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[少女は、見慣れぬ部屋で目を覚ました。いつもより高い天井、少し広いベッド。森の中とは違う空気。しばらく首を傾げて、ああそうだったと思い出す。今日から祭りが終わるまで、街の宿屋に泊まっておいでと祖父に言われたのだ。毎夜人の数倍の時間をかけて夜道を行き来する孫娘を心配しての配慮だった]
明日になったら、おじいちゃんに何かお菓子を買っていこう。
[お下げを編み直しながら、少女は呟く。森番の仕事に祭りの休暇は無く、祖父が会場にやってくることはない。けれど、土産話をしながら一緒にお茶を飲めば、きっと喜んでくれるだろう。けれど、それは明日の話。今日は1日、祭りを楽しむつもりだった]
[つやつやとした赤い髪を念入りに編んで、少女は鏡を覗き込む]
がんばるのよミリィ、今日こそきっと。
[鏡の中の少女は、僅かに頬を染めている。スカートについた大きなポケットの中には、街でベビーシッターのアルバイトをして貯めた少女の全財産を入れた財布が入っている。どうしても、このお金で買いたいものが、少女にはあった]
ぉぉ。頑張って、ミリィ。
多分、ユリアンのことだよね?
応援してるよ…
あたしは…みんなの様子を見てにこにこ。みたいな。感じ?
……戻ろう。
[子供は、遂に諦めた。
諦めたから、踵を返した。
踵を返したら、なんと迷路を脱出した。]
……なんだろう、これ。
[少し首を傾げて、酒場へ向かうことにした。
出られない理由なんて、まったく浮かばなかった。]
あら?
こんにちは、椋鳥さん、こんなに寒いのに餌を探しに来たの?
そうだ、クッキーがあるわ。食べる?
[真っすぐ祭りの広場に着くのは、やはり少女には*無理らしい*]
─工房前─
[日々、賑やかさを増す通りの一画。
そこに、広場の楽団の奏でるものとはまた違った音色が響いている。
音の源は、宝石工房の前。
ランプの灯りに煌めく細工の並んだ台のすぐ隣。
木箱の上に腰掛けた青年が紡ぐ、オカリナの音色が澄んだ空気に響いて行く]
[音色に引かれた観光客が足を止め、次いで、煌めきに目を止める。
声がかけられれば音色は止まり、二言、三言言葉が交わされた後。
時に、煌めきは足を止めた者の手に渡り。
時に、それらは全く動く事無く。
いずれにしろ、ランプの灯火の下で、キラキラと幻想的な光の粒子をこぼして行く]
ふぅっ……まーまー、かね?
[元より、大した売り上げは期待してはいないけれど。
それでも、造り上げた者たちが誰かに喜ばれるのが嬉しくて、つい、笑みが浮かんだ]
……にしても、なー。
[しかしてやはり。
『今の状況』に対する頭痛は尽きない訳である。
オカリナを吹いている間は意識を集中し、力の流れを辿っているのだが、どう考えても状況がよろしくない。
ていうか、自分的にはかなりヤバイ]
『王も、今回は本気かなー?』
……冗談になってねーよ、それ。
[相棒の突っ込みに、ため息がもれる]
…はぁ…
[小さく溜め息をついた。
外の賑わいは祭りの気分。
自身も心がはずむ…はず、だったのだが。
昨日の違和感、そして、今朝方見た夢。
夢にしてはハッキリと覚えていて…しかも、とてもじゃないが、良い夢とは思えなかった]
…
[ランプを眺めていく人々には微かに笑みを携え…
しかし、心内では何とも言えない…何かがあった]
甘くて、おいしくて、しあわせ。
[子供はにこにこ笑って、
一袋、買った。五つ、入ってる。
ちょっと考えて、もう一袋。
それからもうちょっと考えて、一つ、別に。]
……幸せなきもち。
……だぁいたい、俺がおんでて来たのだって、誰のせいだと思ってんだか、あのバカ親父。
てめーが情けねぇからだろっての、ったく……。
『フェーン……』
なんだよ?
『……同じ血が流れてるんだよ、フェーンにも』
……言わんでくれ。
[その突っ込みは、かなり凹む]
[不思議なことは、夢だけには留まらない。
朝起きてみると、部屋の中の埃や…片づけようと思っていた工房のガラス屑が綺麗サッパリ無くなっていたのだ。
流石に少し不安になって、工房の中、店の中を調べたが…何も、盗まれているモノはなくて。
不思議なこともあるモノだと、小さく思ったのだが…]
…はい、ありがとう…
[指差されたランプを手に取ると、代金を受けとり…明るい緑を基調としたランプは子供の手に渡った]
…
[しかし、何かがおかしい。
何がおかしいとは言えないのだが…
むぅ。小さく唸り、視線を落とす]
はーいはいはい、参加する子はこっちへ並んでねー?
[例の派手な法被を着て、ご丁寧にもメガホンまで持たされ、ゲームイベントの参加者誘導中。
雪玉を投げて的に当たれば賞品がもらえたりとかするらしい。]
[とことこ、とてとて。
子供は大通りを歩いている。
右手に、二つの飴入り袋。
左手に、一つの飴入り袋。
と、目の前の大きな声。
きょとん、とした顔の子供。]
参加……?
[なんだろうと首を傾げた子供は、
酒場でふられたシーンを思い出した。
……なんとなく。]
[時が過ぎるにつれ、人の数が増えていく。
夜に近づくにつれ、灯の数が増えていく]
[人の声に、楽団の演奏が重ねられていき、活気付く祭り。
予定では夕餉の前には帰る筈だったのに、母はもっと見て行きたいのだと、子供のような事を言って。仕方ないと言ったふうに、彼はそれに付き合っていた。どちらが子なのか、解らない]
[その中を透明な旋律が通り過ぎて、ふ、と母が足を止めた。
彼女の視線の先を追えば、石細工が煌めきを放っていた]
『なんだか、変なのよ、おかしいの』
『不思議なことが起こるのよ、起こっているの』
[椋鳥達の声が少女の心に届く。少女は細かく砕いたクッキーを小さな友達に振るまいながら、首を傾げる]
「不思議なこと?それは、もしかして妖精さんに関係のあること?」
[ちりちりと胸に転がるのは不安の鈴の音]
『妖精だね、妖精だよ』
『これはきっと、妖精王の…』
[その時、急に吹いた強い風に、椋鳥達は一斉に飛び立っていく]
て、何だよ?
[唐突な事にきょとん、としつつ問えば、相棒はきゅ、と声を上げて一点をじい、と。
視線の先には、金髪の少年の姿]
……おま、な。
あんま根に持つな、な?
[苦笑しつつ、小さな頭を撫で。
木箱から立ち上がって、細工を見つめる女性に軽く、一礼を]
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