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[ユーディットの答えに次ぐ、エーリッヒの挙動。
にっこりと、笑みを向けた]
エーリ兄。
ブラフとかカマかけとかって言葉、覚えるといいよ。
[つまりは、思わせ振りな言動をしてみただけということ。
気になる事は今までにも幾つかあったが、確信はなく。それで何か情報が得られれば僥倖、と言ったところだった]
単なる痣で、その包帯は、ないよね。
マゾヒストか、血に飢えた人狼か、何かしらの力を持つか――
さて、どれだろうね?
ええ、そうなの?
[嘯くアーベルには目を丸くしてみせ、くすりと笑った。]
じゃあ次からはそうしてみようかな。
[悪戯っぽくエーリッヒを見遣って。
駆け引きを楽しむかのようなアーベルの台詞に、黙って聞き入る。]
……私が考えてる以上に、アーベルは考えてたのね。
[凄い、と、漏れるのは素直な感想。]
じゃあ、私の行動は半分読めていたとして。
それで、何か判ったことはあった?
[それは、ユーディット自身に対しての判断、という意味でもあり、またその他の人間への判断という意味でもある。
アーベルからエーリッヒへの問いかけには。
それこそ自分はただの怪我だと思っていたから、きょとんと様子を見守って。]
や、一応は聞いてみた方がいいかと思って。
……というか、ほんとに……観察眼、鋭いねぇ。
[さらりと返しつつ、立ち上がり、軽く身体を伸ばす]
どう動くか、と興味はもたれても、な。
見極める者が二人。
伝承が踏襲されているならば、一方は偽る者。
どれだけの時間があるかはわからんが、行動から真偽を読み解くしかなかろうな。
[どちらに信を置くとも言わず。
続けて向けられた笑みに、肩を竦めて]
さて、どれが正解だと思うかな?
[にこり、と逆に笑みを返してみた]
[女将らに気づかれないようにそっと出て、一人真っ直ぐ目的地へと歩いてゆく。
幸いというよりは半ば意図的に、誰にも会わずに目的地へとたどり着く。
着いた先は、親友の家の前。
そこに背の高い影を見つけて、その前に立った。]
…お医者先生。
[囁きは小さい。]
[昨晩は遅くに宿を後にした。酔いは見えないがゆらめくような、いつもの歩調で家へと向かう]
[書斎。あちらこちらにある本の塔を一つ一つ崩しては調べていく。散乱した本で床は前より酷い有様になったが、気にする気配はなく。やがて古い日記らしき物を引きずり出すと、流すようにめくってそれを眺め]
……。
[ぱたり。閉じた日記を机の上に置く。それから崩れた本の隙間に横たわり、久方ぶりに眠った]
まあ、厭でもね。
自然と考える癖がついたってところかな。
[ユーディットの感想に、返るのは素っ気無い言葉。身を壁に預けるようにした侭、気怠けに、若干ながら、片側へと傾く]
少なくとも、イレーネは人間。
その占いの基準は「信じられる者以外は全て疑う」
「疑わしいものを視る」「故に、誰を視ても同じ」だったかな。
それで、ティルを選んだと。
本当に能力を持っていれば良いけれどね、有無まではわからない。
[伝承にはあっても、全く同じ状況になるとは考えていない。故に、低い――同時に、同じ力を持つ者の存在する可能性も、見積もってはいた]
そうでないのなら、裏の理由を考えないとね。
[どう思う? 謎かけをするように、ユーディットに問うた]
ああ、イレーネ。
貴女を呼びに行くところでした。
[小さな呼びかけに顔を上げた]
…ミリィが上で休んでいます。永い眠りの中で。
作品が完成したら貴女に最初に見せると約束したのだと、そう言っていました。
どうぞ、見てきてあげて下さい。
あの素晴らしい作品を…。
[門灯の影になり、その表情は隠れたまま]
後は……、
ユリアンは酷く、“人間らしい”ね。
心底、イレーネの事を信じているらしい。
そのうち刺されそうだ。
[言う内容の割には、危機感の薄い様子]
人狼も人間であるというのなら、
それは証明になるか、知らないけれど。
……なんつーか、詰まんね。
[この非常時に漏らす言葉ではないのだが、今まで仕事続きで日中何もしないと言うことはあまりなかった。
やることもなくぼけっとしているのは何とも味気ないもので。
仕事が無いとこんなにも暇だったのか、と改めて思う。
しばらくの間工房傍の木の根元に座り込んでいたが、あまりにも暇なために適当にぶらつくことに]
行動から、ねえ。
伝承なんて、都合よく踏襲されるものかね。
その考えでいくのなら、客観的な立場に立てば、
間違いなくイレーネの方が本物だと断ずると思うけど。
[自覚はある癖に治す気は微塵も無い。
エーリッヒに返された笑みには、少しだけ、その色を変えて]
二番目だったら、面白いね。
[そう告げられても、イレーネはその場から動こうとはしない。]
…お医者先生、大丈夫?
[素晴らしい作品と評される、自身も心砕いていたそれに心惹かれなかったわけではないが。
それより気にするものはあった。
今は周囲に人は居ない。
だからだろうか、何時もより声は薄い。
オトフリートの表情を、伺うようにじっとその場に佇んでいる。]
伝承がどこまで踏襲されているかなんて、誰にもわかりゃしないがな。
[言いつつ、見やるのは先ほど置いた書物]
伝承に寄るならば、見極めるものは先陣に立つ導き手。
イレーネの行動は、それに合致するが。
……必ずしもそうじゃない現実も目の当たりにしてきた身としては、それだけでは信は置けんかな。
ま、君の動き方も大概、信を置きにくいんだが。
[さらり、ある意味物騒な事も交えながら言って]
……まあ、話の種として、一番面白いのはそれかも知れんが。
生憎と、そういうお約束は好きじゃないんでね。
……ついでに、痛みで喜ぶ趣味もないぞ。
……大丈夫ですよ。
[僅かな間を空けて静かに答える。
どこか力ないそれに説得力は無かっただろうけれど]
私は一度診療所に戻って鞄を持ってきます。
一人にするのは忍びないので、どうか傍に居てあげて下さい。戻ってきて終わったら、自衛団の人達を呼ばなければいけませんし。
[気の立っている彼らのこと。
まさかあの作品を壊したりはできないだろうが、容疑者の一人でもあるイレーネを傍に置いてくれるとは思えない]
さあ。
[玄関の扉を開け、重ねて促した]
イレーネは人間。
[復唱して、どうしてそう考えるのだろう、と思い、]
……ああ。イレーネさんを視た、ってこと?
その結果が、人間、だったの?
[確認しながら。説明を大人しく聞く。
唐突な質問には、え? と声をあげ、宙を見て考える。
そう、それは……その理由は、全く考えていなかった、わけでもない。そこに、新しく加わった情報を加味しながら、ゆっくりと思考する。]
もしイレーネさんが人間で……そして、力を持っていない場合。
[うん? と疑問符が漏れる。]
でも、もし人間なら嘘をつく必要は……。
……ああ。
[判った。それは、かつての自分だ。そういった可能性だ。
納得して、もう一度考える。]
捻くれてるねえ。
……信じるだとか虫唾が走るから、置かずに結構。
[エーリッヒと同じ方向に視線を一瞬流すも、すぐに戻して、あくまでも笑みを湛えた侭に投げ返した言葉は、青年の行動理由の一端を表す。
後半の台詞には敢えて何も返さず、あぁ、と指を顎に添え、声を漏らす]
伝承で、思い出した。
聴こえる者が二種類、って何か解る?
[気がつけば視界に広がるのは見知らぬ天井。以前、確かこれと似たような風景を見た気がしないでもないが]
ああ、そっか…確か…。
[酔いも手伝ったのか、家の惨状の事もあり「帰りたくない」気分が強かった。女将やアーベルから事情も事情なので格安で泊めてやると言われて、朦朧とした意識のまま宛がわれた部屋へと転がりこんで]
[ふらふらり。
何となく、足が向いたのは鉱山の方だった。
どこまで自分は仕事馬鹿なんだろう、などと考えながら、そこらに零れ落ちている原石の欠片を拾い上げる]
……こんなんじゃ研磨も出来ねぇよ。
一つでも良いから、塊落ちてないもんかなぁ。
[そんなことを言いながら、日暮れまで誰も居ない鉱山の入り口付近をふらついていた]
人狼に脅されている。のかな。
[ぽつりと呟いて。もう一度思考の海へ。]
ティルを視たと言った理由として考えられるのは……
ひとつには、人間のティルを視たふりをして、人間、と素直に言った。
ふたつめには、人狼のティルを視たふりをして、人間、と嘘をついた。
人狼を判別できる力がある、って名乗っているのは自分だけなんだから、人狼を視て人間といった可能性は少し高い……? そしたらその人狼は疑われることもないし。
でも、そういう力を持つ者がいるかもしれない、ってまだ警戒してることも考えられる。
なら、人狼を視るような真似はしない、かな。
[結局は]
……判らない。
[首を振るしかない。]
君には、負けると思うが。
[捻くれてる、という評価にくすり、と笑いながらこう返し。
続いて投げられた問いに、僅か、首を傾げて]
聴こえる者……?
俺が知る限りでは、見極めるもののもう一方──死者の声を聞くものが、一つ。
それ以外だと……余所の伝承には、意識の声を聞き取り、会話できるものなんかも出てくるが。
あと、考えられるのは、狼の囁きを聞き取れるもの……かな。
[力ない笑みには僅かに眉を潜めたが。
オトフリートに促され、こくりと頷き素直にそれに従う。
暗い玄関の中へと入り、完全に影に沈みこんだ後で振り返り、闇の中からオトフリートを見あげた。]
ミリィの事は、心配しないで下さい。
…ずっと、傍に居ますから。
[小さくどこか冷たさを含む声は、今はオトフリートにしか聞こえない。]
どうぞ、お気をつけて。
Mein domine.
[さら、と衣擦れの音。深く一礼するような気配。
そしてオトフリートの姿が見えなくなるまで、その場に暫く佇んだ。]
そう。解らない。
[確認には頷きを返して、ユーディットの結論にあっさりと同意した]
そもそも人狼と通じているかも解らないのだから、
仮定を積み重ねれば、理由なんて、幾らでも考えられる。
ただ、人間ではあるから、
今は放って、様子を見るしかないかな、と。
それくらい。
真偽まで判れば良かったんだけれどね、大分、力も落ちたみたいで。
[残念、と肩を竦めてみせた]
[ユリアンは「人間らしい」、そうアーベルが言っていたという情報を頭の片隅に置く。
二人の不穏なやり取りには少し身を引いて、少し困ったように両方の顔を見ていた。
聴こえる者、の話題になると、はっとして]
あ、はいはいはいっ。
[勢いよく手をあげる。]
あの、ブリジットさんに聞いてきました。
ブリジットさん、死んだ人の声が聞こえるそうです。
ギュンターさんの声も聞こえてた……聴こえてる、らしいです。
[イレーネと場所を入れ替え、灯に照らされた口元には薄い笑み]
よろしくお願いします。
[踵を返し、振り返らずに去ってゆく。夜の闇の中へと]
俺に勝ったら人間として終わると思う。
[まあ、それはおいといて。
と、一つ言葉を区切ってから、エーリッヒの回答に耳を傾ける]
余所の伝承――成る程、ねえ。
それが存在するとしたら、先の仮定も、変わりそうだね。
その事を口にした当人が、
あの場では話さなかったのは気になるけれど。
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