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そうですよ。
そういうものは、大事にしなきゃ。
[一度狂気に陥り、全てを奪われた自分には。
もう、そういったものは残されていない。
一瞬、寂しげな声が混じった。]
イレーネさんが特に変だとか、そういったことはないんです。
でも、アーベルと比べると。
……どっちも本物なら良い話なんですけどね。
[その眼差しはどこか遠い。
同意の言葉には、くす、と笑った。]
はい、わかりました。
お邪魔してしまってすみませんでした。
……曲ができるの、楽しみにしてます。
[ちゃんと食事も摂って下さいね、と声をかけて*部屋を後にした。*]
それも、そうだね。
[微かに笑う。
薄闇に紛れて、見えるかは怪しいが]
――ノーラ姉と、エルザ姉。
[短く、はっきりと。その二つの名を、紡いだ]
[わざと音が立つように扉を開ける。
中に居るイレーネも気が付くように]
予想だけならできますけれど。
貴方もご覧になればすぐに分かりますよ。
[そう言ってミリィの部屋へと足を進めた]
イレーネ、お待たせをしました。
そうだね…エウリノと一緒だと気持ちいいし。
[笑まれると嬉しかった。いつもの不器用な小さな笑みではなかったが、そんな事は関係なかった。]
えっと…そう見ていいと思う。
[そういえばいつだったか、カインはアーベルの猫かと尋ねた時は、否定の言葉が返ってきたような。が、普段傍にいるし、あまり大差はないように思えた。
思い出す、オパールのように輝く瞳を持つ猫を。そんな猫、この世のどこにも居ない。そして探られるような感覚。
答えは易く出るようだった。]
今見たらまた衝動が沸き起こっちまうじゃないか…。
その姿を見てるだけでも、抑えるのが大変だってのに。
[仮面の下でほくそ笑む]
このままこいつも喰らってやりたいが…人が来たな。
[扉からの気配に小さく舌打ちした]
[アーベルの小さな笑いは陰により隠れて見えず。
紡がれる名を聞き、瞳に驚愕の色を宿す]
女将さんとノーラ…?
…お前…自分の姉を……?
[疑いとも取れる視線をアーベルに向けた。
身構えるように僅かに後退る]
[ミリィの手を取る。冷たいとはおもわないが、もう体温は大分少なくなってきていた。]
…絵、出来てよかったね。
おじさんとおばさん、きっと喜ぶよ。
[そう親友に、心からの微笑みを向けてから、入り口から扉を叩くような音がしたので、玄関へと向かった。
オトフリートや自警団の人間を見上げる、その顔は微かに青い。
親友を突然亡くした、哀れな少女の顔だった。]
おや、それは残念至極。
[ゲイトを実際に目の前にしつつ、届いた囁きに再び反応を示す]
急いては事を仕損じる、かもしれません。
どうぞご無理はなさらずに。
――、
やあ。諸君、今晩は。
ブリジット=フレーゲがお邪魔するよ。
[後ろ手に扉を閉めてから奥に向かって歩いていく。幾らかいったところで止まり、室内を一望して紡いだのは、状況には不似合いだろう平坦な挨拶。
...に、アーベルが告げる声は届いたか否か]
[ああ、と。そういえば近くで屯していた盗賊がいつの間にか居なくなったと、そんな話があった事を思い出す。]
あれ、エウリノのおかげだったんだ。
……ほんと、人間って…。
[馬鹿だねとはぽつり。]
よく我慢、出来たね。
[一旦喰らうとすぐ次を、貪欲に求める主らの食欲は旺盛で。
それを一年に1,2回で押さえたエウリノには感心した。]
本当にそうかは分からないが、可能性はあるだろう。
やはり、と言うことは。
ロスト、何か知ってるのか?
[挟まれた言葉に浮かんだ疑問を投げかける。
ゲイトからの言葉は心地良いものばかりで。
渇きを癒した直後もあってか、穏やかな気配が漂う]
白猫は最近見ないようだが…。
まぁどちらにせよ、アーベルは要注意人物だ。
早々に消す算段をつけるとしよう。
――奪われるより前に。
自分の手でやっておけば良かったと思うね。
[否定と、肯定よりも物騒な言葉が零れた。
距離を取るユリアンへと近づいて、その横をすり抜けて行こうと歩む。
灯りに程近い方向から、聞き慣れた挨拶が聞こえた]
あぁ、フレーゲ先生。
声は、聴こえましたか。
いや、聴こえて“いる”のかな。
お医者先生…お帰りなさい…。
[青ざめた少女は、それでも自警団の人間には憎憎しげに映るか。
乱暴に自分を押しのけミリィの部屋へと向かう彼らの後を、心配そうについていった。]
…絵、大丈夫かな。破かれたりしないかな。
[うっかりそんな事をされては、ミリィの生が無駄になる。]
…こんな時ですのに、一人にさせてしまったりして。
考えが回りませんでした。申し訳ありません。
[イレーネに謝罪して部屋の中へと入る。
自衛団員は完成された絵画を見て、完全に絶句していた。
その視線を追い、片隅に彼女の最期の言葉と同じ文句を見つける]
『みんな仲良く』
[息が詰まった。軽く喉を押さえる。
引き寄せられかけていた絵画から目を背け、手を強く握り締める]
大丈夫ですよ。
その絵を壊すことなど、彼らにだってできるはずがない。
『ああ、遺作だしな』
『だがそいつに渡すわけにも』
…だそうですが。
[イレーネを見て、説得しますか?というように首を傾けた]
──っ。
[返された言葉に絶句する。
どこか尋常ではないその思考についていけず、アーベルの動きを注視しながら横を通り過ぎるのを見やった]
……奪われるより前に、ってことは。
アーベルじゃないってことか…。
[齎された言葉を何度か反芻し、ようやくその言葉を噛み砕く。
血塗れた姿のままブリジットに挨拶する様子に、酷く眉根を寄せて]
……客対応する前に、その格好どうにかしてきたらどうだ。
[言いながら、アーベルの紡ぐ言葉にブリジットへと視線を向けた。
声が聞こえるとは如何なることか、と]
ああ、確証は取り損なってしまいましたが。
自衛団長殿の検死をした時、白猫がゲイトに擦り寄りましてね。
どうも嫌な感覚があったのです。
[ゲイトに確認を取るかのように間を空けて]
それに、彼は何かを知っていて隠している節がある。
「視る者」であるのなら、辻褄が合うというわけです。
そうしようかな。
動き難くて、敵わない。
[普段よりも、幾らか口数は少なく。
されど傍目にはさして変わりない様子で、幾らかのやりとりを交わしてから、緩やかな足取りで*その場を後にする*]
いいえ…ありがとうございました。
ミリィとたくさん、二人だけで話が出来たから。
…うん、ほんとうはいけないんだって、分かってるけど。
それでも。
[謝罪にそう返しながら、後に続く。
自警団員の様子には少しだけほっとした。
説得するかと問うオトフリートには、緩く首を振った。]
…私が貰っていいものじゃないから。
[みんな仲良くと、銘のように入れられたそれに込められた願い。それを含めて、これは誰か一人のものにするべきではないとは朧気に感じていた。
そんなことしてはいけない。
――魅入られて帰って来れなくなる。]
ああ、アーベル。
聞こえたよ。聞こえている。
ノーラが、女将が。
呼び声、だろう?
[「そこ」へ向け再び歩き出しながら、アーベルに答える。一言一言ははっきりと、しかしどこかばらけたように。自分がやっておけば、という物騒な言葉にはそちらを見るが、それ以上の反応はせず。ユリアンの方も一瞥し]
そう。重なった。
重ねたのだ。重なりは引き出した。
変容は、変容を。
時を錯誤したる増加。
呼び声は呼び声を呼ぶ。
二人相手にするくらいならどうにかなりそうだが、無理はしないでおこう。
仕損じては元も子もない。
[ロストからの忠告に頷きの気配を返し。
ゲイトの言葉に小さく笑いを漏らす]
知らずのうちに居なくなってたんだ。
運が良い程度にしか思っていないだろう。
俺だって、自分のためにやっただけだからな。
……我慢はするさ。
宝石加工の技術を身につけるため。
何より──お前の傍に居るためなんだから。
この村には、夢と希望の両方があったんだ──。
[傍にゲイトが居たならば、抱き寄せていただろう。
そんな気配を伝えながら、真摯に言葉を紡いだ]
[普段とあまり変わらない動きのアーベルに不信感が浮かぶも、姉弟の死であれでもショックを受けているのだろうか、と思うと突く言葉も失われる。
目の前から姿が消えると、赤が見えなくなったことで安堵の息を漏らした]
…呼び声は、呼び声を呼ぶ?
……先生よ、あんまり分かりにくい言葉は並べないでくれないか。
噛み砕くのに時間がかかる。
[今までブリジットの叫びや言葉は極力聞かないようにしていたため、向けられた言葉が何を意味するのか理解出来なかった]
うん、カインを抱き上げて目を合わせた時…目が、オパールみたいに色を変えたの。
すぐに変化は止まったけど…。
[ロストに同意するように、自分がカインと相対した時のことを話した。]
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