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[入ってきた青年の姿――青の髪、青の瞳を見、私は目を瞬く。
刹那目が合ったかも知れぬが、それは単に見回す為であったか。
言葉交わす事なく、彼の青年が白の獣の方へと手を伸ばすを見た]
……っ!
[そこへ掛けられし声――避けし方角のそれに、獣の耳が跳ねる。
「とって」「喰ったりとか」
そう言葉を紡ぐ青年の前には、既に空になった大皿数枚、鉢数個。
食後の菓子と思しき皿は、どう見ても切り目のない丸のまま。
「しないから」
そう続くまでの刹那、私の脳裏に何が浮かんでいたかは語るまい]
冷たいな。また冷えてるのか?
水にでも漬かったか?
[そっと、アーベルが嫌がらなければ肉球で頬に触れようと、それでも爪が何かを傷つけないようにそうっと腕を動かした]
[暗き檻][忌まわしき血の匂い]
[枷と鎖に縛られ、動けぬ我が身]
[額の角は裂かれ][内に抱く真珠は削られ][左後脚には骨までの棘]
水。は、浸かっていない。
[北山で遭難しかけたりはしただけで。]
[小さな音へと一瞬目をやったが、]
[頬に触れる柔らかさに片目を瞑り]
[ゆっくり、目蓋を上げると、見上げた]
[舞う蓬髪は、彼の仔を包むように降る。
私は少しだけ抱く手に力をいれ、温もりに縋る]
…すみませぬ。苦しくしてしもうたか…?
[彼の仔と目が合ったなら、小さな声でそう謝罪しただろう]
…冷たいな。俺なら寝るぞ?こんなに冷えてたら。
また風呂に放り込むか…?
……ナターリェ、大丈夫か?
[アーベルの頬をぺたりと触り、心配げに目を覗き込む。
落ちたエーリッヒは無事そうなので視線を戻すと、流れる視線にぺたりと耳を倒した耳が目に入り、思わず声をかけた。
その耳のサインは良くわかるが故に]
[私は驚いたように見上げる彼の仔に、小さく謝罪する。
空を飛ぶ羽音に顔を上げれば、彼の猫が飛んでいく姿が見えた]
…ィ……
[エィリ殿、そう言い掛けた言葉は発せられる事なく消える。
反省の効果か、少なくとも喰われはせずに少女へと飛ぶかの猫に、私は安堵の息を吐いた]
……、そう?
[ぱちり][一度瞬いて、僅か首を傾げて]
(頬に触れられているから本当に少しだけ)
[ちらり][隙間から左の淡い青が覗いた]
[視線を向けようとするも見えず]
[寝ている耳が彼の眼に映る事は無い]
…お前は昨日から、ひょっとして風邪を引きたいのか?
あれ。お前こっちの目はどうかしたのか?もともと?
[そのままアーベルが動かなければ、黒茶色の大きな手を、てしてしと頭の上で弾ませる。
と、前髪の隙間から現れた薄い蒼に気がついてたずねてみる]
[私は刹那、心の内へと入り込んいたであろうか。
掛けられた声に瞬いて見れば、その主は片手を獣へと変えていて]
あ……そなたも…
[獣族であったかと、知らず入っていた肩の力が僅か抜ける]
…えぇ、大丈…夫。
少し驚いただけ…ゆえに。
[僅かに瞳は赤毛の青年へと揺れるも、私は睫毛を伏せて隠す。
再び目を上げれば、獣の手に遊ぶ青の青年にも気付こうか]
「平気だよ?」
[答える声は、少し驚きを帯びてはいたけれど]
「……大丈夫。
ボクらは、律をだいじにするから」
[続いた言葉はやや唐突か。
竜は律を重んじ、それを知る者は、無闇な破壊や殺生をせぬと。
伝えたいのは、それ]
< 床に落っこちて(いえ、座って、でしょうか?)いる猫は、かしかしと頭をかきました。
それから、ぺたぺた、歩いて、ナターリエに近づきました。
その腕の中の子どもに、ぴょんっと猫らしく近づいて >
だいじょうぶ、だよ
< 安心させるような、なき声です。
落っこちていたのを見られていたら、どうにもこうにも、決まらないですけど。 >
―中央エリア―
さて……これ以上は、ここにいても仕方ないし……戻るか。
[鎖を戻し、呟いて。
す、と視線を西に向ければ、白梟が戻る姿が目に入る]
お帰り、相方。
[満足したか? との問いに、白梟は羽ばたきで答え。
肯定の返事に、くく、と低く笑みつつ屋敷へと]
風邪?
……別に。
[頬から離れた手][ふるふる首を振る]
[かと思えば、ぽすんと頭の上で弾んだ。]
此方。
[左手を持ち上げて][左眼の辺りに触れる]
……、
…………わからない。
[ぽつりと答えた]
[其処からは強い機鋼のちから]
[屋敷に戻っても、広間には向かわず、庭の方へ。
たどり着いたのは、露天風呂]
今の内に、のんびりしとくかあ……。
[この先ゆっくりするのは無理だろうし、と。
嫌な未来予想図はしっかりできていた]
[驚きを帯びつも平気と答える声に、私はまた僅かに肩の力を抜く。
続いた言葉には意味を捉えること叶わず、菫青石の瞳を向ける]
律…?
そなたら…それは……
[腕に在る仔は、機鋼の竜の『魂』。
それを守りしは、時空の竜。
曖昧にではあれど、彼の青年が人ではない事だけは理解しようか]
……そう、であったか。
すまぬのセレス……否、「ありがとう」と言うが相応しかろうの。
[私は心を救おうとしてくれた彼の仔へと、慈しみの目を向ける。
今、私が此処にあるは――呼ばれたは、仁ある次代の竜王が生まれし故かも知れぬと想いながら]
…ん。
わからない、か。
ま、とりあえず…風呂行こうな、風呂。
露天風呂あったぞ、大地探ってて分かったけど。
[強い機鋼の力には少し目を細めるも、鋼を扱う事がある故に気持ちの悪いものではなく。
アーベルのシャツの首後ろを掴もうとし(嫌がるならば手を引こうとするだろうか)、そこにいるナターリエや猫にも「いくか?」と声をかける。]
[近づいてきた彼の猫に、私は緩やかに腰を屈める。
自然、腕の中の仔も一緒に屈もうか]
[鳴き交わし、舐められる様子には、仄かに表情を和ませて見守る]
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