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お邪魔しよう。そう、この戸には血は塗られていない。
子羊の血は見えないのだよ。
それが不偏で普遍であり、何より不変であるかはわからないが。
ああ、お邪魔しよう。
今晩は、諸君。
ブリジット=フリーゲがお邪魔するよ。
[戸を少しく見上げていたが、アーベルの声と前後したか、そのうちにイレーネに先んじて中へと入り]
……それなりの対処が成されるんだろ。
[問いにも似たアーベルの言葉には端的に返して。
何を意味するかは理解しているが、はっきりと口にするのは憚られた]
…「間違いでした」では済まないんだろうな。
確信があるから、こんな対処をしてる。
何も起きなかった場合は。
──……容疑者を全員消しちまえば良いって腹なんじゃねぇの。
[誰が人狼か分からずとも、容疑者として挙がった者の中にそれが居ることは確実のようで。
そうでなくば名指しもすまい。
村からしてみれば、それが一番確実でもあった]
……まあ、そうだろうね。
[疑わないと、という言葉に掠めるのは苦笑]
それでも、そうしたくない気持ちが働くのは、仕方ないさ。
誰だって、親しいものを疑いたくはないだろうし。
[呟くような言葉は、どことなく他人事めいた響きを帯びて。
礼の言葉には軽く、肩を竦め]
現実的な話をすると、君がいないと家の中が片付かない、というのもある。
そういう意味でも、あんまり疑いたくはない、かな?
[冗談めかした言葉はどこまで真意か、それは読み取れず。
歩みはやがて、酒場の前へと]
私はいつも手助けをするだけですよ。
ミリィの強さが、ミリィの命を救ったのです。
[ゆるく頭を振る]
…忘れさせてさしあげたいですが、そうもいかない事態ですね。
昨夜聞いた限りでは、宿で今後を相談することになりそうでした。
それに何か少しでも口にしておかないと、暑い盛りに体力がもちません。どうしても無理そうならやめておきますが、大丈夫だったら顔を出しておきませんか?
イレーネたちも心配するでしょうし。
……ある意味では。
何かが起きた方が幸運なのかもね。
事実を目にすれば、人間は行動を起こせる。
理性を打ち負かす本能に従って。
そして、為す事に対して“正当な”理由をつけられる。
[為す事。それが何か。本来ならば、罪とされる事。
開く扉からは、一歩分、横に離れた。
通る声の主はわざわざ見ずとも明白で]
いらっしゃい、先生。
[宿の中へ、小さくお辞儀して入ると、ユリアンの姿を見つけて心底ほっとした様子で傍に近づいた。
ユリアンとアーベルとの会話は、終わりの方
「容疑者全員を消す」
そこからが耳に入り、少し固まる。
困惑したように、二人を見上げ。
何か物言いたげに口を開きかけるも声にはならず。]
イレーネもいらっしゃい。
[少女の問いたげな様子は察しながらも、此方からは何も言わない。
先程までの重たい会話も嘘のような、普段通りの口調だった]
好きな席に座るといい、今日は選び放題だから。
今日だけじゃなくて、暫くになるかもしれないけど。
[オトフリートの言葉に、ミリィが力無く首を振った]
ううん。
私は弱いよ。
弱いから、人に頼ってばっかりいる。
人に頼ってばっかりだから、弱くなる。
イレーネや、ティルのように、一人で生きていける強さは、私には、無い。
だから、それを隠したくて、知られたくなくて、いつも色んなことを考え込むの。
勉強とか、絵とか……恋とか。
色んなことを考えてれば、それに気づかなくて済むから。
[続く言葉には、少しだけ口元を引き締めて、頷いた]
うん。分かった。
行こう。宿に。
その時には、きっといつものような私に戻ってみせるから。
大丈夫。みんないるから、私は私でいれる。
……先生?乙女の秘密、誰にも言っちゃ嫌だよ?
おや? 違和感、違和感。
何だね。何か妙な気がするが……
嗚呼、そうだ。私はフリーゲではない、フレーゲだよ。
誰だね、私の名前を間違えたのは?
[数日前言ったのとほとんど同じ事を言って]
お邪魔しよう。
早速話し合いでもしていたかい。していないかね。
どちらもまた不可思議ではないがね。
[冗談のよう口にしながら、少し奥にいった辺り、適当な席へと就き]
誰だって。ええ、そういうものなんでしょうね。
[他人事のように話すエーリッヒの口調に、一瞬だけその目を盗み見たが、判ることは何もなく。]
あら……じゃあエーリッヒ様から疑われないために、お仕事ますます頑張らないと、ですね。
[くすり、と声に出して笑う。
エーリッヒの前に立って、酒場の扉を開けた。]
やっぱり、皆ここに来るんですね。
[先に集まっていた面子に、こんにちは、と挨拶する。]
起きた方を幸運と思うか、起きないことを幸運と思うか。
どう感じるかは人によって変わりそうだな。
…為すべきことが見つかるなら、起きた方が良いかもしれないとは思うけど。
[紡いだ言葉はどこか歯切れが悪く。
何が起きるかを考えると、悪い方向にしか考えが向かないために。
そんな会話をしながら開いた扉に視線をやった。
相変わらず声高に言葉を発しながら入ってくるブリジットと、その後ろから歩いて来るイレーネの姿。
その姿を見ると僅かに雰囲気が和らいだ。
しかしイレーネは困惑したようにこちらを見てくる]
…イレーネ、どうした?
[笑う声に、期待してるよ、と軽く返し。
ユーディットに続いて扉をくぐり、中へと入る]
……や、どうも。
皆さん、お集まりのようで。
[場にいる面々に投げかけるのは、いつもと変わらぬ口調の挨拶]
頼ることがいけないわけではありません。
もっと自分のことも信じてあげてください。
[ぽむりと軽くミリィの頭に手を乗せて]
それに。人は誰しも一人だけでは生きられません。
一人で何でも解決しようと思うと、思わぬ失敗をするものですよ。
残念ながら、丁度今、集まり始めたところでして。
話し合うにせよ、フレーゲ先生のように、
博識な方がいらっしゃらなければ、
それもまた無意味なものであったでしょうが。
[相変わらずというべきか、ブリジットに対して投げる言葉は回りくどく、些か――どころではなく、芝居がかったもの]
そう言えば。予知夢の正体とは、これでしたか。
[宿の扉を開け中へと入る。中の空気がざわついているのは容疑者の自分が来たからなのか、それとも別の理由からか]
…よぉ。
[目に付くのは、何人かの知った顔で。どう声をかけるのがふさわしいのか分からないまま、小さくそれだけを呟いた]
それなら良かった。
いつもの笑顔が見れると、私も嬉しいです。
はい、二人だけの秘密ですね。
大丈夫です、医者は口が堅くなくては務まらないんですよ。
[笑いながら頷いて、二人並んで酒場へと向かった]
ま。考えたって解らないし、人間から事も起こせない。
起こる出来事を待ち受け、踊らされるしかないのかもね。
[ユリアンへは、一転、気楽な口調で言った。その内容に沿うものではなかったが。
次いで現れたエーリッヒとユーディットへは、軽く手を挙げて]
や、おふたりさん。
ユーディット、厨房空いてるけど作ってく?
[場に合わない提案をして、くつりと笑んだ]
あ、はい…。
[アーベルの変わらない口調に押されたのか、こくりと頷いて。いつも通りユリアンの隣に座った。
言った通り、店に何時もの賑わいはなく。
その原因のことを思うと少し俯いたが。
ユリアンに名を呼ばれれば、顔を上げ。]
…あの、ね。
[手にはぎゅっと、黒い宝石が握られたまま。]
……ん。
[後から入ってきた気配と力のない声に、そちらを振り返る]
や、どうも。
[挨拶を返しつつ、いつになく力のなく見えるハインリヒの様子に僅かに眉を寄せ]
何か……ありましたか?
[更にやってくる”容疑者”の面々を見れば、座ったままで会釈を返して]
[やや後に注文していたセットが出来上がり、テーブルへと運ばれてきた。
周りの雰囲気を気にすることも無く、料理に手をつけ始める]
どうも、バウムさん。
普段通りにしてていいよ。
この状況で、他の客もそうそう来ないから。
[ハインリヒに告げ、ようやく壁から身を起こすと、何か飲むかと周囲に訊ねる。無論、無料奉仕の心算はさらさらない]
[最悪の末路は、何も言わせず、言わせられずに強制される11人全員の死。
それは、嫌だった。死なせたく、なかった。
それは心からの。]
…見分ける方法があれば、いいんだよね。
[躊躇いがちに見上げて。
一つ息をついて、口を開いた。]
[ミリィと共に居る時はこちらの感覚からどこか離れていて。
まだ自分が人間であるような、そんな錯覚を覚えてもいた]
昨晩は何事もなかった?
[イレーネ、ユリアン、アーベルが集う方に近づき、真面目な顔で問う。
つい、と首を店の奥に向け、]
ブリジットさんも……大丈夫みたいね。
[確認するように呟く。
背後からかけられた低い声には、驚いたように振り返った。]
ハインリヒさん。
ああ、貴方も容疑者……でしたね。
……大丈夫ですか?
[元気がなさそうですが、と言い掛けて、その理由は判りきっていることに思い当たり、飲み込む。]
私、わかるの。
人狼と、そうじゃない人が。
父さんが、私達はそういう事が出来る家系だって。
おしえて、くれて。
「その時が来れば、生者の真実の姿を見抜く目が与えられる」って。
だから。その。
[言いながら、微かに震えていた。
それは緊張の為か、それとも恐怖の為か。
それとも他の何かの為か。]
……。
[オトフリートの手が頭に触れていて、あったかい。
ミリィがにへら、と笑う
少しだけ、このまま時間が止まればいいと思った]
……やっぱ、先生優しいな。
[ぽつりと呟く。
私はこの人を好きになれてよかったと、心から思った。
そして、幸せな一時は終わりを告げ、時計の針は動き始める]
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