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[懐かしい、という言葉。
辿るのは穏やかな頃の記憶。
思えば、自身がここに近づかなくなったのは、両親の『絵』を描いてから。
師父を看取った時とはまた、異なる苦しさに。
いつか、確実にそれを負わせる事実が重たく思えたから]
あの時は……ああ。
母さんの特製シチューを、伝授してもらいながら作ったんだっけか、確か。
久々に、作るか。
[思い返した記憶の内、明るいものだけを留めて動き出す。
慌しい外とは対照的な、穏やかな時間の後]
……じゃ、俺は一度、アトリエに戻るから。
また、な。
[いつもと変わらぬ口調でこう告げて、アトリエへと向かう]
─自宅→アトリエ─
[眼前で揺れる青は「海」のようだな、などとぼんやり思う]
それは大変。
どこか、ぶつけてしまったりしなかったか?
私の部屋だったら、惨事になりそうだ。
[所狭しと書籍や材料の置かれた作業部屋。
ヒカリコケを切らしたことはなかったけれど、
もしそうなったら、何が起こるか想像するだに恐ろしい]
開けている場所じゃないと、灯り一つでも一苦労だ。
[見上げても此処からは「空」は見えない。
ぶつかる音が聞こえて視線を戻し、大丈夫か、とエルザに手を伸ばす。
続いた問いに、彼女と同じほうを見やった]
あれか?
……ああ、あれは……。
[身長の差だけでなく、視力の問題もあれば、見えるわけもなく。
しかしわからないとも答えられず、内心、汗が伝った。
不自然な沈黙が数秒。
結果として交えられる会話に助けられることになったのだが。
聴覚に頼り、拾い集めた内容は、絵師当人との会話と合わせれば、
容易に推測に足るものだった]
絵筆を盗んだ犯人を捜すために、どうするか、ということだよ。
殴り合いの喧嘩が起きてしまうのは嫌だろう?
だから、絵師が措置を下すことになったんだ。
[言葉は知らず、やや硬くなる]
― 図書館 ―
[記録書を収め、書庫から出たところで聞こえた声に顔を向ける]
リディ、怪我はいいのか?
[小言という風ではなく淡々と尋ねる]
うん、だいじょーぶ!
っていうか、足がちょっといたかったり、ちょっとぶつかったくらいで、
そーんなに痛くないもんね。
ミリィせんせーの治療のほうが痛かった。
ぶつけたりはしてないから、大丈夫、大丈夫よ。
だから何も要らないから、ね?
[ミリィの言葉に少しだけぎこちなく微笑んで
それから流れたすこしの「間」には、きょとりと不思議そうにじっとミリィを見つめていた。
その口が言葉を零すのを待ち、聞いた後で
ゆっくりと、首を傾けた。]
喧嘩は、いや。
そちを…絵師さまが?
はんにんが、みつかったの?
痛いのは生きている証拠だ。薬師殿に感謝しろ。
[言いながら、出て来た書庫の扉を再び開けて、中へと促した]
勉強に来たんだろう?丁度いい、今日は興味のある本を自分で選べ。
……私はエリザベスには、
そこまで酷い治療をした覚えはないんだが。
[他者に対してはあるらしい。
握られた手を引き、少しだけ人込みから遠ざける]
……いいや。見つかってはいないよ。
名乗り出たという話も聞かない。
だから、一番、犯人だと思うものの、絵を描いて――
封じるのだろうね。
─アトリエ─
あー……そいや、片付けてねぇ。
[入るなり目に入ったのは、筆探しの惨状跡地。
このままじゃまずいな、と思い、片づけを始めて。
それが一段落した所で、奥の間の、更に下。
代々の『絵師』の『絵』を収める部屋へと降りてゆく]
……師父。
[手に取り、見るのは自身が描いた最初の『絵』]
お叱りは、そちらに行った後、存分に。
……そう、遠い事でもないでしょうから、ね。
えー、痛くしないっていったんだよ。
なのに痛くしたんだから、感謝できるわけないじゃんー
[ぶーぶー文句を言いながらも、はーいと中に入る。]
うん。
おべんきょー。
ひさしぶりに、簡単なお話読みたくってさ。
海が出てくるといいけどな。
読んでない本とか、ある?
あ、読んでても絶対覚えてないけど。
そういえばオトせんせー、あまいもの好き?
[今更尋ねてみた。
椅子に座って、じーっとアンバーの目で見上げる。]
[零れた言葉と、掠めた自嘲の笑みが他者に知られずにすんだのは、当人にとっては幸い。
周囲にとっては、それぞれだろうが。
ともあれ、ここに籠もっていても仕方がない、と地下を出て]
さぁてぇ。
気ぃは滅入るが、広場、行くかぁ……。
[いかにも面倒な、といわんばかりの口調で言って。
アトリエを出て、広場の方へと歩き出す]
/*
真面目なお話(いきなりなんだ。
『絵師』は基本短命です。
だって『絵筆』ってどう考えてもソウルイーターだし。
それを制御するには、自分の魂とか生命削りますよなぁ。
まあ、そういう事です。
別に、エーリだから短命なわけではないのだよ!(待
…苦いの、きらいだもの…。
[ミリィに手を引かれ、人ごみから少し離れる。
人ごみは増える一方で、喧騒は静まる風には見えなかった。]
はんにんだと思うものの。
えーっと…なんだっけ……
…ドウキ?
[首を傾けてリディを見下ろす。
ミリィに取られた手はヒカリコケが付着したままで、
キラキラと光っていた**]
― 図書館・書庫 ―
そもそも怪我をしたのは、自分で無理をしたせいだろう?
痛かったのもそのせいだ、薬師殿に責任は無いな。
[あっさりと文句をいなしながら、子供向けの物語を集めた書棚に手を伸ばす]
海が出て来る話なら沢山ある。人魚の話や…ああ、くじらという大きな生き物の出て来る話もあるな。
・・・・・前から思っていたが、そんなに海が好きなのか?
―図書館・書庫―
[当然のことながら、理屈はわかってもぶーぶー文句を垂れるわけで。
手を伸ばす様子を、テーブルに肘をついて眺める。]
人魚はおとぎばなしだよね。
水の中で生活できるなんてうらやましいなぁ。
くじら?
[目はきらきらとした。
そのノリで不思議そうな質問に、軽く答えた。]
甘いもの好きなら、そのうち私の友達が持ってくるから、食べてあげてね!
ってことだよ、せんせー。
[ミリィと別れた後。気分を落ち着けながら歩いていた際に告示を見て家に帰って]
―自宅―
絵師って凄いものだと思ってたけど…怖くもあったんだな
[記された内容を伝えてからぽつりと漏らす。絵師の絵筆は死者だけでなく生者も封じてしまえる。それを知った今は、前のようにただ凄いと思えなくなって漏らした言葉であったが]
「今まで…生きてた人に扱われた。なんて話し聞いてないから普段から怯える必要はないわよ」
…うん…そうだよな…
[それを察しての母の一言で少しだけ落ち着けた。とはいえ事件があるため気持ちが晴れるということもないが]
― 図書館・書庫 ―
[選んだ数冊の本をリディの前に置き、小さくため息]
やはり意味が不明だ。
[だが、その件については、それ以上追求する気はないようで]
リディ、お前が海に潜るのは、外に出たいからか?それとも海に生きる生き物のようになりたいからか?
なら、苦くないようにしようか?
まだ実験段階で数は多く作れてないんだが、
食しても大丈夫な薄い膜があって……
[寒天と澱粉がどうのこうのと延々語りそうになったが、
周囲のざわつきに意識は呼び戻される]
ああ、そう。動機だね。
「こういう理由で、盗んだんじゃないか」という。
まあ、誰にでも少なからずありそうなものだけれどね。
一度ならず、空を――と望んだことはあるだろうから。
……エリザベスは、ないか?
[視界の端で、きらきらと微かなきらめき。
自分の知る光は、こればかり。
太陽や月は、在りはしても、遠いものだった]
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