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―深夜―
…ヴァイオラ、…ヒースクリフ。
[囁くコエは柔らかくも、女の甘さは無い]
[ただ、其れは何処か浮付いた熱を帯びていた]
獲物が来たよ。
[別荘へと帰る以前、団長を呼び出すための手紙を出していた]
[名ではなく、占い師であるとにおわした文面で]
[物語の紡ぎ手たる男にとっては、楽な仕事]
[深夜、狼であるかも知れぬ他者にバレないように]
[二人きりで逢いたいと]
[男は別荘から出る時には、男物の服を着ていた]
[質は良くとも飾り気の少ない其れ]
[貴族のものだとは、気付きにくいような]
[漆黒に近い格好は闇の中に溶ける]
[路地に立つ団長と正面から対峙したなら、誰何の声]
ティーク家のものだよ。
[陶磁器の滑らかさで声を出し、出自を示す]
[雰囲気の違いを疑われても、爪隠しとしか告げずに]
…まだ殺されたくは無いからね。
さて、本題に入ろう。
僕は人狼が誰か、知っているよ。
[つぶやきとともに差し出すのは一枚の紙片]
[まるで、そこに答えがあるとでもいうかの如くに]
[受け取ろうと近寄る其の姿に、暗闇の中、口端が上がる]
─自衛団詰所近辺・路地─
[クロエの反応に眉根を寄せる。状況が状況ではあるが、あまりにもぼぅとし過ぎではないか、と。立ち上がるのには肩を支え、ライヒアルトから申し出があるとクロエを彼に託した]
すまねぇな、頼む。
[肩を支えられながら宿屋へと向かうクロエと付き添うライヒアルトを見送る。視線を現場に戻すと、また無意識に左腕を右手で握り込んだ。しばらく見つめた後、フーゴーは踵を返す。ウェンデルとヘルムートには気付いて居ないのか、声をかけることなく急ぎ足で宿屋へと向かった。
クロエのことで、気になることがあったために]
─ →宿屋─
[丁度ライヒアルトとは入れ違う形になっただろうか。改めて礼を告げてからクロエへと近付く]
クロエ…どうして、あそこに行った?
髪も整えねぇままにふらふら出て行っただろ。
何で、あそこに行く必要があったんだ。
[周囲には誰か居ただろうか。それも気にしない、否、気を回せないくらいに焦ったようにクロエへと訊ねた。第一発見者は一番疑われやすい、けれどクロエに返り血のようなものは無い。一抹の不安ともしやと言う思い。綯い交ぜの状態でフーゴーは答えを*待った*]
―宿屋―
[差し込む光が揺れている]
母さん、違う…。
俺は……じゃない…っ!
[左手を大きく振り払う。
微かな痛みが走り、パチリと瞼を開いた]
……チッ。
[半身を起こした格好で重い頭を振る。
纏わり付く気だるさも振り払って起き出した]
クロエ…?
[もしまだ寝ていたらと、そっと開いた扉の中は無人だった。
眉間に皺が寄り、足早に酒場へと向かった]
[伸ばされた団長の手を、紙片を持たぬ手で勢い良く引く]
[その紙片を渡す代わりに、与えたのは牙]
[呼びかけた二人が来ているかは頓着しなかった]
[傷付けた喉は、声を上げるにも足りず]
[命を落とすにも足りず]
[痛みにもがいて、暴れる様を見下ろした]
……ふ、
[微かな哂い声が洩れる]
まだ、だよ。もう少し、愉しませてくれ…。
― 酒場 ―
……そうですか?お大事に。
[宿へとクロエを運ぶと、椅子までで良いと示され、頷いた。
やはり性分なのか、それ以上は云わずに、
何かやはりピントのずれた言葉をかけ、
ぶち猫から手をひくと、すくりと立ちあがる。]
いえ、大したことではないですし。
[酒場を出ようとしたところで、フーゴ―とすれ違う。
礼を云われれば少し首を傾ける。
何かを問う様な眼差しを向けるも、フーゴ―はそれに気がつかぬ様子で、クロエに近づき焦ったように彼女に問いかけの言葉を発した。]
…―――。
[学者が沈黙を保てば、空気のような存在となる。
そうでなくとも、フーゴーは周りを気にしている様子ではなかったけれど。
クロエが、フーゴ―の問いにその場で何か返すようであれば、
それを聴いて、けれど問いは重ねずにその場を離れるだろう。]
―宿屋・酒場―
親父さん、クロエを見なかったか?
部屋に居ない…っ!?
…クロエ?
[椅子に座り込んでいる姿を見て息を飲む。
下ろされたままの髪に別人と勘違いしかけたが、すぐにクロエだと気づいて名を呼んだ]
親父さんが追いかけて。
自衛団長が…?
ライヒアルトさんが連れてきてくれたんだ。
[リッキーが近寄ってきて、状況を耳打ちしてくれる。
沈黙しているライヒアルトがいれば感謝の視線を送った。
リッキーから水のグラスを渡されると、フーゴーの問いかけは同じく邪魔をしないようにしつつ、クロエの傍に近寄り置いた。
何度文句を言われてもやってしまう頭を撫でる手は、少し強張っていたかもしれない]
――……時は来たれり。
[囁く言の葉と共に、男の姿は白金の狼へと変じる]
[身体の全てを獣の其れへと成したのは]
[彼の狂気の狂喜が極まってのことだろう]
[散々に弄ったあと、最後の傷は腹部への爪]
[鼻面を傷の中に押し込め、肉を食んだ]
嗚呼。
[ぽつり、呟いて]
[口許を拭う頃には、また人の姿へと]
ご馳走様。
そう言えば、腕は落としておいた方が良かったのかな?
[強請るコエを今更のように思い返し、問いかける]
[おそらく自分でなんとかするだろうと思っていたから]
[気にしなくても良いだろうと内心では思いつつ]
やっぱり味は、さほど良くないね。
餓えは治まりはするけれど…。
口直しが欲しくなるよ。
[は、と、残念そうに浅い息を吐いた]
― 深夜のこと ―
[自室に戻るも寝ることはなく、
フィールドワークの内容を、薄明かりの下まとめていると、
女性のものとは違うが、柔らかな聲が脳裏に響く。]
今から行くよ。
少し遅くなるかもしれないけれど。
[同じ敷地内に少女がいればこそ。
抜け出すのは少し慎重になる。]
[抜け出しても大丈夫だろうと思った頃には、
初め呼びかけを貰った時より、随分時が経っていた。]
…―――。
[少し考えるように顎に手をあてて、
その手を顎から解放すると窓を開けた。
開け放たれた窓から地に降り立つのは、
闇夜に紛れるような漆黒の狼。
森と海の中間のような色の双眸だけが、
闇夜でも存在を示すように光り、翔けて行く。]
いえ?今から落とすのでお構いなく。
[セザーリオの問いかけがあった辺りで駆けつけた漆黒の狼は、
その鋭い爪でギュンターの胴体から右腕を分離した。
その様を、ヒースクリフは見ていただろうか。]
[牙だけは狼のまま、人の姿に戻ると、
刈り取ったギュンターの腕を齧りながら]
歳を取ってから絞めた鶏みたいな歯ごたえですね。
[硬いと云いたいらしく、口周りを紅に染めて、
文句らしいことをいいながらも、腕一本を喰らっていく。
最終的には骨もカリカリと狼の牙で食べつくして。]
……口直しのご希望はありますか?
[残念そうなセザーリオに、希望があるならどうぞ?
と、云いたそうな視線を送った。]
[ウェンデルのみじかい肯定に、まなざしを伏せつつうなずいて]
ごめんなさい。
…これを見てるのは、ちょっとつらいわ……。
[深呼吸でおちつこうとして、吸った血のかおりに眉をひそめた]
しずかなところで、すこし、心をおちつかせてくるわ。
団員さんにきかれたら、森だって伝えてちょうだい?
[ウェンデルが伝えなくても、さがしはするだろうから、断られてもかまわなかったが。
さすがになにも告げないよりはマシかとも思い。
そうしてから、森へと*向かった*]
まだ、あの宿屋の男の人の方が美味しかった。
[文句らしきには、思い切りの同意]
[そのどちらもほぼ食していないのは、美食ゆえにか]
学校の時は、美味しいの選び放題だったと思うと…。
溜息しか出ないね。
まだ、愉しめたから良いけれど。
[改めての希望を聞かれ、少しばかり考え込む合間]
今日は、良い。
逆に食欲無くした気もするから。
それに順番としては、ヴァイオラの番だからね?
貴方のやりやすい相手で構わない。
[其処については、口を出すつもりはないらしい]
[或いは其の選択すら、愉しみのひとつであるのか]
そうだ、その時にはヒースクリフは見に来るかな?
[どちらでも構わないという風に、コエは語る]
[それはヴァイオラに対しても]
もしも貴方が遣り辛い状態なら、僕が動くけれど。
僕は気紛れだから、気をつけて?
[そう言い残し、男は惨状広がるその場に背を*向けた*]
−宿屋・客室→酒場−
[けほ、と咳をして。片手で氷嚢を額に当てながら起き上がる。]
風邪なんて…何年振りでしょう。
油断、してしまいました、ね。
[溜息混じりに呟き、酒場に行って軽い食事を頼めば、野菜入りのお粥が出てきて。
ボーっと食事をしていると、アーベルと顔色の悪いクロエの話しが聞こえてきた。]
困っている人々が居れば、力になるのが騎士というもの……
早く治さないと……
[リッキーが用意してくれた薬を飲んでからそう呟く。
すぐにでも島内の様子を見に行きたかったが、風邪を悪化させては何もできなくなるので、今は大人しく*寝る事にした。*]
食べられればなんだっていいのですけど…――。
[食事も美味いに越したことはないけれど、特段凝る性分でもなく。
研究以外は淡泊な学者は、ペロリと口の周りについた血を舐めとり、呟く。]
私も今は満たされているので、直ぐに欲しいとは思いませんけれど。
狩りの順番は私でしょうが、
得物の希望は私ばかりが云っていたので良いのかと。
[背を向けた気まぐれだと云う相手に、微かに首をかしげて問い。]
単純に動きやすさを考えるなら、
一か所希望はありますが…――。
[複雑に考えればどうだろうと、考えるような間があく。]
まぁ、今すぐに決めなくても良いでしょう。
周期に入った私でも、1日位は持ちますから。
…――では、お二人とも、お休みなさい。
[ヒースクリフがその場にいたとしても、居なかったとしても。
囁きに挨拶を乗せると闇夜に紛れる漆黒は、
来た道を辿り、窓から自宅の寝室へと*戻ったのだった*]
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退席記号つけ忘れ申し訳なかったです(土下座をした)。
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