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─宿屋1階/夜─
[シャロンが2階へと連れて行かれた後、少しぼんやりとしていたが、自警団たちに遅れてやって来た黒髪の男性の姿には、と我に返り]
御師様!
[とっさに駆け寄ったのは、やはり、心細いものがあったからか。それでも、思わず縋りそうになるのは、ぎりぎりで踏み止まり。
問われるまま、自分が見たクローディアの様子を話して。
そうしていると、また左肩が疼くような気がして、無意識にそこを抑えた。
その様子に、師はやや、翳りめいたものを浮かべ]
[それから、少し話をして。
しばらくは、現場近くにいた者、という事もあるが、とにかくここにいるように、と言われ、不安を感じつつ頷く]
「……すまないな」
……え?
[投げかけられた言葉の意味。
その意を問うより早く、自警団員が師を呼び、検死をする、と2階に上がるその背を見送る]
……った……。
[直後にまた、頭痛を感じて。
今の内は休んでおけ、という主人の言葉に従い、足元に擦り寄ってきた黒猫を抱えて、2階の部屋へ]
……はあ……。
[部屋に落ち着くと、急に力が抜けるような心地がして、その場に座り込みそうになる。
それでも何とか、ベッドまでは歩き、白の上に腰を落ち着けて]
……でも……どうして?
あれは……あんな様子って……。
[知っている、ような。
そんな気がした。
クローディアの様子は、違う誰かの様子を思い浮かべさせるが、しかし、それが誰の姿か、と考えようとすると頭の奥が酷く痛んで]
……もう……なんなんだろ、これ……。
〔コポコポと小気味良い音、ほんのり漂う珈琲の香りに、夢から現実へと戻る〕
《…キィ…》
〔きっかけの発生源を辿る。鼻歌混じりに支度する妻の横顔。男の気配に気付くと、温かい笑みと挨拶を投げて寄越す〕
おはよう。何か夢見たんだが、忘れちまったよ。
…どっちかっていうと、良い夢だった様な…。
…さあな。思い出したら教えてやるよ。
《…ィキィ…》
〔約束よ、と小指を差し出してくるので付き合ってやる。彼女は満足そうな様子で、今日の帰りは遅くなる旨を告げた〕
…村の外に出るなんて久し振りだろ?ゆっくりしてこいよ。
《…キィキィキィ…》
[ふるり、と首を振る。
痛みを、ぼんやりとした感覚を、何とか振り落とせないものかと。
しかし、それは叶わなくて]
……そういえば……あの、傷の感じって。
[それからふと、ある事に思い至る。
視線が向くのは、何故か疼く左の肩]
……これと……この傷と……同じような……感じ?
[小さく呟くも、答えは出ず。
やがて、苛む痛みと、昼間走り回った疲れが出てか、*眠りの淵へと引きこまれて*]
《キィィィイ…ッ!》
〔ガバ!と半身を起こす。いつもと違う手触り。景色。…周囲を見回すと、ノブやエリカなど見知った顔が〕
あー、俺あのまま宿で寝ちまったのか…。
おい、フランとシャロンはどうした?
〔宿の主人へ問いかけると、昨日の顛末を教えてくれた。それと、手渡される温かい珈琲。そっと、匂いを嗅ぐ〕
…あれ…。何か夢見てたんだよな。どんなだったかなー。
〔呟くランディの前に、部屋の鍵が置かれる〕
ん?俺もここに泊まれって事?すぐ近くに家があるのに…。
〔ここまで言いかけ、赤く染まった部屋の事を思い出した〕
ん…。まぁ、仕方ねぇ…か。
じゃ、有り難く使わせてもらう。流石にベッドで寝ないと、腰にくるわ。
〔トントンと握り拳で腰を叩きつつ、部屋へ向かった〕
ふぅ…さてと、そろそろ例のが届く頃だなぁ。
あ、マスターご馳走さまだよぉ〜?
お代はここに置いとくねん。
明日はもうちょっとハチミツ足してくれると嬉しいかも?
[キィキィと音をたてて車椅子は部屋へと消えていく]
[目を覚ましふと顔をあげる]
[目の前の女性の顔に昨日の記憶がふとよみがえる]
この人も……私と同じなのね……。
大切な人が壊れた姿……兄さん………。
[喉の渇きを覚えてマスターにお水を、と]
兄さん……。
[部屋の中、窓を叩く一羽の鳩。その脚に緑色の筒]
やぁ、やっと来たみたいだねー。
ほらほら、ご褒美の乾燥トウモロコシだよー。
[手の平に乗せたトウモロコシをついばせながら、脚についた筒を片手で器用に外し開ける。中から出てきたのは一枚の羊皮紙とペンダント]
ふむふむ…御守り…ね。
なぁーるほどぉ。『エレナの聖釘』ってところかなぁ?
[ペンダントの飾りは小さな小さな銀色の釘]
まったくねぇ…準備周到というか、なんというか。
一度で良いから君のご主人さまにちゃんと会ってみたいもんだね?
[鳩の胸元を指でコチョコチョとくすぐりながら、緑の筒にいつもの返事を入れる『thx』その3文字だけが書かれた手紙]
[受け取った水を飲み干すも、小首をかしげ]
……もっと………もっと頂戴?
[ちりんと鈴が鳴り、視線は小袋に]
[何か忘れている]
[―――何?]
兄さんは、潤してくれたのに?
クローディアさんだって。
[ぽつりぼやく]
[覚束無い足元はふらふらと]
ねぇ……頂戴?
[ちりん ちりんと]
[個室の廊下]
[人気があるのは一室だけ―――]
[その部屋の扉をトントン、と小さくノックする]
ノブさん?います?
[少し甘みを帯びた声で]
わたしはいつだってひとりぼっち。
にいさんだってわたしがきらいだったのよ。
わたしがじんろうだったから。
みんなとちがういろだから。
ああ、あとでかかなきゃ……クローディアさん。
きれいだったなあ。
にいさんのとなり。うれしいでしょう?
[血色のクロッキーブックを思い出して、笑う]
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