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[結界の傍に寄ると、頭の中に直接響く声が聞こえてきて]
……中も中で、ごたついているようですね。
[氷竜王の言葉に、ほうとため息ひとつ零した。
ごそごそと袖の辺りを探り、水晶で出来た虫眼鏡を取り出す]
[西殿、そこを閉ざす結界の前へ立ち、
揺らぐ紫煙は異国の花の香。
たなびく煙に乗るように、幾つも浮かぶ小さな焔。]
…二つ。それに沿うもの一つ…
それと…
[幾つもの焔がさまざまに色を変え、揺らぎ舞う。]
…ぁー…これ以上は追えねぇ!
[焔は不意に掻き消える。]
王――
そのような報告はどうでも良いです。
[最初は困ったような調子だったのに、王が続けた言葉はとんでもないものだった。
あまりほしがっていないような(少なくとも月闇王にはそう見えたらしい)虚竜王に花束を押し付けただの、
影輝と生命の竜王をからかったら怒られただの、
そんな情報はほしくない。]
あんまり納得したくないです。
[影輝竜の言葉に溜め息をついて一度、空を仰ぐ。舞い降りてきた火炎竜、集まってきた他の随行者達を見やって、また溜め息]
…っ、ととさま、…!
[慌てた様な声と共に、仔が寝台から転がり落ちる。
引き摺られる様にして床へと滑り落ちる毛布が、幼子の心中を物語るか。
…四方や私が幼子に振り落とされなどしないが、余程慌てているらしい。
何時もなれば幼いながらも見え隠れする私への気遣いがまるで無い。
否、心中は察するに容易い。我が心とて正直穏やかでは居れぬ。
ぺたと乾いた床を素足が叩く音。そこで漸く私は仔の足に召物が無いと気付いた。
嗚呼、履物すら意識する余裕すら無かったか。
仔が踏んだ跡を辿るように、翠樹の気がその場に草花を咲かし、枯れる。
小さな足跡は、ぱたぱたと西へ。]
―…→西殿―
落ち着けって、落ち着けって……。
[ミリィの言葉に、ふるふるふるふるしつつ、どうにかこう返す]
っとにもう……何なんだよ、これっ!
[苛立ちは結局押さえ切れなかったか。
そこにある結界に向けて、足が出た]
[再び目を開けた時には震えは止まっていた。
戸惑いは未だ消えないが、同時に揺ぎ無い意思も生まれている]
見苦しい姿をお見せしました。
もう大丈夫です。ご一緒致します。
[精神竜の目をじっと見てそう告げた]
後で竜王方にお詫びしなければ……
「何故?」
あなたのせいです。
[疲れたように壁に手をついていたが、しっかりと立ち。]
お戯れになるのも、程々になさってください。
[エルザの謝罪に緩く首を振り、青年は再び西殿を見上げる。天は不吉な現状の象徴のように暗雲渦巻き、本来の竜都の属性均衡が揺らぎを感じさせた。
『混沌』を司る彼には忌むべきものでないけれど、それでも口元の笑みは鳴りを潜めていた]
風が乱れている。
これが竜王を封じた影響なら他にも――…?
[問いは微かに零れ消えていく]
恐らくは。
随行の者達が無事であるのは、
幸とすべきなのか、それとも?
[ 疑問を含んだ言葉は、ザムエルのみに向けたものではない。
答えを出せるものは、現状では居るまい。]
竜王が太刀打ち出来なかった封だ、
今すぐにどうこうも出来なかろうよ。
我は我の為すべきことをするか。
[ 集う者らに視線を注げど、出でる結論はそんなものだ。]
[背後から聞こえてきた命竜の呟きには]
"封印"に関してなら、氷破である私が……と、言いたいところなのですが。
まだ、なんとも。式が複雑というか、安定しない、奇妙な、と言いますか。
[未だに虫眼鏡で、結界と睨めっこしている]
"破壊"を司る焔のに、任せるのも手かもしれません。
[といった所で、風竜の蹴りが弾かれたのが目に入った]
したかろうがしたくなかろうが、
起こった事は仕方あるまい。
[ 淡々と告げ、駈けゆく機鋼の竜を見送ると、彼らの行く先とは逆に外へと赴いた。宮殿の内なれば、庭が適当か。]
それだけ言えれば十分ですよ。
行きましょう。
[前代未聞の出来事を目にしたまだ若き竜として、旧友の養い娘は十分しっかりしている。青年は口元に微かに笑みを浮かべ氷破竜の消えた方へとエルザを促した]
[蹴りを弾かれ、後ろによろめき。
それでも、勢いは留まらず。
束縛に繋がるものへの苛立ちその他で頭に血が上っているのか、手は背負った銀のロッド──『風雷棒』をがしり、と掴み]
っつーか、わけわかんねぇもんの分際で、蹴り弾くとかっ!
[その理屈も大概無茶すぎます]
[揺れる感覚。実際には揺れては居ないのだが、感じ取るのは『揺れ』。『安定』を司るが故にその変化は如実に感じ取っていて。己を律するがために再び手は額へと向かう]
幸であるか不幸であるか。
今ではまだ分からんな。
「我が成すべきこと」、それは如何なるものや?
[聞こえたノーラの言葉に返すは、やはり問い掛け]
内側からは解けませんか
[一応情報を聞き出して、本を持ったまま、西殿のほうへと足を進める。
だが、ぴたりと足を止め。]
王。楽しんでいないで下さい。
[少し闇を帯びた目は、ついで閉じられ、元に戻る。
そうして今度こそ、西殿へと足を進めた。]
…あぁ。
流石にこの形式は…触れるのは初めてだ。
[多少触媒でぼうっとした頭を押さえ、エリィの言葉に苦々しく首を振る。]
過去のデータの中で似ているのは…
[人間界でいくつか起こった騒乱の原因となった事件の数々。
どれも、長い治世を経た王国を滅ぼしたものだ。]
…まさか、いや…それは。
[まとまりきらぬ、不吉な予感。]
[合わない視線。
そういえばずっと逸らされているような、と頭の隅で思う]
このままでは竜郷全てに影響が出るかもしれません。
そうなる前にどうにかできると良いのですが。
[西殿の方へと足を向けながら、呟く]
我は影。
影輝に属する者。
故に、司るは均衡。
それ以上でもそれ以下でもあらぬよ。
[ 乱れを均す。全てを、とは到底、成るまいが。
歩みを進めながらも振り返り、そういったことだと、翁に示す。]
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