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……ベアトリーチェ?
どうして、『此処』に?
[はっきりと己の名を呼んだ少女。
足を止め、眼鏡の奥の瞳をしばたかせた。
事が起こる前に診療所に戻ったから、
絵師の封じの対象が彼女である事は知らない]
司書 オトフリートは、職人見習い ユリアン を投票先に選びました。
……俺だって、好き好んで封じられたわけじゃない。
こんな形で……ミハエルに、押し付けなんざしたくなかったさ……!
[ぴしゃり、と言われた言葉に返すのは、微か、苛立ちを帯びた言葉。
しかし、その苛立ちも、名を呼ぶ別の声を捉えたなら、影を潜めるのだが]
……っと。
そうか……君も、同じ場所に留まる……よなぁ、やっぱり。
[ゆるりと向けた視線の先。
驚く少女の姿に、零れたのはため息]
[自分の手で、肩を抱いて視線を絵から逸らす。
そしてじいっと、オトフリートを見つめて]
キノコ畑に。
[口の中で、繰り返した。]
うん、そうする。
あのね、司書さまが、絵を見つけたんだって。
キノコ畑で見つけたって言ってた。
あたしたちが描いた、絵。
[布の動く音。
そちらに目を向ける]
はい。
[言葉に頷き。
被せられた白に、青が焼き付いて離れなかった]
…え。
[小さな呟きはよくは聞き取れず、瞬いた]
そんなとこにあったんか。誰か見て…るのがいたら言い出すよな
[いいながらも視線は絵に。そしてほとんど無意識に手を伸ばしたところで、自身で気づいて止まる]
なにか。わかることあるか?
[それはミハエルでありオトフリートにであり、この場に居るもの皆に聞いて]
『海』も外に繋がるものだからな。
[方法論に関しては、彼の方が詳しいのは間違いない。
ゆえに、それに対して返す言葉は持たなかったが。
珍しく、苛立ちを表に出した声に立ち止まり、振り返る]
――押し付け?
[当人と会ったときの既視感とその台詞の意味とが、
重なるまではそうかからない]
…ヒカリコケと、綿毛。
[アーベルの言葉には、
ちょっと首を傾げて絵を指差した。
そして、]
ここ、ちょっと…寒い。
[肩を抱いた手にきゅっと力を入れ
ふる、と震えてそっと扉の方へと寄る。
後ろを向いて読書室の扉を開け、外へと出ると
ゆるやかに風が、部屋の中へと入った。
寒さを感じたのは、
気温だけのせいでは無いのだけれど、
それを言葉にすることは、無い。]
じゃあ、やっぱり隠してくれてるんだわ。
あたしたちの、内緒のひみつ。
半分じゃなくて、みっつぶんの、いち、ね。
[布を掛け終えると、ミハエルの方に振り向いて、笑みを浮かべた]
意外に穏やかな顔だと言ったんだ。案外、絵師としての重荷を下ろしてせいせいしているのかもしれないな。
この馬鹿には、元々向かない仕事だった。
[海の青は、ふかいあおは、すこしきらきらしているようにもみえるのだと少女は語ったことがある。
手のひらについた、キャンパスに重ねられた、その青は海のふかくの色。
そこにすこし、金のこけがうつったか、
それとも少女の手がそうしたのか、
かすかに濃い青のあいだに、細かなひかりが輝いていた。
本当に弱いそれは、
金の前ではくらむようだけれど。]
……いや、『海』は……。
[『海』は過去に繋がるもの。
それ故に、その先に何があるのかは、一応は『記憶』の中にあるのだが。
とはいえ、ここで言うのは詮無いこと、と、それ以上は言わず]
……ああ。
『新たな月』。
俺を看取り、継ぐ者の印は……ミハエルに、宿っていた。
[端的に、短い疑問の声への答えを返した]
尤も、代わりにその重荷をお前に負わせるのは不本意だったろうが。
[次の瞬間には笑みを消し、キャンバスの縁を撫でる]
ああ、そうだ、ミハエル。薬師殿の絵を描いてくれないか?
どうやら、彼女の心も身体から離れているようだが、絵がなければ留めるものが無いように思える。
ヒカリコケと綿毛?
[エルザに言われ指を指されるままに見る。確かにキャンバスの端にはヒカリコケがついているが]
あ?そんな寒いか?…いや、俺がしょっちゅう海に入ってるから慣れてるだけかもしれんけどよ
…、
[オトフリートの笑みを見て。
一瞬、言葉を失った]
重荷…ですか。
…でも、そうだとしても。
このままでいいわけがない。
[ふる、と頭を振った]
……ふん。
なるほど、そういうことか。
…………悪かった。
[途絶えた言葉の先を問うことはせず。
エーリッヒのほうは見ず、軽く握った拳を彼の腕に、ぽす、と当てる]
お前はいつも隠すから、どう接したらいいのか、わからん。
私にとっては、昔も今も、手のかかる子供なのにな。
絵師であろうが、変わらなかった。
いや、何かが違うと思いたくなかったというほうが正しいか。
[読書室の扉を大きく開けはなしたまま
まっすぐの先の図書館の入り口近くまで来る。
そちらの扉も両手で大きく開けると、リディの姿が見えて]
ごきげんよぅ。
[大きく、手を振った。]
……え? エル、ザ?
[エルザの呟き(何を言ったかまでは聞き取れず)と、突如寒いと言って読書室を出て行くのを呆然と見送る。
だが、はっと気を取り戻すと]
ちょ、待って。
[そう言って、エルザの後を追って読書室を後にする。]
なんでかしら?
こっそり、聞いてみたいわ。
今はこっそり、出来ないんだけれど。
中にみんな、居るのよ。
来る?
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