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……言われなくたって、わかってるっての……!
[自身の受けた衝撃は、いつしか薄れて。
オトフリートの言葉に返しつつ、ノーラの視界を遮るように立ち位置を定め]
……長居するような場所じゃない。
送ってくから、戻れ。な?
[諭すように、宥めるように声をかける。
幼馴染に対し、自分ができるのはその程度の事と*理解しているから*]
塔は折れる。星は落ちる。蓋は崩れる。
黒き影とは何か? 御伽だ。御伽の成立だ。
伝えられしは異形。狂えし者に……
視えし者。守りし者。聞こえし者。
[赤く浸されたそれを見下ろしながら、ぽつりぽつりと喋り出す。語る調子で、しかし誰に宛てたようでもなく]
聞こえし者とは何か? 呼ばれたる者だ。
腐れ落ちる四肢は呼ぶだろう。
叫ぶだろう。そう、――調和!
[単語を口にすると同時に先程のよう両耳を押さえ]
[ミリィに抱きしめられながら、それを嬉しく、心から嬉しく思うも。
幸せの空を見たときには家族が居た。
優しい父、憎まれてはいたが母も。
けれど、今は?
母の代わりにミリィが居て、父の代わりに―――。
でも家族じゃない。
何もなかった頃には決して戻れない。
それは空気の揺らぎが、何かが始まったと震え光る黒いオパールが、じわりと伝えてくれていた。]
[首を振るオトフリートに、頷き。ティルを連れて下がろうとする。
その背に響くブリジットの声が、今度はやけに鮮明に聞こえた。]
……視えし者、守りし者、聞こえし者……。
[復唱する。]
異形、狂えし者……。
そんなものには負けやしない。
[嬉しさと翳りと、そんな二つが内に去来する中で。
いつまでたっても変わらないミリィの軽口に、小さく声を立てて笑った。]
…うん、楽しみにしてる。
約束、だよ。
[お互いに顔を見合わせて、子供の頃のように*笑いあった。*]
……
もう、消えたと、思ったのに。
なんで。どうして。よぶの?
おじいちゃんも…… どうして?
きらい。
みんな、きらい。
また、きえちゃえ。
[俯いたまま、泣きそうな表情をして呟く。その表情と話し方は、まるで幼い少女のようで]
……調和。
そうだ、これは調和だ。そして滅亡だ。
黒き影は何をもたらしたるか?
変容とは?
[しかし次の瞬間には、はっとしたように首を振り、言葉を連ねる。いつもの彼女のように。ニ、三歩後ろに下がり]
お願いします。
[僅かに冷静さを取り戻した声でエーリッヒに頷く]
他の人も集まってきてしまう前に、この場から人払いして下さい。
こんな状態、晒しておくものじゃありません。
[言いながら自分の上着をギュンターの上に掛ける]
誰か、診療所の入り口に立てかけてある担架を。
ここからなら詰め所の方が近いですね。
安置できる場所があればそこへ。
[淡々と指示を出すも、その肩は僅かに震えている]
ブリジット。
どうしました。大丈夫ですか。
[どこか幼く呟く声に気付けば、そちらに手を伸ばそうとして。
赤く染まったその手をハッと引きこめた]
……何でもない。
ただ……
そう、ただ。騒がしい。それだけだ。
そして更なる変容は訪れた。
祈らねばならない。
探さねばならない。
黒き影から逃れる為には。
[オトフリートの声に耳から手を離しながらそちらを見。どこかぼんやりとしながらも応え、周囲の人物らを一望した]
[ユーディットにはもう一度頷き返して]
騒がしい…。
[自らの手は後ろに回しつつ、ブリジットを見る。
そのまま少し考え込むように首を傾け]
ブリジット。
貴女はなにか「聴こえて」いるのですか?
[半信半疑、悩むような声で尋ねる]
[オトフリートの問いに、少しく間を置いてから]
――ああ。
聞こえている。ざわめきが。
意思が。呼び声が。
聞こえし者とは、呼ばれたる者。
御伽に伝えられるその者は……
私、だ。
[視線は落としがちに答え]
意志に呼ばれている?
御伽に伝えられる者。
[記憶の中を手繰る。最前の会話と欠落のある記憶と、そこから導き出されるのは二つの答え]
貴女のそれは天からの啓示ですか。
…信じても良いのですか。
[そう言うものの、首を振って]
私にはその真偽を断じることが出来ない。
ただ、希望となってくれればいい、と思います。
[担架が運ばれてくる。こちらを睨む自衛団員に首を縦に振る]
[あたりの声もあまりに遠く感じて。
視界が暗くなっていくのが判る。]
ぁ。
[揺らいだ肩を支えた手に、引き戻されるように瞬いて。]
…ごめんなさい。
そうね、戻った方がいいよね。
[彼も、そうかもしれない。
そういう思考が無かった訳ではない。
けれど今は、その手が支えてくれなくては崩れ落ちてしまいそうで。
…本当は、この役目は彼のものでは無いはずなのに。]
[小さく頷いて、大人しく帰路へと。]
天からの啓示。どうだろうか。
地からの罪責かも知れない。
信じたい者は信じればよい。
信じたくない者は信じなければよい。
ただ、新たな声が増えし時には。
私はその結果を皆に伝えよう。
[普段よりも静かに、整然と伝え。担架や自衛団員達の動向を眺める。そしてそのうちに場を*離れ*]
[支えられるように寄り添って歩きながら、自分の腕をぎゅっと抱き締めて。]
…わたしには、特別な力なんか無いわ。
御伽噺みたいに、悪い奴を見つける力も…ましてや誰かの危機を救う力なんか持ってない。
けれどね、ひとつだけ…わたしにもできることがあると思うの。
ほら、わたし…酒場で働いて、いろんな人と話す機会が多いでしょ?
だから…
みんなの話を聞いて…変わってしまった人や、隠し事をしている人。
そういう人たちの違和感を、探せないかな…って。
あの、団長さん。
話し合いを…って言ってたよね。
団長さんはきっと、そうやって見つけてほしかったんじゃないかしら。
見つけられれば、他の人は助けられる。
だから…全員処刑して終わらせるなんて簡単な手段を選ばなかったんだと思うの。
[沈黙が怖くて、埋めるように言葉を紡ぐ。]
信じるも信じぬも己次第ですか。
貴女の言葉は含みが多くて…迷う。
[去ってゆくブリジットの背を見つめていると、自衛団の一人に強く手首を掴まれた]
っつ、逃げたりはしませんから。
手が使えなくなってはそれこそ仕事にも差し支えるのですよ。
[離された場所を眉を寄せて擦りながら]
分かり易いのもいいですが。
これは気分の良いものではありませんね。
[呟いた言葉は誰に*届いたか*]
ねぇ、エーリィ。
…あなたは誰がそうだと思う?
難しかったら、そうじゃないって思う人でもいい。
[並んで歩き、視線は合わせぬまま。]
エーリィは変わらないねって、そう思ったの。
なんかさ、こうして気を使ってくれるのって…いつもどおりみたいって。
そんなだから、いいひとでおわっちゃうのかもね。
[宿の前、不安そうに立っている姉。]
ただいま、姉さん。
…ギュンターさんが……
[表情になにかを読み取ったのか、皆まで言わぬ前に姉は手を差し伸べてくれて。
宿の中へと連れ込まれたところで、ぺたんと膝が抜けてしまって。]
…姉さん。
怖かった、怖かったの…!
[しがみつき、堰を切ったように泣きじゃくる。
本当は、姉さんよりもあの人に泣きつきたかったけれど。
幼子にするように頭を撫でる姉の手。
小さな頃から姉の手首にある青い星型の痣が、加護を受けた印だとは知らされていなかった。]
[次第に広がる、漣のようなざわめきの源へと足を向け、辿り着いた先に在ったのは死の臭い。
声こそ出さなかったものの、口には手を当てて僅かばかり眉を寄せた。滅多な事では動じないとは言え、慣れた光景ではない。
途中、姉と、それを支える、彼女の幼馴染みの姿が見えた]
ノーラ姉――
……、エーリ兄、ごめん、よろしく。
[自分にはその役目はないのだと、踏み出しかけた歩が止まる。それは、エーリッヒの役目でもないけれど。
幾許かの距離を空け、背中に向けて呟いた台詞は、姉に届く事はなかったようだった]
[入れ違いの形で、民家の隙間のような場所に立ち塞がる自衛団員のもとに辿り着く。男の制止の声は相手が“容疑者”であったが故に途切れ、静かではあれど、よく通る女性の声が聞こえた]
信じたい者は、か。
流石――フレーゲ先生。
解っていらっしゃる。
[肩に乗った猫の鳴き声は、同意か。
男の横をすり抜け、中心へと向かう。“原因”は既に覆われて直に見ることは出来なかったが、染める赤は見て取れた]
[視線を周囲に巡らせると、医師の男の姿があった。自衛団員が、彼の手を捕らえる。一連のやり取りを眺め、団員が距離を取ってから近付くと、丁度、落とされた呟きが耳に入った]
そりゃ、気持ち良かったら、
まともな人間とは言えないでしょう。
[そう返すアーベルは何方に感じているのか、傍目には読み取り難い。
何があったのかを問い、返る答えを、腕を組んで聞く]
[犠牲者の件、ブリジットの言葉の真意、他の被害について――幾らか質問を投げ、話を聞きながら俯き加減になり思考に耽る。
ややあって、ゆるりと顔をあげた]
……ねえ、先生。
敵が明白になったら、貴方なら如何しますか。
或いは明白にならず、それでも、
行動を起こさねばならないとしたら。
己がそうせねば、愛しいもの身が、危ういとしたら。
[脳裏に過るのは、語り継がれる伝承。
人の醜い部分など御伽噺には語られないが、綺麗なものではなかったのは、容易に想像がつく。
起こさなければいけない行動とは、何か。
*答えを待つ間、白猫は、白金の眸で見詰めていた*]
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