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[施療院の中には、複数の人の気配。
顔をあわせれば、何か小言を言われるな……と思い。
子供の頃さながらに、近くの窓からひょい、と外へ飛び出す]
……樹の近くに行けば、少しはやりやすい……かな。
[呟きながら二翼を開き、ふわり、島の中央へと]
だって……だって……私が助けてくれた人がそう言ってた……。
あ……そういえばあの人は誰……?
知ってるのに知らない……ただ羽の色が普通と違うような……?
[記憶は混乱をきたして、少しその場に蹲った]
[蹲ったリディアの傍に近付き、顔を覗き込む]
羽根の色が違った?
お前は一人で火事の跡に残されていたから両親が外に逃がしたのだろうと聞いていたが、誰かが傍にいたのか?
まさか――
[飛行はやはり、どこか不安定。それでもどうにか、落ちずに島の中央、結界樹の根元へとたどり着く]
……あーあ。
この程度の距離で疲れちまうようじゃ、とても外になんて出られやしないね……。
[呟き、見上げるのは蒼穹。
幼い頃、その先にある見知らぬ地に抱いた憧憬は未だに強く。
それが『外から来たもの』に惹かれ易い気質に反映されているのは、当人以外は知らぬこと]
さて……と。
[呟き、意識を凝らす。
普段、隠しているもう一対の翼へと]
お父さんとお母さんは……血と煤にまみれて……柱の下になってて……。
あれ?
回りも火でいっぱいで……。
そう。
え?
ああ、そう。私は誰かに背負われて……。
[ぐるぐると回っていく思考に、意識が一瞬だけ途切れてその場に倒れそうになる]
虚の力は、人の心の闇に忍び入るという。
お前が、自分のせいで両親が死んだと思い込んでいたなら……それはずいぶんと深い闇の筈だ。
やはり、巫女に近付ける立場のお前や両親を狙ってのことだったのか。
[そらをゆっくりと動く。
目を落とすと、結界樹の範囲外に、己の落とした種のような、虚がひろがっているのが見えた。]
――さて、気付いただれかが、何かするやら。
[つぶやき、そのまま結界樹の範囲内に。
すぐに樹は見えた。
その根元に紫の影。]
[水を飲ませる様子を黙って見、振り向いた顔に頷く。
不審の眼も逸らす事なく受けた。]
………性質が悪いのは同意だがな。
お前にまでと言うより、お前だから聞いてみた。
誰より近くにいるし、それに……お前が堕天尸ならエリカにずっと付いている理由が納得できん。彼女も堕天尸ならわざわざ巫女の居場所を教える理由などないからな。
[遠回しだが、カルロスへの疑いが減っていると告げる。
視線を窓に向け、低く呟いた。遠く見えた翼の色は判らない。]
………ケイジは、読めん。
あれは腹に一物もニ物も抱えている…。
さぁ、て……。
[呟き、見上げるのは高き枝。
四翼を用いて初めて飛んだのは、実のある場所。
そこを目指して、飛んだ]
……って。
やっぱり、慣れてないときっついか……!
[そんな言葉を漏らしつつ、まだ慣れぬ四翼を操り、実の近くの枝までたどり着く]
ん……
[グラスを受け取り、傾ける。
こくん、小さく、喉が鳴った]
十分に休んだ、と思うのだけれど。
それより、そちらのほうが――……
[続く言葉は、扉へと向かう背には届かぬと思ったか、紡がれず。
首を巡らせて、自然の光を迎える窓を見やった]
あ……。
[伸ばされた腕に抱きとめられたのに気づく様子もなく、それでも視線はぼんやりと光を半ば失いかけている。それが不意に心に浮かんだ疑問を言葉にした]
ジョエル……。
[それは幼い頃に呼んでいた少し訛った発音でジョエルを呼び……]
堕天尸って……人を助けるの?
[さて誰かと目を細め、
狐はちいさく声をあげた。
飛んだ羽根は四枚。]
――いたか?
[思い当たるふしがなく、狐は羽根を動かす。
近づくと顔が見えた。]
おや、アヤメ嬢か。
[隠れているわけでもないが、特別声をかけるわけでもない。]
……お前を火事から助けたのが、堕天尸か、という意味なら、その可能性は高い。
お前の心の闇を育てて新たな堕天尸にしようという企みの一部としてだが。
虚の力が人の救いになるかという意味なら、堕天尸となった者にとっては救いと見えるのだろうな。
だが、それは真の救いではないと、俺は思う。
[そっと、子供にするようにリディアの頭を撫でる]
お前はそれほど深い闇を抱えて、それでも堕天尸には落ちなかった。
良く頑張ったな、リディア。
[枝の上で、呼吸を整えていると、肩のラウルが視線をどこかへと向け、ぴぃ! と甲高い声を上げた]
……どしたい、ラウル?
[突然の事に相棒の視線を追えば、そこに浮かぶは白の翼と]
……狐の旦那か……散歩かい?
―施療院―
[オーフェンとロザリーと別れ、施療院へ戻れば、カルロスや先生に事情を伝えた。
エリカの眠る様子を見、伝えられた言葉を聴いて。カルロスの提案した最善を取らなかったことを今更悔やむ]
私、どうして、広場に行ってしまったんだろう。翠流と、翠の翼と聞いたから、なのか。
[首を振ると]
……伝えるのはロザリー一人いればよかった。私は、こちらについているべきだったのに。任せてすまなかった、カルロス。
[診療所の仕事がひと段落着いた後は、アヤメの部屋で、ベッドの脇の椅子に腰掛け、じっと彼女をみつめていた。ベッドで眠る姉貴分は、エリカと同じように、ひどく消耗しているようで。時折、浮いた汗を手ぬぐいでぬぐう。エリカとカルロスの様子を見に行きながら、カルロスに休む方がいいと提案しては断られ。朝方、浅い眠りにつく。部屋からアヤメが出て行ったことには気がつかないまま]
散歩だな。
[鳴いた鳥に目を向け、それからアヤメを見る。]
お前は?
実でも取りにきたか?
[近づいて、尋ねる。
四枚の翼に関してはなにも言わない。]
[よく頑張ったな。という言葉に、あの事故の日が思い出される。
あの時、お父さんとお母さんが何を思っていたのか?]
お父さんも……お母さんも……。
自分のほうが辛いのに、私にこう言うの……。
「こんなに火が酷いのに良く生きてたな」
「こんな状況でよく頑張ったな」
でも、でも、私は頑張ったんじゃなくて、ただそこで怖くて震えていただけで……。
でも、これだけは言える……。
私は堕天尸にはなってないし、堕天尸を信じていない。ただ助けてくれた人がいたから、ありがとうとお礼を言って、みんなでお茶を飲みながらお話できれば絶対に仲良くなれると思ったから……
[そしてクローディアを心配しなかったのは、絶対に大丈夫だと彼女を信じていたから――]
そりゃまた、優雅な事で。
[さらりと言いつつ。
実の話にああ、とそちらを見やり]
天将の素質を見極める実、か。
さて、どうだろうねぇ?
[はぐらかすように言いつつ、手近な実をつつく。
揺れる実は、特に変わる様子もなく、ただゆらゆらと]
とくべつに疑うひともいるまい。
[そばの枝に足をのせ、翼をおちつかせる。
彼女のように捥いで、己のものはぼろりと崩れるのを見せる。]
さて。
お前は素質があるようだな。おめでたいことで。
ああ、判っている。
リディアの絵は、とても綺麗だった。
あの絵のおかげで、私は怒りよりも大切なもの思い出せた。
クローディアが心から望むのは、お前と同じことだ、と。
……本当に同じかな?
[そう口にしてしばし考えると、普段の彼女のように元気よくジョエルの腕から立ち上がった]
よっし!
それならクロちゃんと一緒に祈ろうっと!
さすがにお茶もスケッチブックもないから、気分転換はできないけど、それでも十分だよね!
[そして満面の笑みを浮かべて、クローディアの方へと走っていった]
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