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[小さな呟き>>541と共に、その姿が近付く。
翼に――…、傷口に触れられれば、いつかの事が思い出され身体が強張った。
身動きも取れず、ただ堪えるように眼を伏せて、唇を噛み、]
―――……っぁ、…は。
[けれど、尖る感触に、悲鳴の様な押し殺した声。
訊ねる声が耳朶に響けども、癒しの力に圧倒される。
傷の痛みはすぐに引き、にも拘らず、ゆっくりと身体から力が抜けていく。
眠りを誘うようなその声に、視線を送ろうとして瞼が開かず、身体を預けるように膝を付いた。
意識を失う前に、縋りつくようケイジの服を握った指は、酷く*真白*の色をしていた]
― 結界樹・上 ―
[飛びながら結界樹に近づくにつれて、苦しかった体は少し楽になる。虚に敏感な体を怨めしく思いながら、樹の上へと降り立つ]
……婆様……も、こんな……苦しみに、晒されて、たの……?
虚に捕らわれる、くらい……に……
[枝に腰かけ、幹に体を凭れるようにすると次第に気は休まる。目を閉じて、施療院での老婆の言葉を思い返す]
婆様、のこと……見てた人、いた……
……婆様、独りじゃ、なかった……の、かな……ありがと……
また、会いに行こう……
[送りだされた時の言葉を思い返し。カレンに引っ張られた頬に、そっと触れた]
[ばさり。
空を打つ翼が、不意に斜めに傾いだ。]
…つ。
[手近な木に止まり、背を振り返る。
その薄金は、もはや黒に金の斑点ほどに染まりきっていて。]
…あー。
[ぽり、と頭を掻いた。]
[大きな木の、太い枝の上。
ゆったり座りながら、開いた羽根を折り曲げて手前へ持って来て、不要な羽根を千切っては落とし、撫でつくろう。]
…はぁ。
[地道な作業に、溜息が出た。]
― 現在・自室ベランダ ―
[ 身支度を整え、髪を纏める。
リディアに届けてもらった本が途中だったことを思い出す。
いつものようにベランダに出る。]
――――――…。
こうして海を見ていてると、何も変わりがないようですね。
[ けれど、研ぎ澄まして気配を探ると―――――。
島の人々の何処か不安な気持ちが伝わってくるようだった。]
巫女姫殿をお救いする、ですか……。
[ 長老は今日にでも誰かを封じるつもりなのだろうか?
堕天尸として―――――――。]
[結界樹でひとしきり体を休めた後、ばさり、翼を羽ばたかせる。森の上を飛び、村の方へ]
……あれ
ラスさん……かな?
[木の上に見知った姿が見えれば、目を凝らした後、そちらに近づいていく]
[はらはらと落ちていく自身の羽根を見つめると、木の下に小さな影を見つけた。
ひょいと枝から体を乗り出し、垂直に降りる。]
よ、どうした?
[オーフェンに、笑いかけた]
[人違いでなくてほっとしている]
うん……ちょうど、見かけた、から。
ラスさん、何、してたの?
[木の下にある羽根を見て、首を傾げる]
ん、羽根繕い。
ぴよぴよと、抜けた奴が出てきてさ。
[ふぁさ、と後ろの羽根を揺らすと、はらりと落ちる薄金。
ところどころ、毛羽立ったみっともない羽根が飛び出ている。]
あんま気にしないけど、たまにはちゃんとしとかないと、飛ぶ時に傾ぐからなぁ。
ふうん……
僕、ぜんぜん、気にしたこと、ないや。
……だから傾ぐの、かなあ……
[興味深そうに、ラスの毛羽立った羽根に指を近づける]
傾ぐのか?
ならたまに手入れしないとな。
干したりもする必要あるみたいだぜ?――俺はほぼ毎日出して飛んでるからあんまり干さないけど。
[毛羽立った羽根は、触れれば簡単に抜けてしまう。
薄金のそれはふわり、ゆらり、川に浮く小船のように揺れて落ちる。]
手入れ……?
……婆様、教えて、くれなかった……
僕も、毎日出してる、から、大丈夫、かな。
[抜けてふわふわ揺れる薄金が軟着陸するまで、じっと見つめてから、顔を上げ]
ねえ、ラスさんって、普段何してる人、なの?
[ 片眼鏡で読書していると、ふと気が付く。]
おや…この気配は…。
[ 眼鏡をはずして顔を上げる。]
――――――…。
とりあえず、心配ですので様子でも見に行くべきでしょうか?
[ そう言って羽根を広げるも―――――。
後ろを振り返る。
暫し考えた後、その身体を浮かせた。]
あは、あは。あれれ?
[目を覚ました。
目の前は岩肌で、体が地をついていない感覚。強い風。]
あは、そうだった〜そうだった〜
[ぶらさがったまま眠っていた]
もしかして、オーフェンと一緒にいらっしゃいますか?
近くに気配を感じたのですが。
[ そう言って感じた気配の持ち主だろう相手に問いかける。]
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