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…俺も一度戻り着替えるとしよう。
このままでは直ぐにバレてしまう。
[喰い散らかしはそのままに。
ロストと同じように窓から飛び出す。
大きな跳躍。
それは少し先の街路樹まで届き。
身を隠しながら一度工房へと戻った]
[ピアノの傍にやってきて、それが奏でる旋律を楽しみながら]
良いじゃないですか。
羨ましいですよ。誰かとそういう関係があるって、素敵です。
信じる要素が足りない、ですか。
確かに、そういうところはあるのかもしれません。
私がアーベルを信じかけてるのは、んー……
巧く言えませんが、人狼がこんな風に、
私だけに能力のことを教えるだとか、
それを元に色々考える、だとか、
そんな面倒なことやって何のメリットがあるのかなぁ、って。
そう思ったからで。
あと、アーベルは判り難い人ですけど……その真意は判ることが多いんです。
ですから、信じられるかな、って。
[静寂の中、声は妙に響いた。
不意に、ぴたりと収める。
表情は失せて、其処には何も無い。
立ち上がり寝台から毛布を剥ぎ取ると、二人に被せて]
... In Paradisum deducant te Angeli,
お休み。姉さん。
[小さく、小さく、囁いた]
…あぁ……
[世界はあまりに暗くて、冷たく、そして遠い。
その身に抱いて、大事に育んでいた小さな灯火も、今はもう見つからない。
膝を抱き、丸まって…小さく、小さくなってしまいたかった。]
…ごめんね。
……ごめんね。
…本当に、ごめんね。
[ひとつは、巻き込んでしまった姉へ。
ひとつは、約束を果たせなかった夫へ。
ひとつは…、産んであげられなかった、いのちへ。]
[気配に包まれ、目を細める。
主ではあるが、自分に向けられる優しさが変わらないのはとても嬉しかった。
尤も、たとえこの温もりが明日には手のひらを返されるように失ったとしても、敬愛の念は変わらないだろうが。]
…うん。せっかく貰っても、吐いたら悪いし…。
[この赤い世界で唯一、自分が人である事は、忘れてはいけない事だった。
残念と、言うエウリノに、気配が甘えるように擦り寄る。]
う……う、……嗚呼。
暗き影は、……来たり。
崩れたる塔は、地に染み渡らん。
[呻くように言いながら、ゆっくりと立ち上がり。おぼつかない足取りで広場へと向かう。入り口に着き、噴水の辺りまで来たところで一旦足を止め、耳を押さえる手の力を強めた。視線を彷徨わせ]
行かねば、
[カウンターにも誰も居らず、注文も出来ずに立ち尽くす。
厨房に居るのかと奥に声をかけようとした時だった]
……?
[宿屋の奥から微かに聞こえる笑い声。
その声は途中で噎せるものへと変わり。
一体何事かと奥を窺った。
聞こえた笑い声は聞き覚えのあるもの]
…アーベル?
[奥のどこに居るか分からないために従業員用通路へと顔を覗かせるだけにして、声の主の名を呼んだ]
[ロストの大丈夫という言葉には、それでもやはり心配そうに。
戻るという言葉には、ぺこりと一礼した。]
…お待ちしています。
ああ、そうだ。
白猫には気をつけて。
あれは、何かを見透かす目をもっているみたいだった。
[ふと、アーベルの話題で思い出したことを二人にも話しておいた。]
[口許を拭う。
既に手も染まっていたから、それは、赤を広げるだけに過ぎなかったが。
微かに、音――己の名を呼ぶ声が届く。
軋む扉を押し開け、閉めもしない侭に、薄暗い廊下へと出た。
声のした方へと、顔を向ける。幽鬼にも似た態で]
そうなんだ…全然気づかなかった。
[村に居たときから誰かを食べていたと騙るエウリノに、少し驚いたようだった。
近隣でそんな話はあっただろうか。少なくとも、人狼に襲われた人がいるという事は無かったように思う。]
あ、行ってらっしゃい。
帰り道、気をつけてね。
[着替えるというもう一人の主にそう、声をかけた。]
…ねぇミリィ。
一つだけ、謝らなきゃいけない事があるの。
[眠れる親友の傍らに顔を埋めながら、ぽつりぽつりと呟く。]
私…信用するのは二人だけ、ってユリアンに言ったんだけど。
その二人の中に、ミリィは居なかったの。
…ごめんね。
[抑揚のない声色は、傍に居ると書き残した親友に届いただろうか。]
[工房の自室、紅に濡れた服を脱ぎ捨てながら、甘えるように擦り寄ってくるゲイトの気配を感じる]
…ゲイトとは、共に在れることが悦びだ。
悦びや愉しみを分かち合う方法なぞ、いくらでもある。
[優しく言葉を返しながら、笑む気配を伝えた。
着替え終えると再び工房を出る]
……白猫を?
飼い主は、アーベルだったか。
力持つ血脈。
祝福を受けし者。
ノーラに力は感じられなかったが…アイツには可能性があるか。
[危険だと察知した本能。
今のゲイトの話。
警戒すべきだと心が警鐘を鳴らした]
[広場に踏み入り、一度奥へと視線を投げる。
昏い翠が虚ろに静寂に包まれた宿を見る]
[しかしすぐに首を振ってミリィの家へと歩き出す。
イレーネを待たせてしまっている。すぐにも騒ぎになるであろう状態で、一人のままにはしておけなかった]
そういうもの、かな。
まあ……そうなのかも知れないけど。
[繋がりに関する言葉には、曖昧な呟きを落とし]
あの子の場合は他者との接触が限られる分、表現下手なのかも知れんが、ね。
……ま、普通に考えたら、人狼がわざわざ家に来てあんな話をする必要はない。そういう視点からも、信は傾く。
[言いつつ、ふ、と手を止めてユーディットを見やり]
その評価は、同意しよう。
[最後の言葉に向けたのは、どこか冗談めいた言葉]
……さて、取りあえずは、今浮かんだ音をまとめちまうか……忘れない内に、書き留めておかないとね。
それが一段落したら、少し、外に出るから。何か、変化があったかも知れないし。
[言いつつ、再び譜面とペンとを手に取る。
後に知る『変化』の事は、未だ*知らぬままに*]
でも、ミリィが私を信じてくれてるのも、私を好きでいてくれるのも、たくさん優しいのを、あたたかいものをくれた事も、みんな嬉しかった。
嘘をついたけど、親友だと思っていたのは本当だよ。
ミリィしか、いない。私の親友、たった一人の。
大好きだった…ううん、今も大好きだよ。
[そこには真摯な響きがあった。]
だから…よかったのかもしれない。
貴女が今死んで。
何もかも真実を知る前に、私達に何も言えなくなって。
[語る言葉は小さい。内緒話をするように、小さく小さくミリィの亡骸に囁く。]
[薄暗い通路の奥で扉の開く音がした。
誰かがこちらへと歩いて来る。
ややあって、その全容が見えてくると、思わず息を飲んだ]
……お、まえ。
んだよその格好…!
[血濡れの服、赤に染まる手と顔。
尋常ではないことが起きたのは確かだった]
――や。
[挨拶は何時ものようで、
けれど、何時もの笑みは無い]
悪いね。店を開けて。
何、と言われても。
見れば解る、でも、見ない方がいいかな。
[己の歩んで来た方へと、視線を流した。
開かれた侭の扉。示した先は、明白だった]
村には居続けたかったからな。
極力足が出ないように、村から離れた場所で、後ろめたい連中を喰ってた。
こそこそ移動してる旅人とか、運悪く現れた盗賊とか。
村大して貢献してたと思うんだがなぁ?
[くく、と可笑しげな笑いが漏れた]
尤も、それも年に一・二回のことだ。
それ以外の時はずっと抑えてたさ。
[広場を抜けたところで、予想通り二人組の自衛団員と会う。
どこへ行くと尋ねられれば素直にミリィの家へと答え]
ミリィは、亡くなりました。
ああ、狼に襲われたわけではありません。
ある種の突然死…だったのでしょうか。
[静かにポツリポツリと語る。
団員達は絶句した後に、片方はついてくると言い、片方は詰め所へと走っていった]
ええ、私が看取りましたよ。
夕方様子を見に行った時には、既に倒れていたのです。
[沈んだ声は演技でも何でもない。
ミリィの家へと歩きながら、暗い表情で必要な事実だけを伝えた]
[一歩一歩と歩き出す。静かにざわめくそこへ、宿へと向かう。いつもより明らかに多くの時間をかけて辿り着くと、店を、戸を見据え、暫く耳を澄ますようにしてから]
……。
[無言のまま、その戸を開いた]
[着替えた後は様子見も兼ねて宿屋へと。
案の定、見つけたのはアーベルのようだった]
く、ははははは!
流石に姉を喰われては笑みも浮かばないか。
[アーベルの姿を見て愉しげな笑いが響いた]
[聞こえて来る囁きからは必死に意識を背けていた。
そんなことをしても無駄なこともまた知っていたけれど]
ああ、やはりアーベルですか。
ならば早いうちに片付けなければいけませんね。
[一度だけ、そんな言葉を挟んだ。
この半年、人を食べたことはまだなかった。
ただ耐え切れずに動物を生のまま食らったことは何度かある。
それでは渇きは決して癒されることがなかったけれど]
[アーベルが纏う赤。
それが何から成されているものなのか。
匂いからも嫌でも想像がつく]
…店とか、言ってる場合じゃねぇだろ、それ。
……誰の、だよ。
[纏う赤を見つめながら、短く問うた。
見れば分かると言われても、そこへ向かうには勇気が要る]
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