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-ミリィの家前-
[暫く歩くと、見慣れた屋根が見え、壁の色が見えてきた。
どこかしんとした気配。いつもならミリィの母親が楽しそうに忙しく動いたりして、自分に気づけば優しく話しかけてくれたのに、今はそんな様子もなく。]
おばさん、居ないんだ…。
[誰かがそういえば、隔離、などと言ってなかったか。
軽く首を振って、そっと扉へと近づき、戸を叩いた。]
ミリィ、ミリィ居る?
いつもたっぷりと貰っているようですから。
[アーベルには軽く返して。
墓標へと顔を向けるエーリッヒを静かに見つめる]
見極めることができるなら、喰らうものから身を護ることも出来るでしょうか。
それとも護る者でなければ無理なのでしょうか。
[その返事は次第に独り言のようになる]
私にその力があったら。
[呟いてから頭を振る。
流れた黒にその表情は隠れて]
やはりその場所に伝わる通りになるのでしょうか。
…本当になってしまうのでしょうか。
[憂いを帯びた声で二人のどちらにも問うように]
我が身を守ることも。
彼女を巻き込まずにも居られたのだろうか。
いや、だが。
あれがなければ彼女に出会うことも…。
[心の奥底で、複雑な想いが、揺れる]
お?
[集中しながらも、リラックスを忘れない、ある意味最高峰に近い形での作業中に、扉のノックの音、それから、イレーネの声が聞こえてきた]
おーおー。
母さんー?入れてあげ……って、そうか、いないんだっけ。
[いつものように、母に頼もうとしていないことに気づき、慌てて、立ち上がって玄関までダッシュ。
扉を開けると、そこには、昔から何度と無く見たイレーネの姿]
やっほー。イレーネ。
どしたん?
まあ、こんなところで立ち話もなんだし、まずはずずぃっと中まで。
[言いながら、イレーネと共に、自分の部屋まで歩く]
年寄り連中は好きだからねえ。
そういう話は、特に。
[エーリッヒの語る、伝承。
ティルも言っていたように、御伽噺として聞く事が殆どだったが]
天はニ物を与えず――だっけ?
二つの力を同時に持つ事は、出来ないんじゃない。
そんなのがいたら、人狼なんて滅んでると思うね。
[腕を組み、片側に体重を傾けた青年は、憂うというよりは気怠けに]
自衛団が動いた時点で、既に、賽は投げられている。
人狼が本当にいるのなら、大人しくはしてないと思うね。
イレーネも名乗り出た事だしさ。
[突っ込みに対するアーベルの答えに、やれやれ、と息を吐き]
そりゃま、沈み込んだり寝込んでなければ、それはそれでいいだろうが……。
[やっぱり問題違うだろ、と思ったがそれは置いといて]
見極めるものたちに適うのは、生ける者、死せる者の本質を知るのみ。
護るものであれば、牙を弾く事もできるかも知れないが……。
自身にその力を及ぼす事はできないらしいね。
[静かな言葉。口調はどこか、他人事めく]
本当になるのかどうか、か……さて。
ならずにすんで欲しい、というのは、あるけどね。
護るもの。
[意味ありげに流れた視線を追いかける]
可能性として覚えておきましょう。
[唇の端が吊り上がったのは、黒に隠れ]
口伝が全てでもありませんが。
ここへきても名乗り出ないというなら、結社の者は居ないのでしょう。居れば混乱を助長させるようなことはしないはず。
となれば皆が頼るものはそれが主体となる。
…歪めてしまえばいいと思いませんか?
[楽しげに囁く]
賽は投げられた……か。
[アーベルの言葉に、ふ、と緑は伏せられ。
左腕を掴む右手に、力が篭る]
名乗り出……ね。
思えば、あの子も無用心な。
[イレーネの名に、零れ落ちるのはため息混じりの呟き]
やっほ。
うん、ちょっとミリィの顔見に。
[言いながらミリィの後をついていきながら、彼女の手や足を後ろからみる。打ったのは足だったっけと思っていたが、違和感を感じたのは左手だった。
部屋に通され、何時ものように空いている場所にぺたりと座る。
部屋の中央にはミリィの未完の大作が置かれていた。
以前見せてもらった時よりは進んでいたが、進み具合は以前のそれよりは大分ゆっくりな感じを受けた。
暫く絵を見上げていたが、視線を親友にもどしながら。]
ミリィ、左手どうしたの?
昨日こけてたから、怪我してるとは思ってたけど。
[オトフリートとの経緯など知らないまま、そう尋ねた。]
無謀と勇気は紙一重――ってところかな。
頼もしい騎士がいるから、安心していたのか、
……さて。
[他の可能性は、明確には口にされない。
ふ、と眼差しを墓地の外へと流す]
彼女は誰を視る気なんだろうね。
そうですか。
やはりどこでも伝わるものは大差ないのですね。
どれか一つでも力があれば、と思ってしまうのは愚かでしょうか。
私に出来ることは、余りにも少ない。
[最前の一幕を思い出したか、重い溜息をつき]
…イレーネ。
そう、伝承の通りなら彼女は危険に晒されてしまう。
獣の牙に対抗し得る、護り手。
[ぽつりと呟き復唱するように。]
結社…ですか。大きな組織。
大した力もないのに、数が多いから厄介だって。
父さんが言ってました。
[結社のネットワーク。直接的ではないが人狼らにとっては邪魔でしかない網だ。]
歪める、つまり。
…生贄を作るんですね。
[神妙に、囁く]
名乗り出なければ、始まらない。
そういう意味では、正しい行動なのかも知れんが……。
[それにしても、と小さく続ける。
明示されない部分──『他の可能性』は、思考にあるのか否かは、外見からは定かではなく]
誰を、か。
確かに、気になる所ではあるな。
護る者は、それを知っているのでしょうか。
力を持つものは皆、自覚をしているのでしょうか。
[アーベルの視線を追いかける]
占われるのは、誰か。
その結果によっては……。
[語尾は小さくなり消える]
[完成する前の絵を隠す気は特に無く、あるがままの現在状況の絵は、イレーネの目にどう映ったのか、ミリィは知らない。
ただ、描いている途中の黒っぽい画面はあまり映えないだろうなあと思った。
やがて、イレーネがミリィに視線を預け、切り出した言葉に、少しだけ困ったように眉根を寄せた]
あー、これねー。
[視線の高さまで上げてヒラヒラと振ってみせる。
それだけで、激痛が走ったが、顔には出さない。
さて、どうしようか。
きっと、心配するだろうからあまり言いたくないことではあったが、イレーネも昨日、なにやら重大な告白をさらしたこともあり、包み隠さず、素直に言うことにした]
まあ、なんつーの?
昨日、自衛団の人達が、うちの両親連れてったもんだから、ちょいと自暴自棄になっちゃったんだ。
ああ。勿論。今は落ち着いているよ?その後も経過は悪くは無いんだから。
地域差はあれど、基本は変わらないでしょう。
大元にあるものは、同じなのだから。
[さらりと言って。
力を望むオトフリートの言葉と、危険、という単語に、ふ、と、緑は陰り、伏せられる]
そう。伝承を集め分析して、抗う者達。
個々の力は大したことがなくても、侮れないものですが。
居ないのであれば重畳。
ええ、彼ら自身に捧げてもらいましょう。
流される血は我らの力となる。
そして宴に華を添える。
さあ、どうでしょうね。
力はあれど、自覚があれど、正しく使うとも限らない。
[ゆっくりと瞬くと、腕を解いて伸びをした]
結果によっては。
“敵”が、はっきりするでしょうね。
[語尾を次いだ台詞は、まるで、何でもない事のよう]
其方のほうが、良いかな。分かり易くて。
さて、と。
死者の眠る場でする話でもないだろうし、
俺はそろそろ失礼しようかな。
[言うなり、くるりと向きを変え、一歩踏み出した]
そっか…。
[それでおじさんおばさんらが居ない事の経緯は理解できた。仕方の無いこと、とは思ったが。
ミリィの家族中はとても良かった。それが一時でも無理やり奪われるのは辛い事だろうなと思った。
ふと、普段思い出さない自分の両親の顔が頭を過ぎった。
優しい父親の穏やかな笑顔と。
冷たい母親の憎み睨む顔が。]
あ、そうだ。
[口にして切り替えれば、そんな両親の顔も掠れて消えてゆく。
言いながら、ポケットから一つ包みを取り出しミリィに渡した。]
痛み止め。もし、まだ痛むようなら飲んでみて。
お医者先生が処方してくれる奴で、私もよく飲んでる薬だから。
[良く飲むのは、良く傷つくからではあるが。そのあたりはあえて暈しながら。]
[散歩するなら落ち着ける、人のいない方へ、と思って道を選んでいるうちに、気付けば宿近くの広場までやって来ていた。]
え、あれ。人がいない。
[常ならば人が集まるであろう場所。
きょろきょろとしていると、一方から視線を感じて振り向いた。
途端、視線の主はさっと建物の陰に隠れてしまう。]
ああ。
[それで悟る。]
そうか、ここは容疑者が集う場所、だから。
避けられてるのか。
[こんな単純なことに気がつかなかったなんて。
村人からの視線を気にしないでいたとはいえ、あまりに注意不足だろうと呆れた。]
…敵。
[低く繰り返す。
続いた言葉にはフッと表情を崩して]
そうでしたね。
安寧の場所で持ち出してしまい、失礼をしました。
私も一度診療所の方に戻ります。
今日はまだ何が起こるか分かりませんから。
[背を向けたアーベルとエーリッヒに穏やかに言う。
アーベルに続くように踵を返す]
[アーベルの力持つ者への論。
何か思うところでもあるのか、刹那、掠めた笑みは何故か自嘲を帯びていた。
もっとも、それは一瞬で消え失せてしまったが]
……敵、ね。
まあ、確かに。
すぐに見つけられるなら、それはそれで……か。
[ぽつり、と零れた呟きは淡々と。
死者の眠る場、との言葉には、そうだな、と肩を竦め]
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