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う゛ー…
[ごろりと寝転がり手が布を探す。温度の変化が少ない地下は酒にはいいが寝場所には向いていない]
…ぶえっくしゅっ!
あ゛ー…やけに冷えやがると思ったら酒が切れたか。
[番人の語り]
[ざわめく室内に関わらず、女は唯紅茶に口を付けた]
[リィン]
[最後の一口が終わり、陶磁器がソーサーに戻される]
番人殿は、どうなされるのでしょうね。
[そうして、碧眼は辺りを見る]
そうして、皆様はどうなされるのか。
[くれないは笑みの形を模ったまま]
[席を立ち、一礼を]
[部屋の扉を開け、廊下へと出た]
[周囲の人間達の話す声が聞こえる。
否、耳に入っているのだが、言葉としては認識していない。
それは、暖炉で火の燃える音と同じく、純粋な音、だった。]
もっとはっきり言いましょうか?
彼はきっと、患っているのよ。その…頭を。
[虚ろな方の右眼が、「番人」を捉える。]
その言葉を、頭ごなしに否定しても何もないし、
第一、このままでいるのもつまらないでしょう。
[「番人」を蔑むように。]
なら、一緒に遊んであげましょうよ。
きっと、満足したら何かあるわよ。きっとね。
少なくとも、信じられないと言って、
時間を浪費するよりは楽しいと思わない?
[眼帯の青年が紅紫の瞳を向けた先を手で覆い隠す。その仕草に一度小首を傾げ]
もしかして、気にしてた?
気分を害しちゃったかしら、ごめんなさい。
[視線を外し、軽く頭を下げる]
マダム。
「美は神が与え給う、究極の才能である」という話を聞いたことがあります。
――ですが。
過ぎた「美」は、人間の血の熱さを表現する機会を奪ってしまうのも、また然り――…。俺はそれ故に、完璧なる「美」は好みません。
血がたぎり、筋肉が軋み、汗を流す――そんな美醜を兼ね備えた人間の「舞踏」ほど、この世で人間の魂を震わせるものはございますまい。
そこにいらっしゃる乙女達のそれは勿論――…マダムもまた、それ故にこの「舞台」に選ばれたのではないですか?
全てのことを冷静に感知し処理する貴女の血が沸騰する瞬間は――さぞや美しいのでしょう。
[琥珀色の瞳を細めて、笑った。]
[見知らぬ娘の顔に一瞬ぎくりと身を強張らせたが、]
[ゆっくりと理解がのぼり、それがこの城の前で出会った娘と解った。]
[そしてここがどこかも。]
――ここは……
[男はゆっくりと辺りを窺いながら身を起こした。]
んん。
[壁に凭れかかり立てた膝の上に手を置いたまま、
交わされる会話を聞いていた。
暖炉には、番人の手によってか、
いつの間にか火が点されていた。
低い位置から、揺れる焔を見据えている]
そもそも、終焉――終わりって、なんなのかな。
……はっきり言うもんだ。
[蔑むようなイザベラの言葉に、口をついたのはこんな言葉]
そこの『番人』だけを見るなら、そう言いきれるだろうが……。
[現実的に考えたなら、彼女の解釈は理に適っていて。
しかし、そのまま受け入れるに至らないのは、霞がかる記憶と、唐突にこの場所に現れた、という状況故]
ま、何にせよ……ここで文句だけ言ってても始まらん、か……。
[そこには彼の見知らぬ人間が大勢――少なくとも10人以上――居り、何やら話し合っている様子であった。]
私は一体、
[額に指を当て、眉を顰める。]
城の広間よ。
ナサニエル、貴方廊下で倒れてたらしいわよ?
クインジーと……あら、あの人なんて言ったかしら。
その二人が運んで来てくれたの。
[ナサニエルが起き上がることで額に乗せていた濡れタオルが落ちて来る。それを受け止めながら声をかけた]
どこか痛むところとかは、無い?
[紅紫色の視線から眼帯を逸らすべく上げた手を、そっと外した。]
いや……それほどではないさ。
ただ、この場所が時折疼くだけのこと……。
気がついたら、これは俺と共にあった。
俺にとっては、最初から目はひとつだった……。
それしか覚えていないのだから、仕方ないのさ。
キャロル様?
[鈴の音に振り向けば、女性は立ち上がりこの場を去る様子。
一瞬身体が動きかけるも、途中で止まり頭を下げ返すに留まった]
あら。貴方は良い思想をお持ちなのですね。
実は美学の専門家などではないかしら?フフフ。
[眼帯の青年に、感嘆の右眼を向ける。]
高度なご意見だと思います。実に興味深い。
…。
[周りで交わされる言葉を解するのが、だんだんと難しくなっていきます。
疲れているのでしょうか。
ふと、意識を戻したのは鈴の音。
金と赤の鮮やかな色が、遠ざかって行くのを眼で見送りました。]
[現実的な解釈の受け入れを阻む、もう一つの因子。
それは、疼き続ける左の腕。
現状を否定しようとすればするほど、それは強く痛みを与えてくる]
……っとに……何だってんだ……。
[苛立ちを帯びた思考は、意識の奥に留まり]
[額からずり落ちたタオルがぽとりと胸に落ちる。
それを受け止めてくれた少女に感謝の視線を向け、]
そうでしたか……。
お手数を掛けてすみません。
痛い……かどうかは。
すみません、よく分からないのですが多分大丈夫です。
[初めて聞く男のひとの声が一つ。
そう言えば少し前に、倒れたひとがいると運ばれていたのを思い出しました。]
目、覚めたのですね。
[周りの様子からそれを悟り、そちらを向くと青い色が見えました。]
眼帯の目が疼く、か。
傷でもあるのかしらね。
同じ隻眼でも、傷をそのまま晒してる人も居るけれど。
[視線はふともう一人の隻眼の人物へと向けられる]
気付いたら、ね。
まるでいつの間にかここに居た私達みたいな感じだわ。
それでも、なんだか厭うような仕草だったから。
謝罪だけは受け取って頂戴。
ぷはー!
なかなかの葡萄酒じゃねーか。
だがどうせ貰ってくならもっと強い……
[空になった瓶を投げ捨て、消えそうな蝋燭の灯りを頼りに広くない地下室を探る。片隅に置かれてた瓶を持ち上げて炎に照らし口笛を吹く。焦茶の目に映るブランデーの深い色]
あるじゃねーか、いいヤツが。
二、三本いただいて…あ゛ー、気付けとか言ってたっけ。
もうどーせ起きてるだろうしいいか。
[小さめの瓶を一本ポケットに突っ込み、二本小脇に抱えて地下の階段を上がる。扉を閉めた弾みで残された蝋燭は消え、暗闇に煙が細く揺れた]
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