁度、建物の角を曲がろうとしたところだった。
羽音はしっかりと耳に届く。]
?
・・・・・・
[振り返ると、鳥の群れが飛び立つところだった。
意図せず、右手が左肩に触れた。]
そうか。早く帰ってくるといいな。
[それが帰らぬものの名である事など知らぬまま、こんなコエを返し]
大切なのは、一緒にいるモノ……。
[小さな呟き。
それは、獣としては異質な思考。
大切と見なしているのは、本来、糧としてのみ見なすべき人の子たち。
それは『アーベル』の抵抗か、母の祈りの最後の抵抗か]
[歴史書の内容などどう説明したものか、と悩んだ矢先の沈黙にほっとしつつ]
……あるだろ、きっと。
[最後の疑問に、小さなコエを返す]
あ、ぁ…びっくりした。
脅かしたら駄目だよ?
[小さく笑んで。][肩に乗る黒い鳥の羽根をそっと撫でてやる。]
[外を見れば、僅かに色の変わった空が見えた。][もうこんな時間になったんだと思いながら。]
…いつになったら、帰れるのかな。
[ここはさほど窮屈ではないが。][そういえば薬草を卸す日が近かった。]
[今回は間に合わないかもしれない。][それを伝える事が出来ない事を、申し訳なく思う。]
[沈んだ自分を慰めるように、ザフィーアが長い髪を一房咥え。]
[玩具にして遊ぶのを、小さく嗜めながら。][笑いながら。][烏と指で戯れる。]
[リディの反論は届いていたけれど。意識は、唐突に飛び立った鳥の群れへと]
……やな感じだな……。
森が、落ち着いてない……。
[ぽつり、と呟いて、歩き出し。
リディが肩を押さえている様子に、微か、眉を寄せるものの。
常と変わらぬ口調で中に入ろう、と促す。
広間に戻ったなら、ハインリヒのホットワインに相伴して身体を温めつつ*一息ついて*]
[森のざわめきは何かを兆しているかの如く。
人の心には不安を呼び起こすやも知れぬけれど。
緋色の意識の蒼の風は、不安よりも。
コトバにできない昂揚を感じていて。
それが、月に惹かれる性の目覚めの近づきとは、ついぞ*気づかぬままに*]
[肩に添えた手には自分で気付いて、慌てたように離した。
その後の言葉には素直に頷き、中へと入る。]
ただいま。
あー、あったかいっ。
[広間に入る頃にはすっかり何時もの調子で、暖炉前で黒鳥と戯れるブリジットに抱きつこうか。
冷気は未だ身に纏っている。]
たいせつなもの、いっしょにいるもの。
いっしょじゃないと、たいせつじゃない?
[尋ねるように聞いたが、きっとという言葉にはくるくると。]
そうかなぁ?あるといいなぁ。
なんだろう、たいせつなもの…とってもとっても、たいせつなもの…。
[幼子の意識は、考える事に夢中になって。][やがて眠るようにゆっくりと消えてゆくだろう。]
きゃ…!
[突然冷えきったものに抱きつかれて、驚いて小さな悲鳴を上げて。]
あ、あ…リディ。びっくりした…。
[肩に留まっていた烏は勘鋭く冷たい洗礼から羽ばたいて逃げだし、近くの椅子の背もたれへと止まり木を移した。]
[ちょっとだけずるいなぁと、恨めしそうにザフィーアを見て。][視線はくるみ色の少女へと。]
リディ、冷た…大丈夫?ずいぶん外にいたみたいだけど。
[言いながら、暖炉の前を譲り。][何か温かいものはと周囲を見回す。]
[扉を開けた時、リディとすれ違った]
[彼女にも届いていないだろう]
お気をつけて、ギュンターさん
[彼と別れた時のその言葉]
外、寒いですよ。
あったかくしてくださいね
[そう言って二階に上がったのだった]
[まさかその後、雪に転がるなど思ってもいなかった。当然である]
―二階・部屋―
ふぅ、ここらへんでしょうかね。
[バッグの中を漁り――というか、ベッドの上にぶちまけた]
[その中から取り出した銀細工]
[二対の翅を持つ天使]
ふ、ふふ。
いるはずのないもの、あるはずのないものですかね。
いやぁ。
…誰が宴の始まりになるんでしょうねぇ?
[ふぃと戻ってきた意識が一つ。]
[丁度幼子が「ロットとみんなと、遊べるといいね」と、ヴィントに話しかけていたところを聞いて。][ふぅと、諦めたような溜息を。]
ロットは死んだ兄さんの名前サ。帰ってくる事はないよ。
…ベネディクト、って言ゃ、ヴィントの兄さんにも分かるかね。
[それはブリジットの兄の名前。][アベルは覚えているだろうか。][10年も前に死んだ森の子を。]
ライン嬢ちゃんには『死ぬ事』が分かっちゃいないのサ。楽しい事しか知ろうとしない。
だから可愛いんだけどサ。
[幼子はもう一人の自分の声に瞬くだけだろう。]
[それらを青い風に告げ、一度ヴィントが注視しているものに気を止めたが。]
[どちらかといえば『人』に近い意識を持つ明るい声はすぐに興味を失い。]
[少し離れた所で、赤い世界に留まったままの銀へと近づいて。]
旦那、やる事ぁやってきましたヨ。
後は結果を御観賞下さいな、っと。
[必要な事だけ言って、明るい声は沈黙し、消えた。]
―少し前・広間―
ジットのお薬には、私も昨日お世話になったし。
知識だけじゃない何かがジットにはあると思う。
[それは体の様子を的確に見抜く目であるとか、相手の事を考えながら何かを用意する手際であるとかを指しているのだが。
本人の葛藤にはやはり気付かぬままにそう言って]
…二人とも可愛いし、魅力的、だと思うな。
[僅か二年の差。
それでも年上の少女達は彼女の目に憧れとして映る。
姉に向けるような僅かな思慕を伴って]
…何かすること、ないのかな。
[出てゆく人々を見送り、皆の食事が済むと大皿も一緒に洗った。やはり人数がいると食事は綺麗に消えてゆく。
ノーラが掃除をしているのに気が付けば、手伝いを*申し出てみた*]
しかし、こんなにたくさん持っていて良かった良かった。
下手に少ないと、助けてくれた皆さんにあげられませんでしたもんねぇ。
[手当てをしてくれた少女と、繕いをしてくれた女性と]
[二つ分のそれを手にしてもまだ余りは多く]
いっそ女性に配ってしまいましょうかねぇ。
いや、持っていても、問題はないですか。
[残りはすべて元の袋に戻した]
さぁて。
――どこまで観賞していましょう?
ま、手出しは禁物、ですかねぇ。口出しもまた
あは、びっくりした?
[頬擦りして離す。勿論そんな意図はないけれど、暖かい場所にいたブリジットには少し嫌がらせの様だったかも知れない。]
ありがと。
うん、ちょっと遊んできたんだ。
冷たくて楽しかったよ。
[位置を譲られて礼を言う。マフラーを解きコートを脱ぎながら、言葉には答えた。]
うん。わ、リディ。
[頬を擦り寄られ。][そんな他人との触れ合いなど、ずいぶん昔にして久しく。]
[冷たい頬の、その奥にある人の温もりに、戸惑い、そして、どこか嬉しく感じながら。]
そっか、よかったね。
[自衛団長から言われた言葉にショックを受けていたり。][昨日も何か、青い痣の事で表情が暗かったことを思い出し。]
[気晴らしが出来た事をそう素直に思いながら。]
アベルと一緒に?そういえば、雪好きみたいだし。
[似たもの同士?という単語が頭をよぎったり。]
[温かいものをと探せば、ふと鼻腔を擽るワインとシナモンと蜂蜜、そして少しのレモンの香り。]
[少し前にハインリヒが用意したそれに、今更気づいて。][立っていた彼にも軽く会釈をしながら。]
リディ、ホットワインって飲める?
普通のワインよりは薄まってるから、そんなに酔う事はないと思うけど。
[体は温まるよといいながら。]
そうか。
[明るい声にはそれだけ答え。][銀の意識はじっとしたまま。]
[結果を。][餌を。][仇なすものを。][見定めようと。][表を見据えたまま。]
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