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[思考は長くは続かず、瞼は再び紅紫を解放する。ソファーに座る体勢はそのままに、顔を膝に乗せて視線を窓へと向けた。薄いカーテン越しに緋色が瞳に飛び込んでくる]
…白い花…赤い花…。
白は天咲く喜華<よろこびか>、赤は地を這う悲華<かなしみか>。
……ここには悲しみしかないのかしら。
[呟きは微かなもの。瞳は滅紫へと変じ、窓越しの何かを見つめていた]
[しばらくそうしていると、料理の匂いを纏わせキャロルが広間へとやってくる。場所をとの言葉には何も返さず、視線は窓へと向いたまま]
……緋色しか見えないわ。
…ううん、一つだけ、白が見える、かしら。
[問いに答える声は無感情。呟きにも似たもので、顔を背ける形になっている状態でキャロルにまで聞こえたかは定かでは無い]
[滅紫は濃く、瞳の焦点は合っていなかった]
とりあえず広間に行ってみますよ。
もしかしたらシャーロットさんが居るかも知れないし。
[敢えてきっぱりした物言いになったのは、ここを早く立ち去りたかったからかも知れない。]
―広間―
[扉を開けると、中に居たのは探していたシャーロットと、豪奢な金髪の女性。]
[そちらとは言葉を交わした事はなく、名前も何と言っていたのか憶えが無く、]
おはようございます。
大変なことになったようですね。
[結局当たり障りの無い挨拶からはじめた。]
─広間─
[呟きには疑問の声が返っただろうか。仮にあったとしても、次の瞬間には滅紫は紅紫へと戻り、問いには要領を得ない疑問符を浮かべるのであるが]
[キャロルへと視線を向けた時、丁度ナサニエルが広間へと入って来た]
おはよ。
…その様子だと話は聞いたみたいね。
[膝から顔を上げて背もたれへと体重をかける。短く、溜息が漏れた]
ええ。
もう埋葬された後でしたけれど、話はネリーさんから。
酷い有様だったとか……
[鼻に残る臭気を思い起こし、眉を顰めた。]
ところでどうしますか。
昨日の、鏡のことですが。
こんな時ですけれど、今から行って見ますか?
[わざと軽い口調で話題を振ったのは、深刻な空気を変えたかったから。]
[溜息をつくシャーロットを気遣う柔らかい視線で見下ろした。]
…終焉の使者の宣戦布告。
与太話じゃないと言う証拠。
彼が言っていたことは事実だったと言うことね。
[言いながら再び背もたれから身を離し、ぎゅうと膝を抱える]
ここに居る誰かが終焉の使徒。
終わりを齎すと言うのであれば、番人のようなことはまだ続くはず。
……私達はまだ、終わりには辿り着いていないもの。
[膝を抱える腕に力が籠る。表情も自然と厳しいものへと変化していた]
[軽めの口調のナサニエルをふと見上げる]
ああ…うん。
少し、気を紛らわしたいかも。
行ってみようかしら。
[警戒が無いわけでは無い。けれど、この緊迫した空気から少し逃げたかった]
で、その心当たりってどこ?
[腕から膝を解放し、床に足を付ける]
白?
[うつくしい緋の色の中、一輪の白が咲く様を想像し、女は眉を潜めた]
[言の葉は続く事無く、くれないの内にスープを運び]
[扉の開く気配に視線を上げた]
おはようございます。
具合はよろしくなったのですね。名を知らぬ御方。
[ひそりとした声で挨拶を返し、食事へ戻る]
[チリン]
ああ。
上の階の部屋です。かなり色々なものがあるようでしたので。
[膝を下ろした少女に少しホッとした様子]
[挨拶を返した金髪の女性に]
ええ、お陰様で。
ええと…あなたは…
[と、名を促す間を]
[返る名乗りがあれば確認し、軽く会釈をする。]
これからシャーロットさんと上の階を見て来ます。
もし訊かれたら皆さんにもそうお伝え下さい。
[そう言ったのは、万一を考えてのこと。]
[キャロルの疑問の声。しかしそれ以上の問いかけが無いために紡いだ言葉の説明は無く。自身にも今は伝える言葉を持たぬために]
[床に足を付けた流れでソファーから立ち上がり。ナサニエルの傍へと歩み寄る]
上の階の部屋?
物が沢山あると言うなら、期待は出来そうね。
私の名は、ナサニエル。
以後はそうお呼び下さい。
[丁寧に一礼した後で]
[近付いてきたシャーロットに顔を向け、]
それじゃあ行きましょうか。
迷うかも知れませんが、怒らないで下さいよ?
[先に立って促しつつ、少し茶目っ気のある微笑を返した。]
[リィン]
[沈黙を以って促され、女はくれないを開いた]
私はキャロル、と。
[全身に花と等しき緋を纏う女は、食器を置き目礼を]
此処に於いて、他者を気に掛ける余裕のある方がどれほどにいらっしゃるかは分かりかねますが。
はい。尋ねられたのならば、その様に。
迷っても大丈夫よ。
私この城の間取りは頭の中に入ってるもの。
[くす、と笑みながら少し胸を張るような仕草をする。そうしてナサニエルの後へ続くように歩き始めた]
[部屋への道のりはそれなりの旅となった。]
[男は記憶に残る通りの道筋を、時折今の城の様子とすり合わるために立ち止まりながらも、淀みなく歩いた。]
[間取りは知れども目的の場所が分からねば自ら進むことは出来ず。ただナサニエルの後を追い歩を進めて行く]
[時折立ち止まるナサニエルの後ろで立ち止まり、周囲の確認。帰り道のための目印になるものを探したりした。その間にまたナサニエルは歩き始め、慌ててその後を追うこととなる]
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