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―二階・個室―
[陽が暮れる。ひかりが遠くなってゆく。
蒼から朱へと空は変わり、次第に、闇に包まれてゆく]
て!
[ぼやけた視界のせいで、鑢が指先を霞めた。大した痛みでもないのに、茫としていたものだから、小さく声があがった]
……今日は終わりにしとこ。
[手のひらの飾りは、すっかり原形を留めていない――かのように映る。
実際には、六つの花弁を持った、雪の華を模しているのだが]
[失くさないよう、小さな箱へしっかりとしまって、袋に入れておく。大きく、伸びをした]
一緒に、っていうか上から降ってきたんだよ。ベルにぃ。
怪我はしてないみたいだけど。
[何処か不満そうに言う言葉は、普通に聞けば意味を捉えかねたかも知れない。
良かったね、という言葉には素直に頷いた。]
ん、ワイン?飲んだことないや。
おいしいのかなぁ。
[首を傾げ、ハインリヒに気付けば手を振る。]
じゃ、もらってみよっかな。
[ブリジットの言葉にも後押しされたか、*頷いた。*]
上から…って、飛び降りたんだ。
[言ってちらりとアベルを睨む。][視線は危ないよと、無言で訴えて。]
[怪我が無いという言葉を聞いたので、すぐに眼差しは元に戻ったが。]
[溜息をつけば、肩を竦めごめんと無言で謝られた。][もう一度釘刺すように睨み。]
うーん…どうだろう。
私は気付けに使うけど、ワインだけだとちょっと、苦いかも。
ああ、でもホットワインは甘くしてあるから。
[飲んだ事が無い、には一抹の不安を覚えたが。]
[飲むといわれたので、ハインリヒがつくったそのままを注ぎ分け、彼女に渡した。]
やほー。
[ひらひら、室内の面々へと手を振って、挨拶]
[甘みを含んだ香りが薄く漂う。
皆は手にカップを抱いているようだった]
何飲んでるの?
あったかそー。
[人の少ない少女の近くからは、大した声は聞こえず。]
[低い雑音は代わりに、ゆっくりと時間をかけて燃え盛る小袋と、そこから立ち上るほんの僅か赤みを帯びた煙を見つめていた。]
[犬のように鼻がよければ。][おそらくそれが血に似た甘い匂いを発している事に気づくだろう。]
[時間をかけて、ゆっくりと。][煙と共に霧散するそれは、やがて森を越え山まで届き。][そしてゆっくりと脳を高揚させてゆくだろう。]
…燃えろ。そしてその匂いにつられて集え。
奴らは内を警戒しているだけで、外への警戒は薄い。
人の肉はさぞ美味かろう。
集え、集え…。
[低く低く、雑音は歌のように囁いた。]
こんにちは…そろそろこんばんはかな。
[外を見ればすっかり日は落ちて。][降りてきたユリアンに軽く会釈する。]
[手を振ろうとしたが、自分もホットワインを一つ両手でもっていたのでそれは出来ずに。]
ホットワインだよ。ユリアンも飲む?
[まだ残っている暖かな赤いそれを指差し、いるのなら注ぎ分けようかと問いかける。]
もうそんな時間だね。
もっと冷え込みそ。
[両腕を自分の身体に回して、寒い寒い、という仕草を作ってみせた]
へえ。
[歩み寄り、上から覗き込むようにして見る。
白の器は、赤、と表現するには濃厚な、黒にも近い色彩で満たされていた]
珍しい。
まだあるなら、貰おっかな。
あまり飲みすぎると、酔っちゃいそうだけれど。
[椅子の背凭れに停まっていたザフィーアが、興味があるのか、真似るように覗き込んでいる。さすがに、鴉に飲ませるわけにはいかないだろうが]
そうだね。もう少し火、強くしようか?
[寒い寒いという仕草に笑いながら。][さり気なく、右腕の動きは注視する。]
[特に強張ったような事はなかったので安心して。][昼につけたばかりだから、まだ取り替えなくていいかとも思いながら。]
[一緒になって覗き込むザフィーアには、駄目だよと撫で宥め。]
[所望されるままホットワインを注ぎ分け渡した。]
そうだね、夕飯もまだだし…これくらいで。
[注がれた量は自分とリディと同じ程度。カップに丁度半分程度。]
─集会場・広間─
[リディとブリジットのじゃれ合いをのんびりと眺めつつ。
飛び降りの話に、諌める視線を向けられても、肩を竦めて返すのみで。
実際の所、二階程度の高さからの飛び降りは、苦でもない……今回は、着地が色々とアレだったが]
ザフィーア……お前はやめとけ。
[やって来たユリアンによ、と手を振ってから、器の中を覗き込むカラスに苦笑しつつ声をかける。
相棒はなんでー? とでも言いたげに、クァ、と短く鳴いた]
[ブリジットの手前まで緩く広げた手を伸ばして、ちょうだい、というように。
指先に触れたあたたかさを辿って、カップを受け取る]
ありがとう。
[腕は強く触れない限り、大丈夫そうだった。今のところは]
[湯気だけで暖まりそうな心地になりつつ、定位置となりかけている、暖炉の前に座り込んだ]
ああ、夕飯。どうしよっか。
[陽気な声から伝えられた名には、覚えがあった。
森での希少な遊び仲間。病死、と伝えられていた、けれど]
……そういう事。
[小さな呟き。
彼もまた、緋色の意識に生きる存在だったのか、と理解して。
幼い意識の事については何も言わずに。
蒼の風はしばし、意識を休める。
それは、内なる昂揚感を持て余しての事か]
ん……コレ……ナニ?
[落ち着いた広間。
暖炉から漂う香りに気づいて、怪訝そうなコエを零す。
自身も昂揚しているためか。
それは妙に気にかかった]
[暖炉の前に陣取るユリアンを見送り。]
夕飯…どうしよう。私作ろうか?今日は私、まだ何もしていないし。
[ユリアンとアベルにそう尋ねながら。][自分もカップに少し口をつけた。]
[苦甘い赤い水を喉に入れれば、体の内側が温かくなってくる。]
[ほぅと息をつきながら。]
[ホットワインを分け合う若者達を見ながら、男は台所の片隅でパンを食べ終えて軽く手をはたく]
さて、ちょいと一服するかな。
[誰にともなくそう呟いて、勝手口から外に出た]
……夕飯……かぁ。
どうするか。別に、また作っても構わんけど。
[ユリアンの言葉に、手にしたカップを手の中でくるりと回しつつ言って]
まあ、作りたいのが率先して作るのが、一番いいっちゃいいかな?
[ブリジットに答えて、カップの中身を一口、すする]
毎度俺ばっかりじゃ、飽きられるかも知れんしね。
貴様にも流石に分かるか。
[興味示した青い意識に。][銀の低い雑音は応える。]
ロットが考えた、薬草を組み合わせた特性の『香』のようなだ。…制度を上げたのは我等だが。
調合割合によって効き目は多少変わってくるが。
今のコレは、そう丁度、満月が高く昇る頃に。
この建物へと、近隣の山まで住まう、狼の群れを呼ぶ。
[にぃと笑いながら。][そんな事を告げた。]
作りたいの、って。
そんなお料理好き、いるのかな。
ああ、僕はパス。
……ほら、怪我悪化、とか怒られたら嫌だし。
[今だと色々ミスしそう、というのが本当の理由だが]
[カップを口につけ、ゆっくりと傾ける。
喉を過ぎる液体は、自身の熱とその成分とで、体内からあたためていく。器に触れている手も、あたたかい]
[建物の外はすでに闇色に包まれ、月明かりに照らされた大地だけが冴え冴えと白い]
今夜は満月か……
[白い吐息と一緒に紫煙を吐き出して、男は呟いた]
うん、じゃぁそうする。
[とりあえず、了承がとれたので頷いて。]
…何か食べたいものある?食材は色々揃ってたから、何でも作れそうだけど。
何もなければ、私が食べたいもの、勝手に作っちゃうよ?
[広間にいる人らへと言いながら、台所へと移り。]
[途中ノーラとイレーネと会えば、手伝いを申し出られたのでお願いして。]
狼を……呼ぶ?
[銀の意識からの答えに、蒼の風は訝るようなコエを上げ]
そんなコトして、どうするんだよ。
今、そんなモノが来たら……。
[不意に、コエが途切れる]
ヤツらを。狙わせる……?
[間を置いて続けられたコエは、問うと言うよりは確かめるような響きを帯びて]
[言っているそばから、ブリジットの快諾。
心配の必要はなくなったらしい]
いいよ、好きなので。
冷麺とか言い出さなかったら。
人参もグリンピースも平気だし。
[ずずず、][ちょっと意地汚くワインを啜った]
パス以前に、お前がやるなら俺がやるっつーの。
[ユリアンにはきっちり突っ込んでおいた。
……別に、ニンジンを警戒しているわけではない。多分]
あー、メニューはブリスに任すよ。
手伝いは……大丈夫そうか。
[一度は立ち上がりかけるものの、ブリジットが女性陣に声をかける様子にまた、椅子に戻る]
[銀色は、答えない。][答えるまでも無い故に。]
[代わりに低い、低い笑いゴエが。][赤い世界に、微かに木霊し。]
うん、できることがある方が嬉しいの。
[食事の支度をするというブリジットにも手伝いを願い出て。
了解が得られればそう言って小さく笑った]
何を作る?
[ブリジットの好物って何だろうと、少し興味津々]
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