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〔村外れの丘にたどり着いたアナは、しゃがみこんで、花を摘む。残念ながら、ドロテアの持っていた花はないみたい。白の代わりにとりどりの花で籠を飾っていく。〕
今日は、みんな、いないのかな?
〔いっぱいになった頃、しずかな丘に首を傾げるアナ。
教会に行く前に、少し、寄り道。
けれど牧場に羊飼いはいないようで、小屋のほうから鳴き声が聞こえるくらいだった。〕
さあて、今晩の獲物は誰にしようかのう。
[棺の中からは、まだかすかに素敵なジュースの香りがしていました。
狼の鼻は、それを嗅ぎ分けてひくひくと動いています]
[道を歩いていくと、村人たちの囁き交わす声が聞こえます。]
……話も、だいぶ、広がっているのですね。
[小さな村だけに、噂が広まるのも早いのでしょう。]
他の話も、伝わっているのかしら。
[少しだけ不安げに呟いた時、黒をまとわない人の姿が目に入りました。]
……あ、あら。ルイさん。
[木こりは村の中をゆっくりゆっくり巡ります。
ホラントのことを問われれば、教会を顎でさしました。
元々少ない愛想は殆ど残っていません。
やがて人影の見える丘を上っていきます。]
…アナ。
ホラントへ持ってくなら急いだ方がいい。
……?
誰かも、いないのね。
〔羊たちの声を聞いていたアナは、ふと、ぽつんと呟いた。〕
ついて行っちゃったのかな。
〔それから戻ろうとするときに、ドミニクが声をかけてきた。〕
あ、木こりさん。
木こりさんも、お花を摘みに来たんですか?
〔こんにちは、のんびりお辞儀をしたアナは、今日はびっくりしたりせずに、おおきな男を見あげた。〕
[旅人はいつもの格好です。
ドロテアに丁寧なお辞儀をされましたので、旅人もぼうしを脱いで頭を下げます。]
なんだか、おぼつかなく見えたものだから。
大丈夫か。
とはいっても、この状況では仕方ないのかもしれないが。
[旅人は周りを見ながら言いました。]
え? ええ、大丈夫ですわ。
[問いかけに、精一杯笑って見せますけど。
疲れているのは、きっと、すぐにわかってしまうでしょう。]
まさか、こんな事になるなんて。
……もう、本当に。どうしていいのか……。
[アナの服装を見れば、向かう先は分かります。
そうでなくともたったふたりの兄妹なのです。
服の欠片、ランタンの破片でも会いたいだろうと木こりは思ったのでした。]
[ホラントの棺の前で、おじいさんはぽつりと呟きます]
しかし、困ったことじゃ。
村のみんなはどう思っているのやら。
まさか見知った顔を疑っているのではあるまいのう?
[困った困ったと、おじいさんは首を振ります。
そして、ホラントがお墓に行くまでもう少し時間があるのなら、村の様子を見に行くことでしょう]
無理はしないほうがいい。
[疲れているような笑顔に、旅人はあっさりと言いました。]
たしかに、だれだかは知らないが、ずいぶんと急だったな。
人狼のうわさもあるようだし。
お別れ。
〔アナはドミニクのことばを繰り返す。
ちょっぴり首をかしげてから、ゆっくり歩きだした。丘を下ってゆく道を。〕
お別れは、もうしたから、だいじょうぶ。
アナが起きるまでは、そばにいてくれたもの。
起きたらすぐ行っちゃうなんて、せっかちだけれど、お兄ちゃん。
〔そばを過ぎて少しして、アナはくるり振り向いた。〕
木こりさんは、お兄ちゃんのからだと、会ったんですね。どんな、ふうでしたか?
[ゼルマはいつのまにか隣にいるベリエスを見て、心を強くしました。]
ホラントも可哀想に……それにしても寒くなってきたかしら。
[問わず語りにそう言うと、ぶるっと身を縮めました。
雷鳴が轟き、黒雲が迫っておりました。]
[あっさりと言われてしまい、困ったように笑いました。]
……亡くなられたのは、ホラントさんです。
そして……多分、噂は噂では……ないのですわ。
[ちいさく呟いて、籠に挿した花を見ます。]
えっ。
[老人の発した言葉にぎょっとしたのです。]
ベリエス、村の人を疑うって、何をいって、、、
[『ヒトニ、バケル、ケモノ』という言葉が頭の中に過ったのです。
そういうことだったのです。]
[羊飼いはとぼとぼと教会への道を歩いています。子羊が二匹、とことことその後をついていきます]
ああ、なんてこった。
[空に広がる黒雲のように、羊飼いの顔も暗いのでした]
む……そうじゃのう。これは一雨来そうかの?
ほれ、良かったら使いなさい。
[おじいさんは、自分の首に巻いていたマフラーをゼルマへ渡します]
まだ教会に来ていない者らが心配じゃ。雨に濡れなければ良いが……。
[沈んだ心に、雨の冷たさは響くことでしょう]
そばに……いた?
[木こりは今朝、ホラントの無残な姿を見つけたのです。
いったいいついたというのか、アナの言葉がわかりません。
後ろをのっしのしとついて行きながら顔を顰めます。]
オイラが見つけたのは地面の染みと、服の欠片と"壊された"ランタンだった。
……からだはもう、なかったさ。
[どこへ消えたのかは触れず、振り返る少女に答えます。]
人狼の恐ろしい所は、昼間は人間の振りをしている所じゃよ。
そしてもっと恐ろしい所は、ごく普通の真っ当な人間までもが、人狼ではないかと疑われることなのじゃ。
[おじいさんは言いましたが、ゼルマが驚いているのを見て、それ以上話すのをやめました]
脅かしてすまんかったのう。
わしはこの村の皆を信じとるよ。
[教会に着くと、羊飼いは帽子を取って、聖句を唱えました]
ああ、牧師さん、ベリエスさんにゼルマさんも、おいらホラントがって…聞いて……
ああ、なんてこったホラント。
なんだってこんなことになっちまったんだ?
[おいおいと羊飼いは泣きました。羊飼いの足下で、二匹の子羊もめえめえと悲し気に泣きました]
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