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[それから他愛ない話を少しばかりしたかもしれない。
エルザの姿が見えなくなってから、急いで屋根へと上がる。
大丈夫、まだ友人は来ていない。
ぐるりと回る路地を上から見ながら、少女はずっとその時を待ったのだった。]
―宿屋から自警団長への家に続く路地―
[少女が「仕事」を終えてその場から消えた後、
別な人物が其処を訪れる。
そうして現場からは、
注意して見れば人に寄っては違和感を覚えるほど、
眠った少女も含め痕跡は全くなくなってしまうのだった*]
―早朝:表通り―
[少女は今日は、仕事の用具を背に背負って家を出た。
大きな帽子を目深に被り、
翠のマフラーを背に揺らす姿は何時もと同じ。
向かう先は、フーゴーの宿屋。
勿論、彼女が昨日来なかった事を言うつもりだったのだけれど]
…ん?
[噂好きな太ったおばさん達が話している脇を通り過ぎる時に、
耳が拾った言葉に足を止めた。]
おばちゃん、なんて?
…香水売りがどうかしたか?
[聞き返す。
自警団が、容疑者を白昼堂々連れて行っただとか何だとか。
少女の眉が思い切り中央へと、寄った。]
―回想―
[待ち合わせ場所については苦笑して頷いた]
[大通りまでは一緒に][ローザの話を聞いて眉を寄せた]
[姉弟や剣士と別れて宿に戻った時はもう薄暗くなっていた]
ベッティ、戻っているかい?
[少女の姿はなく][残されていたのは書置き一枚]
[間違いなく本人の筆跡で書かれたものだったので]
[一抹の不安は覚えながらも][その夜は訪ねなかった]
─翌朝・宿屋─
[目を覚ましたのは朝もまだ早い時]
[早めに休んだのが原因でもあるだろう]
[軽食を腹に収めるべく一階の食堂スペースへと降り]
[女将に注文をしてから]
何か面白い話は増えたか?
[ここに来てからのお決まりのセリフを口にする]
[告げられたのは自衛団に一人の香水売りが連れて行かれたと言う話]
[内容は理解せど、それが誰なのかまでは思い至らなかった]
[彼女を顔を突き合わせたのはほんの一度]
[それも相手がすぐに逃げる形で終っていたために]
へぇ、ついに自衛団による被害者が出たか?
ああ、まだ被害者とも決まって無いか。
そいつが犯人なんだったら、自衛団は一躍功労者だ。
[常の軽い口調で言いながら、出された軽食を腹に収める]
[その口調に女将は呆れに似た息を吐いた]
その辺りの仔細を知りたいところだな。
冤罪にしろ手柄にしろ、俺にとっては良いネタだ。
[あんまり首を突っ込むんじゃないよ、と忠告を受けながら]
[席を立ち外へと向かう]
[出たところで移動先に関してしばし思案]
…話を聞くには自衛団が一番良いんだろうが…。
下手に刺激して俺が捕まるのも御免だな。
ま、調べが進んでんのかくらいは聞けるか。
[考えながら作り上げるのは常に咥えている手巻きタバコ]
[火を灯し渋みの交る薫りを纏わせながら]
[一度詰所へ向かうべく大通りへ]
─宿屋→大通り─
ふゥん…
それで、爺っちゃんが帰ってくればいいんだけど!
[噂を聞かせてくれたおばちゃんにニカッと笑って
雑巾やブラシの詰まった籠を背負ったまま、大通りを歩いた。
フーゴーの宿屋へと向けて、その足取りは少し、重い。]
[それから聞いたのはベッティが来ると言うこと、
話したのは今日の成果は上がらなかったことくらい。]
べティちゃんが来るなら、
いっそ、お泊まりのほうが良いかもしれないわ。
夜道は危ないし、カヤちゃんが家に一人なのも、ね。
[近親者に対する疑いも、連行された者がいることも、口にはしない。
空のカップを置き、]
良かったら、家にもいらっしゃいね。
[そんな誘いをかけただけ。
強く勧めることは、しなかった。]
[友が来るという台詞と、不安げにも映る様子は、少しばかり釣り合いが取れない。
けれど、エリザベートは少女の頬に手を伸ばし撫ぜるだけで、追求はしなかった]
[若い子の邪魔をしてはいけないからと、いつも通りに笑って、自衛団員宅を後にする。
その後の出来事は、*知らない*]
─宿舎・自室─
[家に帰った後、普段は嗜む程度であるアルコールを呷るほど飲んで、そのままテーブルに突っ伏して寝てしまっていた
外の喧噪に、んう、と小さな唸り声を上げて顔を上げる
だが、二日酔いか頭がガンガンと痛んですぐに頭を抱える形に]
自警団……言い掛かり………誤認逮捕……
[頭を押さえたままブツブツと呟いていたが]
…………許せないよねぇ
[手の隙間から僅かに覗く口許は、残酷な笑みを浮かべ、歪んでいた]
─大通り─
[いつものようにジーンズに両手を突っ込み]
[手巻きタバコを咥えながらゆったりとした速度で歩く]
[しばらく大通りを歩いて行くと]
[籠を背負った小さな姿が見えてきた]
[持ち前のコンパスの差もあって、その後ろに直ぐに追いつく]
…おいガキ。
ちんたら歩いてると蹴飛ばしちまうぞ。
[かける言葉が意地悪いのもいつものことだった]
わ、わ。
オレはボールじゃねぇよ!
[後ろから大柄な男の声。
驚いた声を上げて振り返ってから、あ、と小さく]
…何処行くんだ?
[問いを重ねる。]
詰所だ。
香水売りだかが連行されたって聞いてな。
調べやらなんやらが進んでんのか聞きに行く。
[目の前の小さな姿を見下ろし]
[隠すことでも無いために行き場所を答える]
そっちは仕事か?
[背負われた籠に一度隻眸を向け]
[何気ない態度で訊ね返した]
―翌朝・フーゴーの宿―
親父さん。
確認するけれど、カヤ君が直接ここに来て。
その伝言を受けてベッティは出かけたんだよな?
[昨夜聞いたことをフーゴーにもう一度尋ねる]
[まだ朝だ][それでも若干の焦り]
[普段ならこの時間には戻ってくるはず]
……分かった。ありがとう。
先に迎えに行ってくる。
[食事は取らずに立ち上がった]
[宿を出て自衛団長の家に向かう]
ん、詰所か。
爺っちゃん戻ってたりしないかな。
[背に背負った籠の蓋は閉められているけれど、
煤の匂いは仄かにあたりに漂う。
男を目一杯見上げて、うん、と頷いた。]
仕事、なんだけど。
昨日呼んだベッティがうちに来なかったからサ、
忙しかったのかな、ってちょっと宿屋に寄る心算。
―大通り―
カヤ君!
[見つけた姿は一つだけ]
[傍に居る隻眼の男も認識せずに名を呼び走る]
一人なのか。
ベッティは一緒じゃないのか?
[少し強張った顔で尋ねる]
どうかね。
それも兼ねて見に行くとするか。
[その可能性はほぼ無いと思っては居るが]
[宿屋に向かうと言う子供とその理由に僅か思案を巡らしつつ]
ベッティ…?
ああ、あの露店のガキか。
来なかった、ねぇ……。
[思い当るのはただ一つ]
[けれど確信に至る裏付けは今のところ無い]
[だからそれ以上のことは言わずに居た]
[直後に子供の名を呼ぶ声]
[隻眸をそちらへと向ける]
[強張った表情の、焦りを見せる行商人が子供へと駆け寄っていた]
あれ、おっちゃん?
[宿屋の方向、今まさに向かおうとしていた道。
友が師匠と呼んでいた男の姿を見つけ、目を見開く。]
え、ベッティ、って…
昨日、…――仕事じゃねぇの?
[翠の大きな目は、更に見開かれ。
きゅ、と、両手を身体の横で拳に握り締める。]
来なかったから、どうしたのかなって…今、寄る心算、で…
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