ですけれど、実際は。
考えてもみてください、エーリッヒ様ですよ?
大人しくて、お手伝いさんに怒鳴られただけで素直に謝ってしまうエーリッヒ様です。
朝早くに家を抜け出すときにも、こっそり、あくまでこっそり抜け出して、堂々と出ていったりはしないエーリッヒ様です。……主なんですから、本当はそんなの気にしなくてもいいんですけどね。
[ちょっとだけ、肩を竦めてみせた。]
そんなエーリッヒ様が、ギュンターさんを殺しておいて、とっとと逃げずにわざわざ大声を出して人を集めて自分が疑われるようにする、だなんて、そんな大それた真似できるわけないんです。
仮に、そう推理されると思ってやったことなら。
これはリスクが高すぎます。そもそも気付く人がいるかいないかわかりませんから。
ですから、それもないでしょう。
ここから、エーリッヒ様は人間である、と。
そう、ユーディットは推理してみたわけです。
……ご清聴ありがとうございました。
[微笑んで、スカートの端を摘んでお辞儀した。]