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―礼斗宅―
うん、コーヒーでいいや。
[妙に偏った選択肢は今更突っ込むまでもない。
昔馴染みに遠慮することもなく部屋の中に踏み入り、窓の近くに腰を下ろした]
……しかしなんなんだ、進めないって。
帰れないじゃん。
[外を眺めながら、途上で聞いた話を思い出す。
そうしながらも時折眉を顰めたり、額に手を当てる仕種は相変わらずで]
さんきゅ。
……そっちもダメか。
[アラート音に嘆息しつつ、コーヒーを受け取る。
写真には目を向けただけで何も言わなかった]
あー、暫くは出演予定ねーから。
相方が今行ってる奴が再来週辺りに映るらしーけど。
[瑶子の呟きには苦笑いを返した。
時々ローカルの番組に出るくらいで、テレビ出演はさほど多くない]
……無事かな。
予定通りなら、今頃都心にいる筈だけど。
[一拍置いて、相方の身を案じる言葉が洩れた]
―礼斗の部屋―
あれ、憶え間違えてた。
[出演予定はないと史人に言われて黒瞳を瞬いた。
安否を気遣うのには、確認のしようもないので何も言わなかった]
季節外れの桜が咲いて、数日で散ってしまう。
その数日の間に神隠しが起きる。
狂い咲きの桜では童女の姿が目撃されて、散るのと一緒に童女もまた姿を隠す。
童女は桜の精かもしれないとか、子供以外でも神隠しに遭うとか。
神ではなく魔に奪われるというのもあったかな。
後はお決まりの集団幻覚説があるのとか。
礼斗さんは、他にどんなことをご存知なんですか。
命に関わるというのは、どういうこと。
[雑誌で読んだ話や、興味をひかれて他の本で読んだ話を提示しながら礼斗に尋ねる。
最初は積極的だったのに、話を聞くうちに頷く回数も減っていった]
―回想・書店二階―
[千恵にTVが壊れた呼ばれて接続とかを確認してみるがおかしいところはなく、ぺしぺしとたたいてみたけどやはり砂嵐]
買ったばかりのはずなんだけど。
ごめんねTVは見れないみたい。本で我慢して。
[千恵の頭を撫でた後に再び料理に戻った。
その後食事を済ませると千恵の機嫌が幾分か戻ったようで少し安心した]
それじゃあ食器片付けてくるね。
[時計を見ると伽矢と分かれてからそこそこの時間が経っていた。]
―書店二階―
[千恵の様子に安心していたせいか、伽矢のことに気をとられていたからか、千恵の様子には気づかなかった。
食器の片づけを終えて千恵の母親の携帯に電話をかけた]
あれ?つながらない?
[コール音はおろか受話器からはつながらない旨を伝える声すら聞こえなかった。
再度かけなおす。ボタンを押したときのプッシュ音はなるがやはりそれ以外の音は聞こえてこない]
千恵ちゃんごめん、電話出てくれないみたい。
[繋がらないと伝えるとまた不安にさせてしまいそうで、居間にいるであろう千恵に声をかける、返答はない。]
寝たのかな?
[毛布をかけてあげようと居間にいくと千恵の姿もリュックもなかった]
─自宅─
[コーヒー用のミルクは、主に担当編集が使うために常備されていたとか。
黒江の、紅葉への評価には、僅か、苦笑めいたものを掠めさせるものの、それはすぐに掻き消え。矢継ぎ早の問いに、一つ、息を吐く]
一般認識されてる概要は、その通りだな。
季節外れに桜が咲くのが、発端。桜は、早ければ一晩、若しくは数日後には、元に戻っている。
桜が咲いている間は、何か、壁のようなものに遮られて外部からは中の様子は全く伺えない。
そして、その壁が消えた後、数人が原因不明の行方不明になっている、と。
[静かな口調で、話し始める。視線は開かれたテキストエディタへ]
で、だ。
その壁が何なのか、何故いきなり桜が咲いたのか。
そして、あの『桜花』がなんのか、は、はっきりとは言えん。
……俺の推測では、何かの監視者のようなものじゃないかと思うんだが。
わかっているのは、あれは、季節外れの桜の開花と同時に始まる……ある種の生存競争。
それを最後まで見届けるためにいるらしい、って事だ。
[『生存競争』という言葉。
それに、二人はどんな反応を示すのか。
ともあれ、ここで一度話を止めて、コーヒーを一口啜る]
……ま、隠してても仕方ないんでぶっちゃけるが。
俺が、この事態に遭遇するのは、これで二度目。
今から三年前……山ん中の村の桜伝説の取材に行って……巻き込まれた。
あの時は結局、どたばたの前後に山の斜面の崩落なんかもがあったから。
全員事故死、俺だけ生存って形で処理されたけどな。
[呟くような言葉の後、視線はどこか遠くを彷徨い。
ため息の後、再度パソコンのモニタへと向けられる]
千恵ちゃん、一人で行っちゃったの?
早く探さないと。一階?ううんリュックがない。
[焦る気持ちの中考えはまとまらず、すぐに探しにいこうとして]
伽矢くん、連絡…
[携帯は繋がらず、電話も繋がらない。いる場所も当然わからない。]
置手紙、気づいてくれるといいけど。
『伽矢くんへ
千恵ちゃんどこかに行ったみたい。
探してくる。
ごめんなさい。』
[部屋の中に置手紙を残し、鍵はいつもの隠し場所郵便ポストの中の上部に貼り付けて隠した。
伽矢なら何も言わずともそこだとわかるはずだ]
───回想>>249───
名前というのは言霊が宿るから、勝手にでも何でも、意味は篭るんだけどね。
私の「神楽」にも、せったんの「雪夜」にも。
まあ、その話はいっか。あまり関連性は無さそうだし。
綾野さんは知り合いというか、茶のみ友達?いや。飲んだこと無いけど、将来的にはそんな感じの仲になる予定でいるかな。
現在は、何度か話したことがあるだけの仲かな。
何を懸念しているのか知らないけど、知り合いなんて考えてなるもんじゃないでしょ。なんとなくだよ。なんとなく。
[あまり実りの無い会話を続けながら、桜の見える場所まで辿り着き、雪夜と共に満開の桜を眺めた]
あらま。見事に咲き誇っているわね。
……困ったもんだ。
……さて。
ある意味では、ここからが本題なわけだが。
命に関わるっていうのは、この壁の中で起きるのが文字通りの生存競争……人と人との喰らいあいだから、だ。
人を喰らう、『憑魔』というもの。
そして、それを喰らって清める、『司』というもの。
一体、どういうモノなのかはわからんけど、そういう、特殊な力を持った連中が、この壁の中にいる。
龍先輩……この騒動に一緒に巻き込まれた、俺の仕事の先輩は、『司』としての力を持ってて。
『憑魔』は、自分の最も強い願い、それを叶えるために人を喰らって力をつけるんだと言っていた。
そして、『司』は、それを阻むために、森羅万象の力を借り受けて倒した後……喰らう事で、清めるんだと。
[ここで言葉は一度途切れ。
は、と小さなため息が零れる]
……ま、あんまり気分のいいモンじゃないらしいが。
─路地裏─
…………。
[オレは立ちつくしたまま眉根を寄せていた。
オレを追いかけていたはずの同級生が、目の前で地に伏せている。
頭を潰され、ところどころが欠けた状態で]
…………。
[言葉が出なかった、むしろ押し殺した。
人を喰らっていたモノが喰われていると言うことは、他にも居ると言うこと。
折角拾った命をまた危険に晒すわけにはいかない]
───回想───
[少しだけ眉根を寄せながらその桜を見つめていたが、不意に雪夜が綾野へと向かって歩き、乱暴に問いただすのを見てさすがにその目が険しくなった]
ちょっと!せったん!
女の子に乱暴なことしちゃダメ!私と同じような感覚で他の子も扱うのはさすがに失礼よ。
[そんな言葉でたしなめてみたが、あまり声は届かず効果は薄いようだ。
神楽の言葉に迫力が全く無いというのも起因しているのかもしれないが。
それから、綾野から語られた内容に、指を口に当てて考え込む]
ふむ。
大体本で読んだとおりの内容ね。っても斜め読みだったからあんまし覚えてないけど。
まあでも、役割は果たさなきゃいけないかなあ。気乗りしないな。
まぁまぁかな、腹の足しにはなったか。
[手についた赤や口の周りは綺麗に拭き取って。
オレは”人”のスピードで走る]
もっと力つけたいんだけどなぁ。
何喰えば良いんだろ。
桜が咲いたから始まるのか、始まるから桜が咲いたのかは、知らん。
……『桜花』は、始まるから咲いた、とか言ってたが、実際はどうなんだか。あれも、単純な怪異の枠には収まらんようだし。
騒ぎと桜の関連性は、龍先輩にもわからなかったらしい。
身も蓋もない物言いをすれば、超自然の法則。
俺たちの考えうる常識で図ろうとするのが、無意味なんじゃないかって、レベルの事なんだろうけど。
[そこは、考えても考えても結局答えのでなかった事だから、到達した結論でしめて。
だいぶ冷めたコーヒーを口にする]
……ま、後わかってるのは。
生き残るには、『憑魔』をどうにかせにゃならん、って事だけだ。
『憑魔』から見れば、他は全て『餌』扱いらしいからな。
[それは、実際に『憑魔』に──『憑魔』となった、茶髪の仕事仲間に言われた言葉]
とはいえ、非力な一般人には、きつい話ではあるが。
[その時の事を振り払うよに、小さく首を振って。
最後は、冗談めかした口調で、話をしめた]
───回想───
[考え込んでいる間に、雪夜は綾野の襟を離し、怒りの形相と共に桜を殴りつけたが、神楽にもそれは気持ちは理解できたので特に何も言うことは無かった]
[風が揺れ、
ワラい声が、
鈴の音が、響いた]
……知った話を総合すると、「桜花」にとって私達は単なるモルモットだもんね。
そりゃ、笑いもするわ。
んー……気にくわないなあ。
筋書き通りの物語の演者になると思われているのが。
[桜に近づくと、更に自身の内から湧き上がる衝動の一つ一つが、その力が、神楽には気に食わない]
生憎と、貧困暮らしを続けていてもお恵みで生きていくほど落ちぶれてはいないんだよ。
アドリブの激しい役者の底力見てなさいよ。
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