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[部屋の中は、趣味でつくったポプリが置かれて、この騒動の中では場違いにも感じられる優しい花の香りがする。
ベッドへとおろされて、頬に朱をのせたままユーリーを見る。
昔は兄の幼馴染たちもおにいちゃん、と呼びかけていた。
それをやめたのが何時だったかはもう覚えていない。
ただ、懐かしい愛称で呼びかけられて昔に戻ったように]
ユーリーおにいちゃんまで、なにかあるなんてやだ……
[子供のように答えて、悲しげに視線を落とす。
人狼はいるのかもしれない。
誰かが、――知っている人の誰かが、兄を害したのかもしれない。
それを思えば表情はかげり。
イヴァンを頼れという言葉にユーリーが彼を信じている事だけは理解したのだった]
[ふと鼻腔を擽るのは花の香り。
それは長閑だった村の日常を思い出させてくれるような優しさは
カチューシャの部屋にとてもあう気がした]
――…ン。
[懐かしい呼びかけにふと目を細め]
僕もキミに何かあったらと思うと、こわい。
何も、いや、これ以上誰も、
傷付かなければいいと思っているけど
[犯人はこの村に居るだろうと思うのは
彼女もまた同じなのか翳りが見えて眉を寄せる。
カチューシャを疑わぬのは
彼女がマクシームを手に掛けた等と考えもしなかったから]
[ベッドの上に座り込んだまま、視線を上げてユーリーを見つめ]
うん……誰も、いなくなってほしくない……
[こくりと頷きを返す。
きっと同じような翳りが浮かんでいるのだろうと、ユーリーの花色の瞳にうつった自分を見るかのように瞳をあわせ]
お兄ちゃんが、襲われたのは火の番をしてたから、なのかな……
ユーリーさんも危ない事、しないで、ね。
[分からない事ばかりで、疑えない人ばかりだ。
だから、せめて、信じたいと思う人の無事を願うだけだった]
[カチューシャの声に同意し青い双眸を見詰め返した。
火の番と彼女が言えば少し考え込み]
かもしれない。
けど、火の番をしてたのはミハイルも、で
彼が見つけた時にはすでに……
[状況を整理するようにぽつりぽつりと呟く]
嗚呼。
篝火も効果が無い事がわかったし
これからは火の番も必要ないだろうから危ない事はしない。
だから、カーチャも危ないことはしないように。
キミに何かあったら……
[紡ぎかけた言葉を飲み込む気配の後、軽く身を引き]
シーマに顔向けが出来ない。
ミハイルさんもいっしょにいたの?
[それは知らなかったから首をかしげ。
何かで一人になったときに、襲われたらしいことを呟きから知り。
膝の上で手を握り締めた]
そっか、よかった……
うん、危ない事しないように気をつける。
[案じる言葉にはこくりと頷き。
身を引く様子に軽く瞬いて、続く言葉に視線を落とした。
ふわりとゆれた髪が表情を隠す]
ユーリーさんがお兄ちゃんに怒られないようがんばるから。
/*
ユーリーさんがかっこよくてどうしようかと思います。
そしてイヴァンがさらっと白判定でてた。
え。白。
え。
……そうか、白なのか(残念
……ん。
知らせに来たのはミハイルだったよ。
[握り締められたカチューシャの手へと視線を落とす。
少しだけ出来た距離をもう一度だけ縮めて
膝上にある彼女の手の甲へ己の掌を重ねようと伸ばし]
そんなにきつく握ったら
手に爪あとが残ってしまう。
[柔く、緩めるように囁き掛けた]
――…気をつけてくれるだけで十分だ。
カーチャは一人で頑張りすぎる所があるから
もう少し、大人を頼っていいんだよ。
長居してしまったね。
[自分が居てはゆっくり休めないだろうと
男はカチューシャの顔色を窺ってからそう切り出す]
僕は広場をみてくるよ。
また、後であおう。
[彼女がマクシームに会いにくるなら
其のとき顔をあわせることもあるだろう。
姿がみえなければ、様子をみにくる心算で
男は静かに踵を返した]
ミハイルさんは無事だったんだね……
[そっか、と微かな吐息とともに呟き。
握り締めた手に優しく重なる手の大きさを見つめ]
あ……はい……
[こくん、と頷いて温かさに促されるように手の力を緩めた]
だって、あたしは何も出来ないし……
せめてがんばるぐらいしないと。
[頼っていいといわれて軽く頭を振り、無理やり笑みを作った]
知らせに来てくれて、ありがと……
うん、また、ね。
[広場を見てくるというユーリーをどこか心配そうに見やる。
すこし血色は戻ったけれど、まだ動くにはどこか頼りないから、ついていくとは言い出さず。
踵を返す背を見送り]
……気をつけて。
[そっと、小さく呟いた]
[カチューシャに頑張るなとは言わなかった。
彼女の性格は知っていたから
言うよりもそれとなく気を配ればいいだけの事。
背に掛けられた小さな呟きに飴色の髪が一度上下に揺れて
振り向かぬまま手を掲げて、わかった、と合図を送る。
外へ行けば掲げていた手を下ろし、拳を握る。
触れたぬくもりを思い、留めるような、動き。
男は広場へ向かう前にもう一人の幼馴染の家に寄った。
イヴァンにマクシームの訃報を伝える。
彼もまた信じられぬといった様子だったが
カチューシャの時のほど言葉は選ばず状況を伝え、
走り出した彼を追うように広場へと向かった]
―― 広場 ――
[去り際にすれ違ったロランの姿も其処にあるか。
マクシームの傍らで彼の愛称を呼び続けるイヴァンの声に
男は苦さを覚えるのか柳眉を寄せ眼差しを下げた]
――……。
[言葉をなくしたように立ち尽くしていたが
イヴァンが“ごめん”と謝る声が聞こえて怪訝な顔]
イヴァ……、
如何してキミが謝る。
[問う言葉ではあるが其の響きは
謝る必要はないだろうという考えが滲むようだった]
―― 広場 ――
[白かった敷布は赤黒くなっていた。
幼馴染が流したものと思えば嫌悪はないが
其処に漂う血臭が鼻についた]
――…ン。
[噎せるような息遣いが漏れる。
既に朝を迎えた其処。
広場の木陰へと視線を移し思案し]
木の近くに、移した方がいいかもしれない。
手伝ってくれるかい?
[力仕事に向きそうな者へと視線を向けた**]
─ 昨夜 ─
…。兄貴、心配かけてごめん。
[案ずる色を乗せて、低く静かに響く声>>24
何と言っていいか分からなかったから、こたえは返せなかった。
笑顔の苦手な兄だ。
いつだか、作り笑いが怖いと言われてより一層笑わなくなった。
けれどボクは知っている。兄はとても優しい人だった。
両親を亡くしてからは、兄妹二人で生きてきた。
その頃から、うちの庭には薬草が増えていった。
メーフィエを亡くしたあとの、兄の様子を今も覚えてる。
酷く悔やんだようだった。
───あなたのせいじゃない、と。
イライダとの遣り取りは知らないけれど、
ひどく、悔いていたことを聞かずともボクは知っている]
─ 自宅 ─
[その知らせを受けた時、ボクは朝食の支度をしていた。
朝の遅い兄貴は、まだ寝ていたろうか]
んー…、今度はレパートリーかな。
サンドイッチのコツを聞こっかな……
[カチューシャのサンドイッチは絶品だ。
思案しながら、二人分の皿を並べていく]
────…、え?
[ガタリ。と、音がした。
よろめいた自分が立てた音だと、あとから気付いた]
マクシーム、お にいさん が…?
[まさかと問い返す、口の中がからからになる。
こくりと唾を飲んで、その知らせの中に嘘を探った。
嘘のはずがなかった。冗談のタチが悪すぎる]
……兄貴 …っ
あにき、マクシームが、マクシームのにいさんが、
[家の中に、兄を呼ぶ。
身体が一気に冷える心地がして、カタカタと震えた]
…ううん、ううん。
だって獣なんでしょう?そうでしょう?
やだ…ボクも確かめる。だって……、カチューシャが、
カチューシャの、代わりにも、
[行かなくては。と、止められても言い張った。
広場へと赴く。───白い敷布を染める、夥しい赤を見た]
…っ……!
[その光景に、思わず口を覆う。咽るような濃い血の匂い。
がくがくと震える身体を、自ら抱くように強く掴んだ。
それでも震えは止まらずに、地面が揺れているような心地すらする]
こんな…、本当に……?
[独り言のように呟く、それへ返る声はあっただろうか。
あるにせよ、縫い止められたように広がる血の赤から目が離せない]
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