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―翌朝/個室―
[空気の冷たさに女は目を覚ました。
毛布を被りなおし寝なおそうとするのも冬のお約束。
けれど喉の渇きを覚えて、仕方なく寝台から下りた。]
――…甘いクッキーと紅茶。
[呟いたのは一人暮らしをはじめてからの朝の定番。
自宅には買い置きのクッキーが常備してあるが
雪に道を塞がれた状態では自宅に戻る事も
菓子を買いにゆくことも出来ない。]
材料はきっとあるのよね。
小麦粉に砂糖に……、卵にバター、……。
[それ以上材料が続かないのは作る事がないから。
いや、作らないわりによく出た方だと思う。]
[下着姿のまま、ぐっとのびをする。
クローゼットを覗き込み、今日着る服を物色しながら]
んー、頼めば作ってくれるかしら。
そういえば、パイの感想も言ってなかった。
[菓子作りが得意なエーリッヒの顔を思い浮かべ呟く。
そうして手にするのは黒のワンピース。
修道女の服に似たデザインの服に袖を通した。]
…………。
[少女の頃の服で身長はそう変わっていない。
けれど胸のあたりがきつく圧迫感を覚える。]
ま、一日くらいならいっか。
[我慢出来る範疇と喪に服すような装いのまま
髪をとかし身嗜みを整えてから部屋を出る。]
─ 翌朝 ─
[浅い眠りを覚ましたのは、刺すとまではいかないが凍える寒さ。
暖炉には燻り終わった炭が白く在り、それは部屋をより冷え切らせている様に見えた]
…まだ早いわよね。
今の内にお風呂頂いちゃおうかしら。
[昨日はこんな事になると思っていなかったから入浴を控えたが、流石にそろそろ芯から温まりたい。
朝早くならば誰かと鉢合わせることも少ないだろうと、浴室に向かっていった。
此処のお風呂は温泉を利用しているから沸かす必要がないのは有り難い。
幸い誰も居なかったからゆっくりと足を伸ばして身体を温めた後、身嗜みを整えて濡れ髪をタオルに纏め。
化粧は部屋ですれば良いか、そんなことを思った矢先、だった]
───…、え ?
[誰かの、>>39男の声が耳に届いたのは]
─ 翌朝 ─
[また何か起きたのだろうか、そう思えば矢も楯もたまらずに浴室を飛び出した。
聞こえた声はどこからか解らず、けれど恐らくは外からだろうと思ったのは昨日の老尼僧のことを無意識になぞったから。
そしてその無意識は、正解だった]
─── っ
…マテウスさん!
[まず気付いたのは、>>41雪の中蹲っている男の姿。
あわてて駆け寄りながら大丈夫かと声を続けようとした所で、視線はそのすぐ傍、白を染める赤と]
ギュンター、おじ、さま?
[無残に傷つけられた自衛団長の姿を捉え、足が止まった*]
― →翌朝/聖堂玄関前 ―
[元より目覚めは早い方で。
いつものように髪をきっちりと編み込んでから、昨日持ち帰った1冊を持って部屋を出た]
今だったら誰もいないかな。
[出来れば自称司書と出くわすのは避けたい。
今のうちに返しておこうと、図書室へと足を向けて]
─ 前日 ─
[歌を捧げていたり、思わぬ怪我の手当てをしたりしていたから、談話室に戻ったのはだいぶたってから。
食欲はあまりなかったものの、食べない事には、と一人分を平らげた。
片付けは請け負ってくれたレナーテ>>3に任せ、蒼の小鳥は暖かい談話室に置いて。
自分は山羊の様子を見たり、地下から食材を出してきたりと中での仕事に没頭した]
…………。
減った。
[その途中、酒蔵を覗いた時に思わず呟いてしまったのは已む無しか。
原因はわかっていて──そこへの複雑な思いもあるから、は、と息吐くだけに留め。
チーズや根菜類を厨房へと移したり、パンを焼いたり、と。
日常の中に沈みこむようにして、一日を過ごした]
─ 前日/自室 ─
……は。
[ようやく息をつけたのは、自室に戻ってから。
思っていたよりも張り詰めていた、というのが改めて感じられた]
……情けない、な。
[零れ落ちるのはこんな呟き。
気が逸ると一人で動きすぎるのは、自分の悪い所だ、とは、老尼僧にも言われていた事だが、それを改めて思い知った気分だった。
元より、あまり他者に気を許さない──許せない気質だから、というのもあるのだが]
……それでも、少しはマシになったつもりなんだけど。
[何かしら、共通の楽しみや感性がある、と感じたものには、気を許せるようにはなった、と思う。
先に、奏者からの手伝いの申し出>>50に素直に頷けたのも、その手が紡ぐ旋律に惹かれるものがあったから、というのは否めない。
申し出を受けた瞬間の、きょとんっ、と瞬いた天鵞絨を、向こうがどう受け止めたかはわからないが。
少なくとも、ありがとう、と言って笑えた──と、思う。多分]
― 回想・客室 ―
ううん。私だってもう小さくないんだから。
できれば、パパの邪魔をするより役に立ちたいもん。
[父に謝られて>>10、腕に縋ったまま首を横に振った。
それでも、どうしてもの時はと言われれば嬉しくて。うん、と頷かずにいられなかったが]
おやすみなさい。
[暖炉を整えて部屋を出てゆく父>>11に挨拶をして、布団の中で目を閉じたが、眠りに落ちることはなかった。
早鐘を打つ自分の鼓動を聞きながら、瞼を閉じてできるだけゆっくりと呼吸をしようとする]
聞こえない、よ。
[遠くに流れる円舞曲が消えると>>31瞼を上げて、焦点の合わない視線をどこかに据え、ポツリと呟いた]
― 回想・客室 ―
あっ、ミリィお姉ちゃん?
起きてるよ。
[それとどのくらい前後してか、ノックの音>>45に身を起こして扉を開けようとした。
ベッドからは降りるより落ちるようになって、ドタンという音を立ててしまったが、余計な心配をさせただろうか]
ちょっと痛いけど、大丈夫。
ご飯ありがとう。
[腰をさすりながら、てへへと笑う。そう出来るくらい元気になっていたけれど、部屋の中から出ようとはしなかった。
運んで貰った食事はスープを半分、パンは一口、ザワークラフトは一緒にあっても申し訳ないが丸々残して。
夜の眠りに落ちるのも早く、父が様子を見に来てくれた時には>>36既に深く眠り込んでいた]
─ 翌朝/自室 ─
[動き回ってそれなりに疲れていたものの、訪れた眠りは浅いもの。
それでも、あの夢を見ずに済んだからその点ではマシ、と言えたかも知れない]
……ん。
[緩く目を開けたなら、耳に届くのは小鳥の囀り。
その響きに天鵞絨を細めながら起き上がり、身支度を整えて。
机の上に置いた銀十字架に目をやった]
それにしても、昨日のあれは……。
[なんだったのか、と。
思いながら、あしらわれた藍玉に手を伸ばす。
蒼の小鳥がちょんちょん、とその近くに寄って、円らな瞳で指の動きを追う。
その羽のいろに、それとは違うあおいろが刹那、重なって見えて]
……え?
[不意に、内に広がるイメージに、数度瞬く。
真白の穏やかな光──陽射しの温もり。
その中に、あおいろの印象的な青年の姿が浮かんで、消えて]
ああ。ひと、なんだ。
[当たり前のことのように、そんな認識が自分の内に、落ちて、それから。
数度、天鵞絨を瞬いた]
……っ……!?
なん、だよ……今の、感じ……。
[かすれた声が零れ落ちる。
今のは何だ、なんでそんな事がわかる、と。
浮かぶのは戸惑い]
……俺……は。
[零れ落ちる呟きは、どこか呆然としたもの。
ただ、何故それがわかるのか、わかったのか、と。
考えた瞬間──頭の芯に、鈍い痛みが走った]
くっ……いっつ……。
[鈍い痛みは、久しぶりに感じるものだった。
過去の記憶を無理にたどろうとすると感じるもの。
思い出す事を拒絶するかのような、反応。
たどるなみるなおもいだすな。
そんな声が、どこからか響くような心地がして。
その重圧に負けて、思わずその場に膝を突いた]
[もしかしたら、もうここにはいないかもしれない。
だって、あんな場所にシスターを運べる身体能力があるんだ。
嵐だって、雪だって、物ともせずに何処かへ行っているかも]
[それが、甘すぎる希望だったのだと]
――……ッ、!?
[どん、と、内側から衝撃が走る。
何が、と思う間もなく激痛が思考を焼き切って]
い、……った、……!
[ずるりとその場に崩れ落ちる。
右手は爪が皮膚を裂きそうな強さで左肩を握り込み。
膝を付き上体も伏すように落ちたその先で、動かぬ左手が細かに震えた]
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