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いや、ほら。
とりあえず放り込んでみるとか。
[さらりと、とんでもないことを言った。
異論反論は無視して、目印などはなくとも、さくさくと森を進んで茂みを越える。
円を描く茸の元まで辿り着くのは、造作もない。
生憎そこには、誰の姿もなかったけれど]
[何か聞こえた気がして、水面を揺らす足を止めた。
じっと、辺りの物音に耳をすます。
川のせせらぎ、木の葉のざわめき、鳥のさえずり。
そして、誰かの声。]
―― 森 ――
[ぴくぴく、ぴきーんっ!]
き、き、聞こえたにゃ!おまえは極悪人にゃーっっ!!
[エーリッヒを指差してふるふると、尻尾逆立ちまくってます]
……取りあえずで放り込むって。
いくら妖精でも、それは大変なんじゃ……。
[でも、妖精だから大丈夫かなぁ、なんて。
ちょっとだけ思ったのは内緒です]
……いない、みたいですねぇ……。
やっぱり、詰め所に戻ったのかしら?
[仕掛けた本人ともなれば、起こった事を知るのは容易くて]
《ごくろうさま?》
[けらり、悪戯っぽさを滲ませて言う。
かれらが来たことで妖精は散ってしまってはいたけれど、声は届くだろう]
[一矢報いた薄茶猫は、血気に逸り追撃を加えようとする]
ツィムト! いい加減におし!
[いつものように手っ取り早く止める為に首根っこを掴もうとして、首輪に指がかかった。なんだか蛙を踏み潰したような声があがる]
すまないねェ、まだ鈴に慣れないみたいでご機嫌斜めなんだよ。
きらきらしてるから嫌いじゃないはずなんだがねェ。
ははは厭だな冗談に決まってるだろうに。
[思いっきり、棒読んだ。これ以上ないくらいに]
……ふむ。なん、かねえ。
[虚空に視線を滑らせてから、地面に落とす。
枯れた茸の内側の、青々とした草。
光を受ける露とは異なる、きらきらとした煌きが散っているように見えた]
誰?
[もうひとつ、聞こえた声に問いかけた。
『人間』の声は、森の木々に吸い込まれるばかり。
それを聞く人ならざるものはいただろうか。]
[やられた片手の傷、親指の付け根辺りに口を当てて血を舐め。
空いたもう片方の手をひらひらと振った。
気にするなという仕草。
それより首絞め状態の猫が気になるらしい]
……猫君も、落ち着くですよぉ。
[無理かなあ、と思いながらもティルに声をかけ。
それから、妖精の環を見やる。
違和感……というか。
妙に、落ち着かない感触が、そこから感じられた]
[しばらく、じいいいいとエーリッヒを睨んでいたが、やがて、ぷいと再び顔を背けて、ぺたぺたと耳と尻尾を引っ込める]
落ち着いてる、よ。
[ミリィの言葉には、そう答えて、慎重に、茸から離れた位置をくるりと一周]
やっぱりへーん。
[ひらひら手を振るユリアンの様子に安堵したものの、続いた言葉に婆は目を剥いた]
いや、いくらなんでもかすり傷一つで縊れってのはちょィと…
[まだ遠く離れた場所、
人の声は風に乗っても、かれの元には到底届かない。
けれど代わりのように揺らぐ水面。
緑に濁った澱みが形を変える。
――あなたこそ、だぁれ。
そう問い返す声もまた、楽しげに]
[一瞬聞こえたうめき声は、あの元気な自警団長のものではなかったか。
けれど、呼びかけに返る言葉はなく。
冷えて行く足を慌てて水から上げた。]
ねえ、誰かいるの?
何か、あったの?
大丈夫?
[小さく震えながら、森の木々に問いかける。
返る答えは無い。]
あわわわ、ちょィと生きてるかい?
[ぱっと離した手から薄茶猫はふらふらと離れ、ぐってりしながら飼い主に非難を込めた視線を向けた]
まあ、遊んでても仕方ないな。
[さらりと切り替え、茸へと一歩近付こうとして、
……なんだか背後から視線を感じた気がした。
振り返る]
んんん、どうしよっかな。
森の中にきても、特に誰かに会うわけじゃないし……
もう一度崖崩れのとこでも見に行こうかな。
[はふと小さくあくび]
……んん、そうだ、水取りにいかなきゃ。
雑貨屋のおじちゃん、ちゃんと毎回いってくれなきゃダメじゃんね。
どうしよう、取るもの。
……
[腰にくくりつけたままだった竹筒を手にした。]
うん、これだった。たしか。
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