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[納屋の鍵を開け、壷の中身を幾つか見る。
出来に頷き、数個外へと運び出した所で活きのいい羽音が聞こえた。]
………来たか。
[遅くなったと恐縮する青年に首を振り、残りの壷を指す。]
あそこの壷を出して、肉を窯に並べて行ってくれ。
燻し用の木片はあの棚の上だ。量は覚えているな?
……ああ、時間は前と同じでいい。
そう。
何が好いのか、私には解らないけれど。
[声に、流れの先へと顔を向ける。
ぽたり、動きにつれて滴が零れた]
見たことがなかったから。
向こうでも、此方でも。
陽の光の下のほうが、よく見えたかもしれない。
夜に見るより、よく見えるのは当然だろうな
[愉しそうな声で。]
あれの中に眠らせ、清めると。
虚はすなおに、清められると思うか?
そう、だから、残念。
[風がそよぐ。
滴を拭い取り、立ち上がった]
既に、捕らわれているのならば、無理ではないかな。
己の存在が失われるのを易々と受け入れる者はいない。
だろうな
巫女殿が言うからには、ほぼ確実にそうと言える。
[木の枝から、地面へと降りる。
狐の背から、羽根は隠れた。]
もしお前の親しい者が、そうなっていたら――どうする?
[微かな音、
地に足を着けた男へと向く。
金の双眸を見つめる金糸雀色の瞳。
表情の隠されたものと、浮かべないものと]
親しいと言える者は、
今の私にはいないから――仮定の仮定になる。
けれど、眠らせるのだろう。
それが恐らくは最善の策なのだから。
[経過を省いた、結論]
― 自宅ベランダ ―
[ 淡く光る金色の羽根を広げ、いつものよう海を臨む。]
さて、出不精の私としてはこのまま部屋に篭りたいですが。
あの話を聞いたからには悩んでしまいますわね。
[ 昨日のことを思い出す。
リディアが遊びに行くだとか、遊びに来るだとか。
そんな事を言っていたことを思い出した。
彼女たちのことを思うと堕天尸の情報を探るべきか。]
………全く、本当に困ったものです。
[ そう言って羽根を広げ飛び立つ。
連日の外出は久しぶりであった。]
いない?
[彼女のこたえに、大業におどろいた声をあげる。]
なるほど、親しくないならなおさらか。
やはり面白いな
――拾われ者。
そういえばお前の名前はなんだ?
否。
親しいならば、尚更。
[演技めいた言いように返した短い声は、
奥底に僅かな揺らぎを抱いて]
エリカ。
[姓を名乗ることはなく。
常のように、名のみを渡した]
[小気味よい言葉を返す青年に頷き、残りの作業を任せる。
自身は約束通り渡された果実を手に一度小屋に戻った。]
……よく熟しているな。
[一口齧り、目を細める。
赤の実は一人暮らしの男に十分な数だった。途中で減っていても尚、その好意を示す量に小さく苦笑を零した程に。]
覚えも手際もいい。いいヤツ、なんだが。
………少し優しすぎる。残念だ。
[疾風の可愛がり様を思い出し、小さく呟く。
弟子にしたくとも、あの優しさは獣を狩る生業には向かないだろうと。]
……まあ、ラスには家の仕事も在る。元より無理だろうがな。
…………………俺も歳を取ったか。
[喉の奥を低く鳴らし、実の幾つかを手に外へ出る。
弁当代わりにベルトポーチへ入れ、戸締りをして声を投げた。]
しばらく出てくる。
付きっ切りでなくてもいいが、あまり長く目を離すな。
[簡単な指示を出し、返事の前に岩を蹴る。
海風を捕らえた翼が大きく広がり、紫紺の影を白に落とした。]
―自室―
あー…ホントにガキは良いよなあ…。今頃リディちゃんと一緒なのかなぁ。
[昨日の事を思い返し、だらし無くごろごろと転がる。
カレンには見詰められていた気もするのだが、その理由も聞けぬまま別れた。
その後はまた一人むなしく、屋敷まで歩くはめとなり、やや疲れて眠っていたわけだが]
…今日は、どうするかな。
[ 空は青く、海は白い――――。]
当たり前の風景…なんですけどもね。
今はこんなにも疎ましい。
[ 己の左は、それを捉えることはないのだが。]
ふふっ…。嗚呼、いけませんわね。
[ 羽根が仄かに暗く光る。
術の力が弱いのは流れる血、故か。]
[声なく思考に陥ったのは、一瞬]
初めて――
ああ、確かに、初めてだと言える。
けれどそれはあくまで仮定の仮定を重ねた話、
仮定を事実に変えなければ、私がそうなることもない。
[一歩、足を踏み出す。
斜め前、男近づくとも離れるとも言えない方向]
風を紡いで糸にしよ かろき衣を織るために
焔を紡いで糸にしよ 勇まし飾りを編むために
水を紡いで糸にしよ 勲支える智の士のために
金色鮮やか陽の衣 巫女姫支える武の御方へ
銀色静きや月の衣 巫女姫護れる術の君へ
闇夜照らすは紫紺の煌めき 標なすのは呪の司
青空飾るは真白の煌めき 導かれるのは命の司
我ら住まいし無限なるそら
それを支えし七の将
束ねる我らが鳳凰の姫
優しき巫女姫に捧ぐため
虹を紡いで糸にしよ
虹の衣を織り上げよ……
[こきりと首を鳴らし、屋敷の中を歩き回る。
声をかけて来る者に出会わぬまま一巡りし、その足を外へと向けた]
虚に、堕天尸か…。んな大変な事が起きてるようには見えないんだけどねぇ。
…それで、ローディちゃんが凹んでたら、もしかして今が慰めるチャンス?
[良い事を思いついたと手を打ち、向かうのは聖殿]
―施療所・自室 夜―
[膝の上に、柔らかい重みを感じて目を開く。机に向かい、本をめくるうちにいつの間にか意識をなくしていた。
微睡を邪魔したのは、膝の上に乗った、猫に似たもの。金茶色の体に黒の斑が散った毛並み。首筋から背にかけて、てのひらを滑らせば、肩の辺りで隆起した翼の付け根にあたる。
左側には毛並みと同じ、明るい金茶の翼。右の翼は付け根の部分だけ残して消えている。代わりに、そこには銀色の金属で翼を模したものが取り付けられていた]
[抱き上げ、床に下ろしてやると、寝台のそばまで歩いていき、脚の力で寝台の上に飛び上がると、そこで丸くなった。翼は使わない。
偽の翼をつけても、飛ぶ事は出来なかったモノ]
[歌われているのは、古くから伝わる機織歌。
機織を生業とするものならば、必ず師から伝えられるそれに合わせて滑る、糸。
糸は糸と合わせられ、布へと姿を変えてゆく]
……っと。取りあえず、半分はできたかね。
[織り上げた布を機織機から外して、出来栄えを確かめる。
この時は、さすがにというか、いつも以上に表情などは真剣で]
……ん、よし、と。
納品は……さすがに、一人じゃ辛いねぇ……。
[少しため過ぎたか、と呟きつつ、箱に布を収める]
ま、ラスが手隙なようなら、手伝い頼んでみようかねぇ……。
[エリカの様子を見るともなしに。]
仮定でも、声にはちからがこもるだろうな
あァ、エリカ嬢
[彼女の肩に手をのばす。]
濡れているぞ
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