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これ……私の名前?
あ、こっちはナサニエルの。
……もしかして、イザベラかしら。
いつも何か書いてたのって彼女くらいよね。
[黒い染みが現れている扉の近くに書かれた文字。誰が書いたのかの当たりを付け、しばし考える]
……これ辿って行ったらイザベラ居るかしら。
そうじゃなくても、この染み、気になるわね。
[よし行くわよ!と染みが続くのを辿り歩み進めて行く。ナサニエルも、仕方なしにその後を着いて来た]
[一時手は止まったが、ゆっくりと開く。
最後の一音が尾を引いて隙間を抜けていった]
あ、ヴィーだー。
[下がった語尾は拍子抜け と言ったふう。
未だ薄く開いた扉の傍に佇んだまま、
旋律を作る白と黒に眼差しを向けた]
ピアノ、弾けるんだ。
腕は平気なの?
―城内廊下―
[困ったように前髪をかき上げたが]
[それでも拒否はせずに、引き摺られるようにシャーロットの後をついて行く。*]
……俺じゃ、まずかったか?
[下がった語尾に、何となくこんな言葉を返して]
ああ……ま、手遊び程度だが。
腕は、口煩いのが多いんで、清めてきた。
元々、大した傷じゃなかったからなんて事もない。
[問いに答えつつ、右手で白を軽く弾く。
左の腕を包む白に、今は紅の陰はない]
もう嫌……。
[顔は青ざめ、涙目になっている。
残ったベーコンを皿に乗せる。黒こげだ。]
せっかくだから、ゆで卵も欲しいところですね。
これなら、私にもできそうですから。
えーっと……。
[きょろきょろしていると、箱形の調理機器を見つけた。
にんまりとし、その中に生卵を入れる。]
これは発電機ですかね。古い型の発電機なんて、
とても珍しいものがありますねえ。
[感心するイザベラとは裏腹に、卵は回る。]
─キッチン─
[黒い染みを追いかけ辿り着いたのはキッチンだった。中で何かしている音がする]
む、誰か居るわね。
[ひょい、とキッチンの中を覗き込んだ。何だか悪戦苦闘する後ろ姿が見える]
…イザベラ?
んー。
女の人が弾くイメージがあったからさ。
[記憶を辿るように首を捻る]
煩いから、なの?
そんなにすぐ清められるものなら、
もっと早くにやっておいたら良かったのに。
ん…ああ、シャーロットさん。
[バツが悪そうに、頭を掻きながら向き直る。]
妙なところ見られてしま―
[キッチンの中にパァン!!という甲高い爆発音が
響いたのは、それと同時のことであった。]
[ミルクを持ち、廊下を歩くのは、どうにも違和感があってたまらないものだろう]
[男にとっては、大した問題ではないが]
[頭痛が治まるとき、それは記憶についてを考えないときと同義だが、廊下へ出た]
[音は止まっていたが、音がしていた方へと歩く]
[イザベラとすれ違うことはなかった]
まあ、女の方が見栄えがするのは確かだが。
[イメージ、という言葉に軽く肩を竦め]
ああ。
顔つき合わせる度に突っ込まれるぐらいならまだしも、いきなり吹っ掛けられるようじゃ、さすがにやりきれんからな。
[疑問の声には軽く、返すものの。
続いた言葉に、蒼氷は緩く伏せられる]
……色々と、あるんだよ。
[空白を経て零れた呟きは、やや、掠れて]
[仰向けに倒れながら、シャーロットの方を向く。]
す…すいませんけど、手を貸してくれませんか。
腰抜かしてしまったようです。
[照れくさそうな表情をしてはいるが、顔は青ざめている。]
[沈黙のまま心を委ねていた旋律は消え]
[眼前の焔もまた消えいく様に、か細いものとなっていく]
[柔らかに息を吐いて、女も広間の外へと出た]
[薪を探すつもりか、他の理由があるのか語られる事は無い]
[少し進んだ先で聞こえた破裂音に身を竦め、緋の靴をそちらに向ける]
[チリン][チリ、リィン]
[普段よりも忙しなく鈴が鳴るのは、早足ゆえに]
…何か、あったのですか?
[蒼の色彩を見つけ、キッチンの中を覗き込む]
死ぬようなもんじゃないな
どうせなら――
[それ以上は口にはしなかった]
[冷めた目で、一度振り返り、再び音楽室へ向かう]
吹っかけ?
[そういう問題なのかと眉根を寄せていたが、
軽く返された台詞に疑問が口をついて出た。
眼差しは伏せられた眼ではなく、
白の巻かれた腕へと注がれている]
……色々って?
[凭れていた壁から身を起こし、歩みを進める。
僅かな扉の隙間。外と内、二種の光が混ざり合う]
あ、ナ、ナサニエル行って来てっ。
[イザベラの頼みにナサニエルへと声をかける。こちらも身体が竦んで直ぐには動けないらしい。ナサニエルがイザベラの方へと向かい手を貸す。その間に後ろから声をかけられ、首を巡らした]
キャロル。
よく、分かんないけど、何かが爆発したの。
[表情は驚きに強張ったまま、キャロルに対して知る限りの説明をした]
問答無用で、掴みかかられるとか、な。
[その際の相手の意図を察するなどかなわぬ事。
それ故か、声音はやや低く]
色々は、色々……。
見たくないものを、隠す、とかな。
[言いながら、右手で包帯を抑える。
抑えているのは、その下にある異質な紅]
いやあ……本当にすいませんすいません。
[ナサニエルに謝りつつ、肩を借りて立ち上がる。]
珍しい発電機見つけたので、見ていたら爆発したんです。
その………
[頭をポリポリと掻いて。]
卵が。
[探す人の声がそこの部屋から聞こえ、さすがに男は暫く悩んだ]
[だが中を覗くと、どうやらピアノの前に座っているわけではなさそうだ]
なんだ
弾いていたのはお前か
[どこか声にはほっとしたような感情があった]
[だが、まずはとカップをラッセルへと向ける]
飲むか?
ホットミルクだが
ちゃんと足は洗ったんだろう?
[話に加わるつもりはなく、*あまり口は挟まない*]
わぁ。こわいね。
……ああ、でも、仕方ないのかな。
殺さないといけないんだもんね。
[日常には異質な筈のその単語は、
違和なく平坦な声の中に溶け込んだ]
……?
それと、清めるのがどうとかと、関係があるの?
[白は手に隠される。
その白の隠すものなど、見えるはずもない。
手は鍵盤へと伸び、押え、一つ音を鳴らした]
爆発、でございますか?
[形の良い眉の根を寄せ、女は室内を眺め見る]
[特に荒れた様子は無いことがか不思議そうだった]
[男の手を借りて立ち上がる人物に、視線を投げ答えを得る]
……。
[とても短い溜息を吐いて、女は奥へと進む]
[もはや炭と化したものの乗った皿]
[その上を何も言わず、屑篭へと放り込んだ]
壊滅的にございますわね。
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