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[ふるり、首を振る。
自衛団長の事は、子供の頃から知っている。
彼が、冗談でこんな事を言う人物ではない事も。
だが、それだけに、その言葉は受け入れ難くて]
……大体、どっからそんな話……。
俺たちに、どうしろって……。
[名指しされた者には身近な者も多く。
それもまた、信じ難さを増す要因となっていた]
ええ、御伽噺ですよね。
それが何を間違えば。
[ハインリヒに困惑の表情を向ける]
しかもティルやミリィのようなまだ……。
[向けられた自衛団長の視線に口を閉じた。
そこから感じられるのは、間違いのない本気]
[隣で怯えの色を見せるイレーネに気付けば、落ち着かせようとそっとその肩に手を乗せ]
……きっと、何かの間違いだ。
[そう言葉を紡いだが、ギュンターの様子は真剣そのもので。
嘘ではないと言うのが嫌でも伝わる]
型に嵌らない探偵だから、楽しそうなのに。
[次の言葉には不思議そうな顔をして]
無自覚に何かやっていて惚れ込んでたら大変?
それって、どういう意味?
[尋ねたものの、アーベルが詳しく答えてくれるという期待はさほどなく。買い物という言葉に、自身もその途中だったことを思い出す。]
あ、そうなんだ。私もそろそろ帰らないと……。
[と、言葉を切って、ちょっと考え。]
……先にそっちに寄って、エーリッヒ様がいるかどうか確認してからにしようかな。
[自警団長の口が開かれるたび、その言葉を興味深げにメモにとっていく。]
なるほどねえ…容疑者は11人…。
11人?
[その時になって初めて気づく。その中に自分も含まれている事に。ペン先が思わずよれてメモにガリっと崩れた線を引く]
いやいや。
その分だと、大丈夫そうかな。
[予想通りというべきか、返したのは答えではなく、勝手な納得。
途中で切られた言葉には、考え込む素振りすらなく]
いるんじゃないかねえ。
[断言ではないものの、それに近い調子で言い切った。
此方に寄るという彼女を少しばかり待たせ、店に入ろうとして、途中で足を止め振り返る]
――あ、そうそう。
不用意に男に顔近づけたりしないほうがいい。
何されても、知らないよ。
[そんな忠告を告げてから、雑貨をニ、三点買い求め、帰途に着く。
その先に待っている出来事に対して見せるのは、好奇の色か、*それとも*]
…えぇ、なにかの間違いよ…ね。
人狼、だなんて。
[店内を見回す。
容疑者として上げられているのは、常連さんやご近所さんばかり。]
…信じられない。この中に居るだなんて。
[口元へと無意識に行く指は、いつの間にか震えていた。]
[はっきりと返って来る言葉。
それも聞き覚えのある声。
視線がそちらに向きそうになるのを抑え、更に言葉を伝える]
…まさか、アンタが同胞だったとは。
近くに居るのに気付かなかったよ。
俺も鼻が鈍ったかな?
[若干の驚きを含む声。
最後の言葉には自嘲も含まれていたか]
[告げられた名前を反芻する。
ミリィの名もあった。他にも、ここにいる人、いない人、みんな知った人の名前ばかりで。]
…誰かが、人狼、っ。
[ユリアンの肩に手を乗せられると、びくりと不安げに見上げる。
そういえば、先ほど告げられた名前の中に、彼のものも入っていた。]
ユリアンも、なんて。
[まるで違うと言わんばかりに首を緩く振るが、ギュンターの態度が変わるはずもなかった。]
原因排除などと。
つまりは最初から手を汚すつもりでいらっしゃる?
[少しずつ、最初の動揺が収まってくる。
静かに、だがハッキリと頷く自衛団長に、こめかみを押さえる]
どうして誰も疑わないんですか。
そんな、噂に踊らされるような真似を。
「村を守るのは私の役目だ」
…禍は芽の内に、ですか。
上の方々の考えることはいつも、単純明快ですね。
[それはギュンターに向けたようで、微妙に違う。
苦虫を噛み潰したような顔になる]
……冗談にしといてくれよ、人狼なんて……。
[はあ、と。
零れ落ちるのは小さなため息]
そんなもの……御伽噺の中だけで、たくさんだ……。
[掠れた呟きと共に、崩れるように椅子に腰掛ける。
緑の瞳の憂いの陰り、それに気づく者は*果たしてあるか*]
[思ったとおり、答えらしき答えを返そうとしないアーベルの様子には気を留めることもなく。
むしろ、いるんじゃないか、という次の言葉の方に気が行った。]
アーベルが言うなら、そうなんでしょうね。
[さっきまで一緒に居たし、アーベルだし、と、理由は心中で呟くに留めて、彼が雑貨店で用を済ますのを待つことにする。と。]
……ご忠告ありがとう。
[唐突に投げかけられた台詞に、呆気にとられながらそれだけ返した。けれど。]
……私、そんなに世間知らずに見えるのかな?
[残され、苦笑して独りごちる。
世間知らず、というより、生娘? うーん、と考え込んでいる間にアーベルが戻ってきて。
思考は宙に散って、酒場へと向かった。
そこで繰り広げられていたのは、馴染みの顔と、馴染まないざわつき。]
一つお伺いしましょう。
貴方があの時の「彼」ですか。
[脳裏に届く聲が誰のものであるのか、漸く理解する。
口調は表の彼のそれに戻り。
驚きと戸惑いと。そして怒りのような何かを宿して問う]
少なくとも私は。
それまで自分は普通の人間だと信じていたのですけれどね。
[アーベルがカウンターへと引っ込んでいくのを見送りながら、動揺している面々の中に、エーリッヒが居るのを見てとり、そちらに行こうとする。
しかしその前に、動揺の「種」が耳に入り。]
……人狼?
[その単語を聞いた瞬間、目が、すい、と細まった。]
居るんですか。ここに。
[呟いた声は、とても冷たい。]
[震える手を押さえて必死でメモを取り続ける。その手が震えているのは自分が容疑者になっている事でも、人狼に対する恐怖でもなく]
こりゃ…ひょっとしたら、すげえネタなんじゃねえのか。この話を記事にできたら…。
[そこに居るのは詩人では無く、かつての新聞記者としての姿*]
…おっさん、原因の排除っつーけど。
容疑者に挙げられた連中の中に何人その人狼ってのが居るのか。
その判断がつかなかった場合はどうすんのか。
その辺はどうなってんだよ。
[見つけた場合はまず間違いなくその人物を手にかけることになるのだろう、と予測はし。
しかしそれ以外の場合はどうするのかとギュンターに問う。
おそらく返って来るのは、ギュンターにとっても本意ではない方法だろうか。
しかし彼の信念からそれは実行されることになるのだろう]
[不安げに見上げてくるイレーネに、流石に無表情は崩れ、眉根が寄せられる。
否定するように緩く首を振る様子に、イレーネの肩に手を回し、抱き寄せるように手に力を込めた]
[さり気なく、気づかれないようにポケットに手を入れ、中に入っていた小袋から左手で器用に中身をとりだした。
左手に、気づかれないように握られたのは黒を基調としたオパール。
それを握った瞬間、頭の中に自分のもので無い、誰かの声がするりと入り込んできた。]
え…。な、に。誰…?
[思わず漏れた声は表には出ず、赤い世界に零れ落ちた。]
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