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あ……。
[伸ばされた腕に抱きとめられたのに気づく様子もなく、それでも視線はぼんやりと光を半ば失いかけている。それが不意に心に浮かんだ疑問を言葉にした]
ジョエル……。
[それは幼い頃に呼んでいた少し訛った発音でジョエルを呼び……]
堕天尸って……人を助けるの?
[さて誰かと目を細め、
狐はちいさく声をあげた。
飛んだ羽根は四枚。]
――いたか?
[思い当たるふしがなく、狐は羽根を動かす。
近づくと顔が見えた。]
おや、アヤメ嬢か。
[隠れているわけでもないが、特別声をかけるわけでもない。]
……お前を火事から助けたのが、堕天尸か、という意味なら、その可能性は高い。
お前の心の闇を育てて新たな堕天尸にしようという企みの一部としてだが。
虚の力が人の救いになるかという意味なら、堕天尸となった者にとっては救いと見えるのだろうな。
だが、それは真の救いではないと、俺は思う。
[そっと、子供にするようにリディアの頭を撫でる]
お前はそれほど深い闇を抱えて、それでも堕天尸には落ちなかった。
良く頑張ったな、リディア。
[枝の上で、呼吸を整えていると、肩のラウルが視線をどこかへと向け、ぴぃ! と甲高い声を上げた]
……どしたい、ラウル?
[突然の事に相棒の視線を追えば、そこに浮かぶは白の翼と]
……狐の旦那か……散歩かい?
―施療院―
[オーフェンとロザリーと別れ、施療院へ戻れば、カルロスや先生に事情を伝えた。
エリカの眠る様子を見、伝えられた言葉を聴いて。カルロスの提案した最善を取らなかったことを今更悔やむ]
私、どうして、広場に行ってしまったんだろう。翠流と、翠の翼と聞いたから、なのか。
[首を振ると]
……伝えるのはロザリー一人いればよかった。私は、こちらについているべきだったのに。任せてすまなかった、カルロス。
[診療所の仕事がひと段落着いた後は、アヤメの部屋で、ベッドの脇の椅子に腰掛け、じっと彼女をみつめていた。ベッドで眠る姉貴分は、エリカと同じように、ひどく消耗しているようで。時折、浮いた汗を手ぬぐいでぬぐう。エリカとカルロスの様子を見に行きながら、カルロスに休む方がいいと提案しては断られ。朝方、浅い眠りにつく。部屋からアヤメが出て行ったことには気がつかないまま]
散歩だな。
[鳴いた鳥に目を向け、それからアヤメを見る。]
お前は?
実でも取りにきたか?
[近づいて、尋ねる。
四枚の翼に関してはなにも言わない。]
[よく頑張ったな。という言葉に、あの事故の日が思い出される。
あの時、お父さんとお母さんが何を思っていたのか?]
お父さんも……お母さんも……。
自分のほうが辛いのに、私にこう言うの……。
「こんなに火が酷いのに良く生きてたな」
「こんな状況でよく頑張ったな」
でも、でも、私は頑張ったんじゃなくて、ただそこで怖くて震えていただけで……。
でも、これだけは言える……。
私は堕天尸にはなってないし、堕天尸を信じていない。ただ助けてくれた人がいたから、ありがとうとお礼を言って、みんなでお茶を飲みながらお話できれば絶対に仲良くなれると思ったから……
[そしてクローディアを心配しなかったのは、絶対に大丈夫だと彼女を信じていたから――]
そりゃまた、優雅な事で。
[さらりと言いつつ。
実の話にああ、とそちらを見やり]
天将の素質を見極める実、か。
さて、どうだろうねぇ?
[はぐらかすように言いつつ、手近な実をつつく。
揺れる実は、特に変わる様子もなく、ただゆらゆらと]
とくべつに疑うひともいるまい。
[そばの枝に足をのせ、翼をおちつかせる。
彼女のように捥いで、己のものはぼろりと崩れるのを見せる。]
さて。
お前は素質があるようだな。おめでたいことで。
ああ、判っている。
リディアの絵は、とても綺麗だった。
あの絵のおかげで、私は怒りよりも大切なもの思い出せた。
クローディアが心から望むのは、お前と同じことだ、と。
……本当に同じかな?
[そう口にしてしばし考えると、普段の彼女のように元気よくジョエルの腕から立ち上がった]
よっし!
それならクロちゃんと一緒に祈ろうっと!
さすがにお茶もスケッチブックもないから、気分転換はできないけど、それでも十分だよね!
[そして満面の笑みを浮かべて、クローディアの方へと走っていった]
[逸らされず受け止められた視線は居心地が悪く、すぐに自分から外した。
告げられた内容をよく咀嚼する。都合が良いと考えてしまうのは、さてどうしたものかと]
俺は…アイツは人間だと思うがね。
言えはしないが、理由も一つだけある。
[嘘にはならない言葉を選び、告げる。
窓の外へ視線が動いても、自身は俯いたままで気付かず]
…いや、アイツの考えてる事は、簡単だよ。
理解できるかは、別だろうけどな。
―回想―
あは、いいよ〜
[と、ショートカットの意味がわかっているのかいないのか。
だが崖から飛び降りるようなルートも特に苦もなく楽しげに着いていった。
そして診療院の扉を開けて、そこの主であろう人とカルロスが喋っているのを見て]
うん。動かないのはつまんない。はやく楽しくなってね
[カルロスがエリカを運ぶのを見送れば、去ると告げることもなく診療院を後にした]
―回想終了―
ま、こんな時期にこんなとこに来てりゃあ、ねぇ……。
[さらりと言いつつ、崩れ落ちる実を眺め]
さて、めでたいのか、はたまためでたくはないのか。
どっちだろうねぇ?
[小首を傾げつつ、笑う。
向ける視線は、艶笑とは裏腹の鋭い眼差し]
さァ。
俺は知らないが、ふつうはめでたいんじゃないか。
[くすりと哂い、狐はただアヤメを見る。]
めでたくないとしたら、知られたくない場合か?
――なァに、俺には口外するつもりはない。
[クローディアの元へと向かうリディアの後ろ姿に、僅かに笑みを浮かべる]
こちらこそ、だ。
[囁くような言葉と共に水鏡に一つ*波紋が揺れた*]
― 回想 ―
[ カレンたちと別れた後、とりあえず家へと戻ることにした。]
調べてみると言っても…。
[ そう言って頭を抱える。
ここ連日の外出はやはり自身の体力を奪っているようで。]
……とにかく、眠りましょうか。
リディアが封じられたなど…悪い夢なのかもしれません。
[ そう言ってベッドへと倒れこんだ。]
[窓の外へ視線を向けたまま、カルロスの言葉に耳を傾ける。
全て聞き終えてから、目だけ動かして青年を見た。
俯いた顔は見えない。その背の翼胞の内も見えはしない。]
理由は言えないか。
……それでは信じるのは難しいな。
まあいい。お前がヤツを人間だと思っている事は判った。
[理解については鼻に皺を寄せ、淡々と事実だけを告げる。
聞くべき事を聞けば長居する気はなく、青年に背を向けた。]
……………邪魔したな。
[向かうはアヤメの所。
抜け出したと聞き、馬鹿娘と呟くのは*少し後の事*。]
……普通は、ね。
[くすり、笑う。表情の変わらぬ狐の意図は読めない]
隠し事は、知られたくないからするモンだろ?
ま、好きにするといいさね。
アタシは、もう逃げも隠れもしないと決めたからさ。
[ 朝、目が覚めてから身支度を整える。
夢見がやはり悪かったからあまり眠れなかった。
家に閉じ篭っていたい気持ちもあったが、リディアのこともあり。
それから気になることもあり、家を出る。
羽根を羽ばたかせ移動する途中、
スティーヴと会い少し話をした。
エリカのことを気にしていたようなので、
恐らく施療院にいるだろうことを告げた。
彼とは、そこでそのまま別れる。
昨日のこともあり、少しばかり許せぬ気持ちもあったが。
それ以上に気になることがあった。
羽根をまた動かしその場所へ向かう。]
― 回想終了 ―
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