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[作業場では既に技師が作業を始めていて。
自分の作業場には小粒の原石が山のように置かれていた。
これだけあれば、何も考えずに作業し続けられるだろうか。
そんなことを考えながら、原石の研磨を開始した]
─現在─
[日も暮れ作業が終わり。
相も変わらず技師は晩飯の調達を頼んでくる。
いつものように晩飯の代金を持ち、工房を出た]
[技師が工房へと置き続けていることが、監視でもあるという事は果たして気付いているのか否か]
ああ、喰らうが良い。
自警団の爺だけじゃない。
──邪魔する奴らは皆喰らってしまえば良い──
[続く言葉は楽しげな色が含まれた]
─回想─
一人、二人と宿から村人達が解放されていく。
そして残される自分。容疑者として残された自分。
─どういう理由で俺が容疑者なんだ?
─答える必要は無い。
─そんなもん納得できるわけが無いだろう。
─納得してもらう必要も無い。
少しでも騒ぎのヒントが得られるかと思ったが自警団からは突き放す返答ばかり。問うた事で判った事は何一つ無く。ただ一つ判った、もしくは想像できるのは。
「こりゃ俺ら(容疑者)に対しては『何でもあり』で対応なさるって事だろな」という事のみで。
「何でもあり」で頭に浮かぶのは「監禁」「拷問」もしくは…。
[食事を済ませた後は、一応、書きかけの譜面を広げては見るけれど。
しかし、どうにも落ち着かず、結局作曲は投げ出した]
……とはいえ、散歩に出れる状態でもなし……。
[そんな思いから、結局。
部屋に篭ったまま、自分の曲、人の曲を問わず、思いつくままにピアノを引き続けて時間を過ごす事となっていた。
その間、色々と浮かぶ考えはあるものの、しかし、形としては定まらず。
合間合間に、ため息が落ちるのは、避けられなかった]
― 昨夜・書斎 ―
[扉と窓だけを避けるよう、壁際に本棚が並べられている。加えて床には本の塔が幾つも出来ていて、崩れたらしい山もあるため足の踏み場はほとんどない。棚や塔やらのあちらこちらには何かと書き殴られた紙が無造作に貼り付けられている。そんな雑然とした部屋の中央、ぽつりと置かれた机に向かっていた]
……。
[窓から差し込む月明かりだけが照らす薄暗い室内。机上に広げたノートを見下ろし]
[軽く頭を叩かれて]
好き嫌いなんていえる立場じゃねーからなあ。
[気がつけば皿は空っぽになっていた。
フォークを皿に置き、軽く手を合わせ、ごちそうさまと言って、席を立つ]
そっかー。いたいた。『占い師』とか、なんか色々いたような気がするなあ。
…人狼がいれば、そんな人たちもいるのかな?いれば簡単に俺たちの容疑も晴れそうな気がするんだけどな。
[笑いながら、ゆっくりとドアの方に歩き出す]
女将さん、アーベル兄ちゃん、ごっそーさまでした。とりあえず、家に帰るよ。
かぶりを振って頭に浮かんだモノを追い出そうとする。けれどもそれは頭というよりは、身体のどこかにあるかもわからない「心」にしっかりとしがみついたまま。
ともあれ、このままでは埒もあかず。
─家に戻るのは構わないのか。病気のお袋が俺を待ってんだ。
─…。
返答は無く。ただ制止もされない。
無言で宿の戸を開き、早足で家へと向かう。
自警団に誘導されて村から出て行く人々の幾人かが自分を指差し、何事か呟いていた。
それはある意味見慣れた情景ではあって。
それらを無視して家へとたどり着いてみれば。
目に飛び込んできたのは立つのもやっとの母親を無理やり歩かせる自警団の姿。
そういう力を持つ奴等が逆に人狼を引き寄せるんだ――
なんて話もあるし、必ずしも、善い方向に使うとも限らない。
他者を信じず、自力で何とかするんだね。
[薄く笑みを浮かべ、ティルが立ち上がるのに合わせて床に降り立つ]
狼に食べられないよう、
お子様は、早く帰って寝るといい。
[空になった食器を手にして、奥へと引っ込む。
入れ違いに出て来た女将の複雑そうな表情は、*果たして見ていたか*]
はい、ここにいますよ。
今は少しでもお休みなさい。
[微笑みながらその身体を支え。
意識が途切れたところで抱き上げ寝台へと運ぶ。
靴を脱がせ、胸元を緩めて上から布団を掛ける]
…今夜は離れない方が良さそうですね。
[良くも悪くも勝手知ったる他人の家。
救急箱を持ち出して、浅く傷ついた場所の手当てをし。
少し離れた場所に椅子を置くと、いつ目を覚ましても良いように一晩中待機していた]
─自警団の一人に掴みかかるも、瞬く間に数人に押さえ込まれる。殺気立った自警団達の怒声。
─その中に混じって、細く小さく震えていて。それでもしっかりと聞こえる母親の声。
「あたしは大丈夫だから。
あんたは狼なんかじゃない。
だから、あんたも大丈夫だから」
─連れていかれる母親。
─取り押さえる自警団達に「もう暴れない」と告げて立ち上がり、その後姿に手を振った。
─自分が泣いていたのに気づいたのはもう暫くしてからだった。
はは、狼が現れたら、石でもぶん投げて逃げることにするよ。
[冗談のように笑い]
うん。それじゃ、おやすみなさいー
[軽く手を振って、宿を出て行く。女将の表情にも気がつかずに。
夜道の中へ*消えていった*]
[昨日、一昨日と同じように日常に起こる家の用を手早く済ませると(何があっても家事は必要なのだ。例え人狼容疑がかかろうとも)、ちょっと迷った後、エーリッヒの部屋のドアをノックした。部屋から漏れ出るピアノの音で、起きているのは判っていたし、部屋の前に立てばトレイが無くなっていたので、朝食に口をつけたことも判った(ユーディットはちょっと胸を撫で下ろした)。]
エーリッヒ様。
あの、私、これから酒場の方に出かけてみます。
昨日のあれだけでは情報があまりに少ないですし、……昨夜、皆何事もなかったか確かめないといけませんし。
あの場所なら、容疑のかかった人たちの今の様子が少しは判ると思うんです。
エーリッヒ様はどうなさいますか?
[ドアの外から、落ち着いた声で話しかける。]
邪魔する奴らは皆喰らう。
[淡々と繰り返す。
それはじわりと彼の中に沁み込んでゆく]
嗚呼。
そうすればこれは終わるのだった。
[熱に浮かされたように囁く]
─現在─
母親の居ない今、この家にいる意味もなく。
宿に戻るか、他の容疑者とされた村人達と接触するのも手かもしれないと考えながら。
頭の別のところでは、ぼんやりと母親に捧げる詩を考えていた。この騒ぎが終わったら、伝えられるように。
歩いては立ち止まりメモを取り出して言葉を綴る。
綴った言葉をグシグシとペンで消してはまた歩く。
それを繰り返すうち、気がつけばもう宿の前。
ため息とともにメモを閉じ、口からこぼれた言葉といえば。
「ああ、やっぱり俺には向いてねえなあ」
[ドアの向こうから聞こえてきた声に、一つ瞬いて、手を止める]
出かける……って、それは構いやしないが。
[昨夜、帰途に向けられた周囲の視線を思い出す。
村生まれの自分にも向けられていた畏怖。
村の内でもこうなのだから、余所から来た者に対してどうなるか、と。
考えたのは、そんな事]
……なら、俺も行くよ。
昨夜はまともに話、聞けなかったし。
知り合い連中、気になるしね。
[がり、と。ペンで引っ掻くようにして空の頁に文字を綴っていく。怪奇話の続きから、時折、妄言じみた呪術か何かのような文字列が混ざり。確かな意味のとれないそれは段々とただ絡まった線になり、塗り潰しになって]
崩れたるは塔か?
否か! 塔ならばそれは結構。怯え畏れねばならない。
塔でないならばそれも結構。――変容の違いだ!
[自問らしき言葉を零す。そんな事を繰り返し、気付けば室内を明るい陽が照らし始めていた]
そうさ。
邪魔者さえ居なくなれば。
[ロストを唆すように。
そして己を昂ぶらせるように。
常では抑え込んでいた享楽の感情が浮上する]
……宴の始まりだ。
狂乱渦巻く惨劇の宴。
ああ……久々の気分だ。
ふ、はは、ははははは!
[狂気に浮かされ高らかな笑い声を響かせた]
-娼館・自室-
[目が覚めてから暫くは、娼館の掃除やら、いつもの日課をこなして過ごす。それくらいは、女将からも許された。
時折姉さんたちから感じる視線は冷たかったが、何時もと大差ないと思って表向きは普通に過ごす。
粗方仕事を片付けた後で、再び自室に篭る。
そしてテーブルの隅に置かれていた小箱を開け、薬をとり飲んだ。今は、痛み止めだけを。
小箱の中には他にも幾つかの、古い小瓶に入った何かが収められていたが、それには一瞥しただけで、再び箱をしまう。]
…人狼。
[ぽつりと、呟いて。
小袋の中身―親指ほどの大きさのブラックオパールを手に握った。]
はい、わかりました。では一緒に参りましょう。
ええと、お支度が終わりましたら玄関まで来てください。
[部屋の内から聞こえる声にそう返して、見えるわけもないのにぴょこんとお辞儀をしてその場を去る。
エーリッヒが部屋から出る頃には、玄関先で花の様子をしげしげと見ながら彼を待つ、ユーディットの姿があることだろう。]
さ、行きましょうか。
[エーリッヒの姿を認めれば、そう言って酒場への道を共に歩き出すだろう。]
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