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終焉を齎すものが、番人殿のおっしゃるとおりふたり居るならば。
尋ねられ、庇いあうのかもしれませんね。
[女性の確認という事の葉にくれないは開かれた]
[乾いた緋の色彩は、風に触れ、暗く色を変えていく]
これは、番人殿。
[男から得られた答えに、微かに女は顔を伏せた]
きれいでは、ないのですね。
[吐き気を催したか、幾度か咳き込む。
視界がぐらつき、硬く目を瞑った。
足許までもがふらつきかけたものの、
倒れる前に差し出された腕に受け止められた]
夢じゃ、ない――…
[薄く開いた眼で虚空を睨み、呟いた]
だいじょうぶですか?
[ふらつき、か細い声を零す少年に向き直る]
[傍らにいた男が、少年を支えた様だった]
ゆきましょう?
此処に居る事が辛いのならば、広間にでも。
[薄く開いた眼を、碧の色で覗き込み、あかの髪を撫でた]
ん…… へい、き。
[彼方を見ていた瞳が現に戻される。
確りと己の足で地に立ち、息を吐く。
口許に当てていた手を外し、
笑みらしきものを作ってみせた]
ごめんね、ありがとう。
クーも。
[礼を言って身を離す]
ちょっと、すっきりしたいかな。
[謝罪と礼の言の葉に、女は首を横に振った]
いいえ。
――広間よりは、外の風の方がよろしいでしょうか?
[チリン]
[鈴の音を鳴らし、招くよう少年の前に指を差し出す]
そうだね。
中だと、空気が篭ってそう。
[差し出された指と、鈴の音。
導かれるように、手を伸ばす。
布に隠された遺体を顧みることは、もうなかった]
では。
[あかの髪越しに、番人の姿を刹那だけ捉える]
[されど、少年の手を取り、引く時には既に背を向けて]
[開け放された玄関から、外に出る]
何処まで、ゆかれますか?
[答えを気にする風でもなく、女はくれないを笑みへと変えた]
……何処まで行っても、同じじゃないかな。
此処が終わりの場所だっていうのなら。
だから、何処でもいい。
[僅かに首を傾けつつ、言う。
吹く風は花弁を揺らしてざわめかす。
鼻の下に指を当て、軽く鳴らした]
―回想―
失礼を致しました。
私はネリィ…ネリーと。
[ナサニエルに問われ答える時、常と違う発音が一度だけ。
向けられた微笑に今度は逸らさず微笑を返した。
言われるままに野菜の皮を剥き、刻み、水を汲み。
そしてささやかな晩餐の間は穏やかに、口数少なく過ごした]
はい、それでは。
[片付けも済んだ後、シャーロット達とも別れて借りた部屋へ。
毛布は畳まれて長椅子の上に置かれたまま。寝台には寄らず、その長椅子に身体を預けると毛布を被って翠を*閉ざした*]
―廊下―
[朝から血が騒ぐ。彼はそんな気がしていた。身体中の筋肉が、しなるのを待っているような気がしていたのだ。]
踊りたい、というのは子どもじみた欲求かもしれんが……「番人」殿も、動き回ることを止めはすまい。
よし、今日は外だ。
土の上は滑るが、泉の畔ならば、壁も無い分、動きやすい。
[くしゃり、とひとつ髪を掻き、ギルバートは外へと向かう。]
[玄関に近付くギルバートの鼻先を、奇妙な臭いが突く。
鉄が錆び、腐りかけた臭い。
――否、ただの鉄は、錆びたりはしない。]
………ん?何だ?
変な臭いが………
[嫌な胸騒ぎを感じて、ギルバートは異臭の方向――玄関へと向かっていった。]
終わりの場所。
[躊躇う態で、女は鸚鵡返しにくれないを開いた]
けれど、終焉を齎すものが居なくなりさえすれば。
もっとずっと、永らえるのでしょう?
私はこの花を、うつくしいあかが見られなくなることを厭います。
それゆえに、人狼をも。
[さざめく花弁の音に紛れる様なか細い声]
[音を生んだ少年の口許を、女は見る]
『番人』が、そう言っていたから。
[己の紡いだ言葉を繰り返す女に頷く。
それは、後の台詞の肯定ともなった。
確かに番人は言ったのだから。
「厭うならば人狼を殺せ」と。]
でも、その後にはどうなるんだろうね。
何処から来たかもわからないのに。
生きとし生けるものは、最後には終わってしまうのに。
[視線は真っ直ぐに向けられている。
揺れる花へ、かれらの作る道の先へ]
―玄関―
[ギルバートの右目――琥珀色の眼球に、赤い色をした塊が映る。
周囲の人間が発する言葉から、それが「番人」のからだであるということが分かるまでには、それほど長い時間が掛からなかった。]
(ああ――…)
[人間の身体とは、こうも容易く壊れるものか――そのような類いの言葉が、ギルバートの脳裏に浮かんでは消えた。
やがて、彼はちいさく呟く。]
―――『終焉』。
[飽きるほど聞かされた言葉を、*ひとつだけ*]
[昨夜あちこちを回った後で、借りて休んだ一部屋で、わたしは目を覚ましました。]
…?
[胸の辺りで両手を合わせて、首を傾げます。
部屋の中に何かがあった、というわけではなく、そうだとしてもこの眼には色しか分からないのですけれど。
わたしは少し考えます。
が、]
…あ。
灯を、返さないと。
[途中で、意識は別のほうへと向きました。]
そのあと、でございましょうか。
わたくしは、今、此処にて、あかが見られれば、それで。
[少年の視線の先を辿り、歩む足はその先へ]
終わるものゆえに、足掻くのではありませんか。
いつ断たれるかも知りえぬものゆえに。
[女は咲く花の茎に指を伸ばし]
[爪先で、千切る]
[指先に触れる毒液]
そう。このように、断たれる前に。
そういうもの?
オレには、よくわからない。
死にたいとも、思わないけれど。
ああ、でも――…
[遮られる視界。
女に歩み寄り、滴を受けたその手を取る]
花は、儚いね。
[濡れた指先は僅かに疼く]
[放置すれば、そのうちに腫れ上がる事になるだろう]
はい。
きっとこの花の群れも、少しすれば朽ちてしまうのでございましょう。
[手を取る様を不思議そうに見る]
[逆らう動きは無い]
[チリン]
このまま残しておけるのならば良いのでしょうが。
人は、抗えば、そうならないのかな。
それなら、それも、いいのかもしれない。
いつかの終わりはやって来るに違いないけれど。
[顔を寄せ、ついで眉を寄せた。
袖を引いて、そぅと女の指先を撫ぜる。
それが何の足しにもならないとしても]
……あなたは、枯れたくないんだよね。
駄目だよ。毒は危ないから。
浸ってしまえば抜け出せなくなる。
[そう言って、手を離す]
[色と手探りで探し当てた二つ、杖を右手に、灯を左手に。
昨日と同じように、扉から出ました。
途端、鼻先に届いたのは。]
…、何、かしら。
[辺りを見渡しますが、特に異変は見当たりません。
杖を使って足元に障害物がないかを確かめながら、灯と眼は違和の元を探りながら、ゆっくりと廊下を進みます。
階段に着いた頃には、異臭は更に強くなっていました。]
たしかに、いつかは。
それでも私は、うつくしいあかを諦められぬのです。
どうせなら、最期にまでは…
[嘯く様な呟きは、指先を拭う布の感触に途切れた]
…。
[手に持った緋の花が、空を舞い、地に落ちる]
[離された手を、胸元に引く]
[リィン]
…はい。
では、私は指を洗ってこようと思います。
あの。ありがとうございました。
[小さく頭を垂れた後、壁に凭れる少年に背を向ける]
[緋色の靴は、城の玄関へと]
[杖の先で一段一段を確かめながら、階下まで降りました。
臭いと人の声とがするほうへ、足を進めます。
こつりと微かな音が、誰かの耳には届いたでしょうか。
そうしてその頃には、その臭いが何であるかを理解していました。]
あの、何か――
どなたか、怪我をされたのですか?
[一瞬、眼は昨日と同じ――その場にいた青年の、白い色を見ました。
けれど、源はそこではありません。
次に眼は、彼らの中心へと動きます。
そこに、赤い色がありました。]
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