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だろ?
[手を空へとむける様子に、微かに笑む。
話しているうちに、気持ちの張り詰めた部分は、多少は緩んだようで]
……あの子の精神力次第……かな。
いずれにしろ、長くは保てないはず。
聖殿に残ってる力を結界まで広げるとか、多少の無茶すれば少しは持つだろうけどね。
[あの場に張られている護りの陣の力。
四翼解放した状態であれば、それに干渉できるであろう事はわかっていたから、軽くこう言って]
……治癒の力で、かぁ。
どうだろうね、それは。『虚』の作用は心に響くもの。
身体の傷に関わる力では、難しいかも知れないねぇ……。
アタシの母上は、気脈を読み、その歪みを見出す力を持ってはいたが。
……生憎と、そっちの力は引き継げなかったからねぇ……。
母上?
アヤメの母さんか。
そいや、そういう話ってあんまり聞かねぇな。
そっちの力、って事は、親父さんの力は引き継いだって事か?
[きょと、と目を瞬いてアヤメの顔を見て、再びラウルの首筋を指で撫でる。]
何か出来る「力」があるって、良いな。
俺も何かあれば――親父もお袋ももうちょっと楽出来たのかねぇ。
[指に嬉しそうにするだろうラウルを目を細めて見るが、その目線の先はどこか遠く。]
―深夜・結界樹―
[見舞いに来た、と言ってすぐにぺしり、と木の幹を叩いた]
面倒ごとと心配を、ずいぶん残して行ったものだ。今日のアヤメやジョエルの嘆き方、知らないだろう。正直、こんな落ち着かないのは好きじゃない。何とかはしたいところだけれど・・・。
[声が蘇る。ジョエルの言った、守護の将の力の事]
……私には、その力はない。
[樹上を振り仰いだ。改めて捥いで見るまでもなく、知っていた。幼い頃、6枚の羽に憧れ、結界樹の実に触れたことがあったから。実は崩れ、手には何も残らなかった]
……虚に力があるのならば、染まれば、望むものも手に入るのだろうか。……なんて、な。
[清浄な空間にぽつりと呟きを落とし、銀の翼を伸ばせば、空へと舞い上がった]
ああ……ま、アタシの親の話はね。
しても、面白いモンでもないしさ。
[父は生まれて間もなく、母も五つになるかならないかの頃には病に倒れた事もあり。
特に父の事はスティーヴから聞いた程度の事しか知らぬため、話題に乗せる事は余りなかった]
……ああ、母上の話では、ね。
アタシは、そっちの血筋を強く受け継いでるらしい。
……「力」だけあっても、使えなきゃなんの意味もないさ。
それに、アンタはそんな力なんかなくても、十分色々できてるじゃないのさ。
[どこか遠くを見るよな目に。
ラウルは円らな瞳をきょとり、とさせた後、案ずるようにくるる、と鳴いて]
―診療所―
[じっと見つめてくるオーフェンの視線に、にやりと笑う]
急用でなく人を訪ねる時間ではないね。あの子の知り合いかい。あの子は今、水汲みに行ってる。これから朝ご飯にするところだったからね。あんたも何ならここで、食べていくか?
では、まあ診せてごらん。ふらふらはいつから始まったんだい。
[器具を用意すれば、診察に取り掛かる]
[遠くに焦点をあわせた目は、一瞬仄暗く彷徨ったが、ラウルの円らな目と声にはっと意識は戻り。
ふる、と頭を振った。]
すまん、愚痴っぽかったな俺。
でも無いよりはいいんじゃないか?どんな「力」でもさ。
俺は、色々なんて出来てやしねぇよ。
毎日に必死だ。
[苦笑を零した後、再びからりと笑って頭を掻いた]
あぁ、また愚痴っぽかった、すまん。
−岩場の上−
[ささくれ立つ翼と感情。
両方を整える為、いつもの場所で羽の手入れをする。
雲海を臨む岩場は近づくものなく、独り呟くのに向いていた。]
………まったく。情けないものだ。
[思い起こすのは、広場での出来事。]
うん。知り合い……かな。
そっか、いないんだ。
[老婆の言葉に小さく頷いて、朝ご飯と聞けばお腹が鳴る。診療が始まれば、大人しく一つずつ指折り数え、首を傾げる]
んと……みっか、よっかくらい……
ううん、もっと前、だったのかも。
謝りなさんな、って。
アンタは普段、人の愚痴とかはよく聞いてるけどさ。
自分のは滅多に吐かないんだから、出せる時には出しとくのがいいんだよ。
[笑いながらの言葉に追従するよに、ラウルもぴいぱた、羽ばたいて]
ないよりマシ……か。そうかもね。
問題なのは今、それをどう使えばいいのか、アタシ自身が迷ってる事だけどさ。
……毎日必死、か。
でも、そうやって打ち込めるもの、入れ込めるものがあるのは、いい事だと思うよ……?
[最後の部分は、ぽつり、と小さく]
や、長男の俺が愚痴ってる場合じゃないからなー。
力をどう使うか、か。
んー、俺にはそれは…無責任だが、なんともアドバイスしてやれないなぁ。アヤメがやりたいようにやるしか…無いんじゃないか?
大丈夫、誰も文句言わないよ。
[人懐こく目を糸にして笑みながら、ラウルを撫でていた指を少し落としてポンとその肩を叩き]
打ち込める事…つか、俺の場合生活だからなぁ。
何か打ち込んで忘れたい事でもあるのか?…あの軽い男の事とか。
[最後の言葉は勤めて明るく]
……あは……大変だね、大黒柱。
[からかうように言う。
その立場は大変なのだろうけれど、そう言える幼馴染が羨ましいのもまた、本音]
アタシのやりたいように……か。
ん、そうだね……それしか、ないか。
[肩に置かれる手。それが温かいな、と思いつつ]
ん、まあ……それもあるかも知れない、ね……。
[明るく言われた言葉には、ほんの少しの苦笑を交えて、答える]
[耐えかねたか飛び掛ってきた子供。
ただの子供なら出来る事は知れていると、避けもせず黙って見下ろしていた。
――結局は素早く動いたラスに取り押さえられたが。]
……堕天尸に連なるなら何か力を見せるかと思ったんだがな。
[それで傷を負おうと安いものだと考えていたが、それを口にする事はなく。目は周りの者達の動きを追った。
オーフェンを庇おうと間に立ったロザリンド。
抑えに動いたカレン。襟首に手を伸ばしたカルロス。
アヤメの痛い一言に口の端を歪めるも、その場に仁王立ちのまま動かずに。]
『食べていく方が、よさそうかね。ほら、口開けて、舌出して』
[お腹の音が鳴るのを聞くと、くく、と笑い、診療をはじめる。終えれば、首をかしげ]
『身体はおそらく大丈夫。もうちょっと食べたほうがいいがねえ。
始まったのは3日、4日前かい。ちょうど、虚の気配がし始めた頃だねえ。あんたは、特別気配に聡い子なのかもしれないよ。守護の術は、生憎専門外だけれど……薬に、結界樹の葉を煎じたものを入れておこうか。虚の影響を、少し和らげられるだろうから』
[言うと、薬を調合し始めた。薬を渡し、カレンが戻ればオーフェンを誘い、*朝食の用意を始めるだろう*]
[アヤメの、苦笑まじりの力ない言葉に力が無いように思えて、肩に置いた手に少しだけ力をいれ、ぽふぽふと叩いて]
なんか、あるのか?
相談とか愚痴とかあったら聞かせろよ?
[心配げに肩を屈めて顔を覗き込んだ。]
[老婆に言われるがままに、診療を受けた]
……うん、食べる。
虚の……気配……
[相手を何て呼べばいいのか、一瞬迷い]
せん……せい、感じるの?
……ねえ、婆様のこと、知ってる?
[薬を調合される間、婆様の容姿や住みかのことを簡単に話す。カレンが戻ってくれば頭を下げ、持ってきた野生の林檎を手渡すか]
ん……まあ、あると言うかなんというか。
自分でも、今ひとつまとまりきってない……って感じかな。
[心配げに覗き込むのに、どうにか笑って返し]
まあ、吐き出せるくらいにまとまりそうなら、その内付き合ってもらうさね。
それなりに、覚悟はしてもらわないとだけど。
……とと、すっかり話し込んじまった。
ちょいとあちこち回らなきゃならないんで、そろそろ行くよ。
また、後で、ねぇ?
[すい、と後ろに引いて距離を取り、森の奥の方へと小走りに向かう。
肩のラウルが、これまたまたね、と言わんばかりに*くるると鳴いた*]
…覚悟?
[走り去るその背中、ラウルに右手を振りながら左手で首の後ろをさすりつつ、頭を傾けた]
…なんだ?
[呟きは、木々に吸い込まれるか]
―結界樹―
[聞こえた声にか、動く気配にか、意識がすうと引き上げられる]
君は…?
[翡翠の目が金糸雀色の瞳を捉え、不思議そうに瞬く]
ああ…眠ってしまったのか。
[漸く己がどこにいるのかを思い出して、軽く頭を振った]
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