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[イザベラを例の部屋に案内した後、彼女とはその場で別れた。少女は一人廊下を歩む。辺りは暗く、既に月が空に輝いていた。廊下の壁に据え付けられた燭台の炎が辺りを薄暗く照らす。その明かりだけを頼りに歩を進め、そしてピタリと足を止めた]
……緋色の中の、白。
[透き通るような凛とした声。少女の右目だけが滅紫へと変じた]
そう、そう言うこと。
私に解るのはこれだけなのね。
[独り言にも似た言葉ははっきりと、辺りにも響いた]
白は希望。
紅は破滅。
紅を淘汰すれば白――希望が残り、破滅の回避となる。
されど白は染まり易くもあり、紅によって塗り替えられる。
総てが紅に染まりしは破滅――終焉へと繋がる。
[いつしか足は再び動き、口からは訥々と言葉が紡がれる。やがて、緋色が広がった廊下に少女は足を踏み入れた]
緋色の中の白。
残念、ハズレみたいね。
[緋色の中に佇む男をよそに、緋色に没した緑に滅紫と紅紫の瞳を向ける。夢幻の白き華が少女の右目に映っていた]
……お前が犯人であるなら良いがな
[息絶えた体、瞳へと手を伸ばし、まぶたを閉じさせる]
[部屋からは少し離れた、階段の上]
[命の緋は、ネリーの喉を染め、男の手の刃を染めていた]
確かめる術を持つ者もいるんだったか
だが、ここに置いておくわけにもいかな――
[と、届く声]
[そちらを振り向き、男はシャーロットをじっと見た]
なるほど、お前が見分ける者か
それは悪い知らせだな
[見下ろした死体に、それ以上男は何も語らない]
そうね、悪い報せ。
[ぴちゃり、と靴が緋色を踏む。そのまま緑の少女へと近付き、再度確かめるように緑の少女の顔を覗き込んだ]
信じるかどうかは貴方次第だけれど。
[顔を上げ、今度はクインジーに視線を向ける。滅紫と紅紫の瞳がクインジーを見つめた]
……やっぱり死んだ人しか見えないわ。
死ななきゃ解らないなんて。
[僅かに眉根が寄った]
今のところそう言い出したのはお前だけなら、信じないという選択肢は無いな
これがそうであった可能性も否定できないが――
目の色が、違うな
[二つの色をかわるがわる眺め、黒紅を細める]
わかるだけ良いだろう
正体が何だかわからない方が、後味が悪い
こんな時間に逢引か?
おまけに修羅場とはやるねえ、色男。
[廊下の暗がりから唐突に声を投げる。ベルトの後ろに差した包丁の柄に手を置き、月明かりの中へ一歩踏み出す]
それとも、獣の晩餐か?
シンプルね、貴方。
[くす、と瞳を細め小さく笑った。瞳が違うと聞くと、きょとんとした表情になる]
あら、そんな変化が起きてるのね。
副作用みたいなものかしら。
…そうね、解らないままよりは良いのかも知れない。
けれど、生きているうちに解れば余計な犠牲を出さずに済むだろうから。
女一人で出歩いているのがいたからな
終焉の使者とやらかと思い、始末した
[近付く声に向け、振り返り口にする]
それだけだ
残念ながら――切り口をみればわかるだろう?
[首に一筋走る痕]
[持ち上げたなら、首が反れ、緋の滴る肉を露にする]
なるほど、そりゃ仕方ねえな。
[警戒を緩めず一定の距離をとり、晒される傷口を注視する]
ああ、確かに番人とは違うな。
獣が道具を使わんとは言い切れねえが晩餐じゃないのはわかった。
パーツもまだ揃ってるしなあ?
[廊下を染める緋の量が減っているかまではわからないが、番人とは格段に違うと頷いてみせる]
[どこか暢気とも言える声に視線を向ける]
これが逢い引きと見えるなら、貴方の脳は酒浸りでおめでたくなってるんでしょうね。
[皮肉を含んだ言葉、それは無精髭の男へと投げかけられた。それからクインジーの言葉に補足するように]
残念ながら、ネリーは終焉の使者ではなかったけれど。
綺麗な目だと思うがな
[死体からもケネスからも目を離し、男は再びシャーロットを見た]
生きているうちにわかるのも居るんだったか
己は残念ながら該当者ではないが――
とりあえずは片付けるか
[窓の向こう、外を見た]
わざわざ、こんな夜に男と女がいりゃあなあ。
それとも晩餐と決め付けて切りかかりゃ良かったかい?
[皮肉には舐めた言葉を返し、補足された言葉に片方の眉毛を上げる]
あ゛ー、ソイツは残念。まだ獣は悠々と生きてるって訳か。
あら、それはありがと。
後で鏡見てこようかしら。
[褒められれば嬉しく思うのは、この状況でも変わらない。クインジーに微笑み礼を言う]
そう、クインジーには何も解らないと言うことね。
今のところは信じておくわ。
片付けると言うよりは…弔いね。
[つられ、外へと視線を向けた]
[シャーロットが見分ける者と察しても驚きは薄い。目の色を褒める声につられ滅紫と紅紫の瞳を見ても、へーとやる気のない相槌を打つだけ]
生きてる内になあ……
案外、ソイツがそうだったかもしれないぜ?
[隠れ蓑の減る発言に目を眇め、自分のことは言い出さずネリーを無精髭だらけの顎で示す。窓の外を見るクインジーに、攻撃も埋葬も手を出す気はないとばかりに両手をポケットに突っ込んだ。その中には皮鞘付きのナイフがあるがそ知らぬ顔]
切りかかって来るなら敵と見なしやり返すだけよ。
私、刃を向けてくる者には容赦しないわ。
[どこか自信に満ちた言。滅紫と紅紫の瞳は睨むように鋭く無精髭の男に向かう]
ええ、そう言うことになるわね。
誰がそうなのか、未だに解らずじまいだけれど。
[無精髭の男へ向ける視線は油断無い]
それは光栄――とでも言えば良いか?
[男は口元だけで笑った]
死体となれば、弔いも、片付けも、変わらないさ
――まぁ、誰が何であろうとも、ここに死体が一つ増え、
己は終焉の獣を殺す
それになんの変わりもない
外に出しておく
さすがにこんな夜中に掘る気はないからな
手伝ってくれりゃ楽だが――
[二人を見た右の目は、最後の窓で、*月光を見た*]
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