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…じゃあ俺がイヴァンを襲いそうになったら、
……俺を食べればいい。
[どうせ死ぬなら自分が最初。
つい最近言った言葉が、頭を過った。
きっとそれは、突き放した音色だと知っている]
…俺が可愛い、には賛同出来ない。
[少し憮然とした表情で、イライダを見上げる。
子供扱いに対してそう思う所は無かったが、
可愛い、愛でられる対象、というには反論したくて]
イライダはいつでも綺麗だね。
[少し大人びた声を出してみた、心算。
からかうではなく、大人な女性の空気に向けて
本当に思っている事をつげただけだけれど]
ロランともカチューシャとも。
兄貴とも一緒にいたいよ。だから…、けど、
けど…、だから……、
[問い交わす、木霊が鎖のように連なっていく]
良い返事ね。
[キリルの反論はなく、くすくすと笑いながら頷いて。
それからロランの否定の言葉には、面白そうに笑った]
素直に可愛いも言えないようじゃ、まだ可愛がられる一方よ?
[続く褒め言葉は、なんでもないように受け取った。
がんばった感もしっかり伝わったよう。くすくすと笑いながら答える]
ありがとう、若い子に言われるの、とても嬉しいわ。
[若い子、とか言ってる時点で、やっぱり愛でる対象なのにかわりはないようだ、ともいう]
好きな子に、格好良いって言ってもらえるような、良い男にならなきゃね。
[車椅子だから、手はとても簡単に届いてしまう。
避けられなければ、頭をそっと撫でようと]
[一緒に、いたい。
そんな言葉が、どこかとても遠くに感じる。
人成らず狼成らず、自分のその葛藤もまた別の所から見る自分も居る。
どこか、冷たい烏色で見下ろす、自分を、感じる]
――キリル、は、先に…死なない。
[聞こえた囁きに、返す言葉は短い。
彼女が望む答えじゃないだろう事も、知って居る。
だから、だからこそ、わざと低くゆっくりと囁いた]
…イライダは、若いよ。
[夫と小さな子。記憶にはまだ有る。
それでも彼女が老いたとは思えず――くすくす笑う彼女を
そっと見上げ、長い前髪の隙間から伺った。
伸びてくる手を拒む事は無い。
撫でられれば、そっと目を伏せて暫く考える、間]
良い男、にはなりたいけど。
俺には無理だ。
[自嘲めいた口調が零れるのと裏腹に。
俯いた顔は、少しだけ、ほんの少しだけ困った風に眉を下げた]
[年の功か。
自身の適量を理解している男が酒を飲みすぎる事はない。
普段どおりに朝食を作りそれを口に運ぶ。
彩りの良いサラダと少しだけ不恰好なチーズオムレツ。
そえられたパンは昨夜の余りを拝借したもの。
葡萄酒の酒気の代わりに漂うは紅茶の芳香。
長閑な村だからか男の性格ゆえか
ゆったりとした時間が流れる]
獣の仕業なら村の周りに罠でも仕掛ける、か。
それなら……
[ミハイルに相談してみるのも良いかと思う。
獣ならば多少の効果は見込めそうだが
獣ではなく噂の人狼なら――。
過ぎる思考にゆる、と首を振り窓の外へと視線を向ける]
どうして?
[ロランの言葉が、どこか遠い。
生きることを諦めてしまったような虚無が気になるのは、
あの時と変わらないよう。
あの時は互いに人として、今は同胞として問いを重ねる]
…どうして?
[ただ、今度の問いはただ静かにあった]
私にとってはまだまだ、ロランくんは子供だけど。
断言してあげる。絶対、無理なんかじゃないわ。
[うつむいた表情は、うまく読み取れはしないけれど。
慰めではなく、本心から強く言って]
色んな人を見てきたお姉さんを信じなさいな。
動くことだけが良い男の条件じゃないのよ。
メーフィエが良い例じゃない。
[正直情けない、と言われることが多い夫だったから。
そう思わない?なんて、ロランに笑みを含んで問いかけて]
それにキリルだって、マクシームだって、あなたが良い男になれないなんて言わないと思うわよ?
ねぇ
[その場の二人に同意を求めたり]
――どうしても。
[囁きに、目を閉じて静かに返す言葉は子供じみたものだった。
問いの静けさに、こくりと喉が鳴る。
イライダに向ける表情のままに、少しだけ唇が震えて。
気づかれぬよう、そっと、噛みしめた]
…食べたい、と、生きたい、と、共に居たい、と。
どれかは…選ばないと、だから。
[本能の奔流に逆らうが叶わなければ、
選ぶことすら出来ないのだけれど]
でも、
[紡ごうとした言葉を切り、唇を噛んだ。
大人の女性は、本当に苦手だ、と思う。
一生懸命繕い隠そうとする内心が、見抜かれる気がするから。
それが、心地よいと思えてしまうから。
笑み含めるイライダの声に、ゆっくりと顔を上げた。
僅かに、居心地悪そうな顔の血色が良く、なる]
…――、う、…ん
[それからまた、顔を背ける。
メーフィエ、との名が出て僅かに動きを止めるのは、
思い出させたのかな、と、不安になったからだ。
キリルの言葉にもまた、俯いてしまった。
膝の上に乗る手を見下ろす。きゅ、と握った]
[は、と、顔をあげる。
キリルがイライダの下へいこうとしていた、のを思い出して
…、あ、2人は用事がある、んだよね?
俺、邪魔してる。
[マクシームが余計な事言いやがって的視線を向けた気がするが
ロランはそれどころではなかったので、受け流すことにした]
…分からない。
[頑なな言葉に、イライダへ向けるのは少し困った表情。
きゅっと唇が噛み締められる動きは、より頑固な仕草に映る]
分からないよ、ロラン。
子供扱いなんてそんなこと
[してない、とはっきりと否定はしなかった。笑いながらの言葉である。
キリルの言葉も聞いて頷いて。もちろんマクシームも同意であり。
ロランを見る目は、困った子を見るようでもある]
良い男になれるわ。
なりなさいな。
[うつむいてしまったので、また頭を撫でる。
大丈夫、と安心させるように。手も震えてなんかないし、表情が崩れたりもしていなかった]
あ、そうね。キリルにあげる約束だものね。
[ロランの言葉にうなずいて、キリルを見る。来る?と問いかけつつ、話をするようなら都合の良いところまで待つつもりでもあった**]
それは、そう。だけど……、
ロランは、選べた?どれか選べそう?
[難しい選択と、既に良く知っている。
あの人が嫌いだったわけじゃない。その逆だ。
いなくなってしまって寂しい、そう思う自分もいる。
──…けれど彼を殺したのは、紛れもない自分自身。だから]
[既に予感がある。
一度赤い月に狂ったボクは、もう、本能に抗えないだろう。
いや。いずれ、月がなくても狂うのかも知れない。
昨夜、イヴァンをこの牙に掛けかけたように。
周囲の気温が少し下がるような心地と共に、厳然と思う。
自分は、紛れもなく人狼なのだと。
気温が下がるような心地と共に──…そして甘美なる記憶と共に]
それとも……、
人狼ってバレたら、ロランに食べても貰えないかも。
きっと、殺される よね。
[軽口の口調は、紛れもなく現実の脅威であろう。
ふるりと、寒さの所為ではなく肩が震える。
でもそれは、どこか現実感の薄い恐怖でもあった]
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