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〔巾着袋より取り出せしは小さき金の鈴、
鳴り渡るは白銀の其れよりも軽き音色。
……りぃん、……りぃん。
森の声も川のせせらぎも風のそよぎも、
澄みたる音は全てを包み込むやうに響く。〕
とは言えども、
この名は気に入ってはおらぬのだが。
さてはて、刻限にはまだ幾許かあるゆえに、
今すぐに決めろとは申さぬよ。
ただ、後に悔やまぬ選択を――
[りぃん]
[りぃぃん]
[鈴の音に]
[考えるように目を閉じて]
[何一つあらぬうつしよと]
[望むがままの天狗の里と]
[どちらが良いかはわかっていても]
[よきものを選べば はできない]
そこな烏殿の言う通りじゃ。
かつての選別とはやれ異なりしが、我は気にしてはおらぬ。
迷い惑いて…己が心知ること出来たゆえの。
[そう小さく呟いて。
薄き笑みを静かに見返すのみ。]
やれやれ、
食えぬはいったい、何方かな。
[烏へと顔を向ければ唇の端を釣り上げる]
天狗の事をあまきつねとも言うのだよ、坊。
人にて人ならず、
獣にて獣ならず、
鳥にて鳥ならず。
左様に面妖な生き物とでも言おうかな。
―三度目があると限らぬがな。いや、俺が聞いた事がないと言うのが正確か―
[えいかの言葉にそう返し―妖女に習い居住まいを直す]
では、俺も改めて名乗ろう―
雅詠は天狗としての名―
人で在った時の名を烈琥と言う。
こちらから強制はせぬ―よくよく考えて選ぶ様頼む。
てんぐさまがおきつねさま?
[闇のねえさまの言葉に]
[きょとん]
[首をかしげて]
がえいにいさまも、天狗さま? おきつねさま?
いっぱい名前があるんねぇ
[そうして深々と頭を下げ―]
皆、黙っていて済まなかった。
それと―
[烏の方に体を向け]
烏にはまたも救われる事になったな。己を見失っていた俺を真に導いてくれた事、感謝する。
[そうしてまた頭を下げる]
[選ぶ道は]
[なかなか選べず]
[それは]
[己が ねばならぬと思っているからか]
[それとも]
[夢のおそろしさを思うか]
[人と違うものをおそれるのだから]
[天狗に囲われてはおそろしかろうか]
[雅詠の名乗りを聞けば、琥珀は再び見開かれよう。]
やれ、そなたもか…他にもおらなんだや?
[見回すも、それと思えるものはなく。
小さく肩を竦めよう。]
[とうに心決めたがゆえか、面も少し和らいで。
童子ら運びし清水の碗で、喉潤して静かに時を待つ。]
[末期の水のようじゃとは、ふと心に過ぎったか。]
[*リーン…リーン…鈴が鳴る*]
[黒のねえさまのわらいがお]
[つられるようににこりと笑う]
あやめねえさまはあやめねえさま。
それはとっても簡単じゃね!
名前いっぱいでも、
あやめねえさまはひとり、ってことかのぅ?
みんな、代わりなどおらんものね
みんなみんな、ひとりじゃぁ。
じゃけぇ……大事なんじゃねぇ
[ふわり]
[笑みは一つこぼれて何を思うのか]
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