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[外から、声の交差が聞こえてきたのは、それからさして間を置かず。
訪れた、静寂。
それを待ち受けていたかのように響くのは、囁く『声』]
……っ!
[一際大きな震え。
気づいた周囲が案ずる声を上げたとしても、今は、囁く『声』によって飲まれ]
ウチ…………みてくるっ!
[『声』を止める方法は、それしか知らないから。
外へ、駆け出した]
[ヘルムートの苦言は聴こえていないのか、
少女を抱えた学者の眸はフーゴーを見つめる。]
…―――
[何かを口にしようとした瞬間。
荒々しい音が室内に響き、ダーヴィッドが連行されて行く。]
…――後悔をするなら、動いての方が良い、ですかね。
[それはフーゴーに向けられたものだったのか否か。
自衛団に勝手に選ばれるよりは、話し合いの方が良いのかどうか。
問いかけるような視線を一度周囲に巡らせ]
それで、空き部屋はどこですか?
[非情にも思える淡々とした声で、
リッキーに空き部屋を聴いていたヘルムートに尋ねた。]
おい、ライ…あまり、無茶は…
…なん、だ?
[リディを気絶させて連れていこうとするライに、手荒はするな、と言おうとしたところで自衛団員が連れ立って入ってきて。
フーゴーと短いやり取りの後、カウンターについていたダーヴィッドがいきなり連れていかれそうになるのを見ると、待て、と。]
そいつが怪しいと、なぜ決めた。
適当に選んだというなら、俺は止めるぞ。
ダーヴィッド、こっちへ…っぐ…!?
[剣を向けられても引くことはせず、ダーヴィッドに手を伸ばすこの男の首に、別の自衛団員が剣の柄を打ち付ける。
そのまま崩れ落ちる男に、余計な真似は死に急ぐぞ、と言い残し、自衛団員は赤毛の騎士を連れていった。
響いた音は、しかし意識を落とした男には聞こえなかった。**]
ヴィリーさんの方が、無茶をしてるのではないですか。
[意識を失った幼馴染を、困った色を滲ませた碧が見下ろす。]
空き部屋は、まだありましたっけ?
[どこまでもマイペースに、幼馴染も後で運ぼうと、フーゴーにかリッキーにか、尋ねる言葉を紡いだ。]
[駆け出した先の人だかり。
行きたくない、と行かないと、がぐるぐるぐるぐる、交差する。
震えはするけれど、足は止められず。
──いろが、みえた]
……しろ。
ひとの、いろ。
[掠れた呟きの後]
……なんでっ!
[口をついた叫びは、どう受け止められたのか。
返されたのは、お前たちが選ばなかったからだ、という言葉。
それに返す術はなく、しばし、立ち尽くす]
[払いのけられた先、誰も座っていないテーブルの傍でフーゴーはダーヴィッドが連れて行かれるのを見やることしか出来なかった]
……くそっ!
連中、何が何でも日に一人槍玉に挙げろってのかよ!
んなことしたって、下手すりゃ被害が拡大するだけだってのに…!
[ダンッと勢いよく拳をテーブルに叩き付ける。静寂が訪れた刹那、クロエが外へと飛び出すのを見た]
んなっ、クロエ、待て!
[団長の時とは様子が違うとは分かっていても、また倒れてはと思いその後を追いかける]
[訊ねられたリッキーは、言い淀みながらも一番最初に死亡した旅人の部屋なら空いていると告げることだろう]
[同じようにダーヴィッドへとむけられる救いの手。
しっかりとしたそのおとこの手も、何をもつかむことは出来ず。
なすすべのない空気がひろがったように思えてくる]
こんな…ひどい。
[かすれたことば。
外にとびだすひとたちの背を追うには、ふたりぶんの注意と天秤ではかれども、かるすぎて]
――……。
[淡々とたずねるライヒアルトにめずらしくもまゆをひそめ。
それでも、リッキーに伝えられたことをそのままくりかえす]
そうかも、だけど。だけど、でも……!
[まとまらない思考は、ループする言葉を繰り返させて。
『声』はきこえなくなったけれど。
言いようのない苦しさが力を奪い、足元がぐらついた]
……どうしろ、って。
あれもこれも、どうしろって、言うの……。
ウチ……は……。
[その場に座り込みつつ、零れる呟きは泣きそうな声。
それでも、「なかない」の矜持は崩そうとはせず。
見えたものを問われたなら、ひとのいろ、とだけ*小さく返す*]
ヴィリーさんを運ぶの…手伝ってもいいかしら?
[さきほどの少女はたやすく抱えられたけれど。
大のおとなならば、そうもいかないだろうと、手伝いを申し出る]
これでも、いちおう…そういうことはできるのよぉ?
[見た目からでは説得力がないかもしれないが]
─宿屋外─
[人だかりの傍にクロエの姿を見つける。「選ばなかったからだ」と告げられ、立ち尽くすクロエの横に辿り着き]
……ダーヴィッド……。
[変わり果てた姿に視線を落とした。彼を取り囲む団員が「コイツの言ってたことどうする?」と他の団員に訊ねるのを聞く。詳細を聞くと祖国への伝言を今際の時に遺したらしい]
……だったら、伝えてやってくれ。
そのくらいならてめぇらでも出来るだろう。
てめぇらが手に掛けた奴の最期の頼みくらい、聞いてやれ。
[それは懇願に近かった。クロエからはダーヴィッドが人であると聞かされる。自衛団員達に彼の遺した言葉を伝えるように頼むのは、無為に死なせてしまった相手にしてやれる唯一のこと。心の中で謝罪しながら、彼の遺体が片付けられるのを見やった]
[ヘルムートの眉が顰められたことに
気が付いているのかいないのか。
常と変らぬ様子で、空き部屋の状況を聴くと、ひとつ頷く。]
では、リディさんをその部屋に運んで、
ヴィリーさんは申し訳ないですが、
此処に毛布なり運んで端で寝て頂きましょう。
運ぶにしても、ベッドが足りないようですし。
[申し出に少し首をかしげ]
…――二人のことがありますし、
今宵は私も此処(酒場)で寝かせてもらう心算です。
[淡々と勝手に予定を組み立てて、
スタスタとリディを空き部屋へと運んで行く。]
[暫く後に男は立ち上がった。
だがその足はクロエを追うフーゴーに続くこともなく、倒れた者を運ぶ者たちを手伝おうともせず]
……やれ。
人狼かねぇ、あの兄ちゃんは。
あぁリッキー、灰皿貰えるか。
[普段と変わらぬ風の声で青年に頼む傍ら、先程までダーヴィッドが座っていた席に腰掛けると、煙草を一本取り出す。
団長の時と同じように、弔い代わりの細い煙を*燻らせた*]
……それなら、ここの場所あけないと、ね。
[外をちらりと見るけれど、いまさら自分にできることはないだろう。
リッキーに、布団や毛布の準備をたのみ、酒場のすみに空けたスペースへ運んでもらう]
[立ち去り際、団員は「明日、忘れるなよ」と言う言葉を残して行く]
……てめぇら、他人事だと思いやがって。
きちんと見極めにゃ、後で痛ぇ思いするのはこの島のもん全員だっつーのに…!
[他の結社員からすれば、フーゴーの考え方は甘いと言われるのだろう。事実、かつての審問の系譜は知っていても、体験したことは無く、実際に審問に直面したのは今回が初めてなのだ。更には15年も結社本部から離れ、平和だったこの島に居たために非情に振る舞うと言うのも直ぐには出来なかった。
隣を見れば座り込むクロエの姿。彼女の従兄であるアーベルは疲れが出たのか机に突っ伏してしまったようで、追いかけて来ては居ない。クロエと共に居たゲルダは追いかけて来ただろうか。ともあれ、このまま座らせたままと言うわけにはいかないため、クロエを立ち上がらせるべくその肩に手を置く]
クロエ、ひとまず宿に戻るぞ。
今は、休んでおけ。
[声をかけ、応じる仕草を確認したなら立ち上がらせ宿屋へと連れて行く。宿屋に戻ったなら、ゲルダに頼み、クロエを部屋へと連れて行ってもらった]
[リディを空き部屋に運ぶと、そっとその身をベッドに横たえる。
きちんと掛布をかけ、昨晩と同じように言葉をかける。]
おやすみなさい、良い夢を…――。
[踵を返し酒場に戻ると、その場には誰がいただろうか。
ヘルムートとリッキーがヴィリーを運び終えてるのをみれば、
礼を述べるかのような目礼を。
自身はいつもと同じ場所の椅子に座り、眸を閉ざす。
誰かが、そこにいる理由を問えば、
「二人が心配ですから」と、
本当に心配してるのかはかりかねる淡々とした声音で返すだろう。
その後、酒場で何があっても基本的には口を挟まず、
眸を閉ざしたまま夜は更けて…――。]
…悪ぃ、ちと部屋に引っ込む。
リッキー後は任せるぞ。
[酒場に居る者にそう声をかけて、フーゴーは自室へと戻って行った。今後をどうするかと、あれこれ思考を*巡らせながら*]
[なにか、考えこみながらの作業は沈黙をもたらす。
気をうしなった人間のそばでさわぐほど、非常識ではないというのもあって]
こころよいねむりこそ、自然が人にあたえる、やさしく、なつかしい看護婦――……か。
[うかんだのは、とあるものがたりのことば。
この状況がこころよいねむりにつながるとは思われないが]
あたくしは…、もう、やれることもないし。
別荘のほうにもどるわ?
[だれにともなく告げて、宿屋を*出ていく*]
― そして明け方 ―
[目の前に置いていた鳥籠の中の鳥が、朝を告げる。
朝と云ってもまだ陽の登る前のような、そのような時刻。]
…―――。
[幼馴染は良く寝ていただろうか。
足音を忍ばせて、生物学者はリディを寝かした部屋へと向かう。
――学者は学者なりに、責任を感じていたのだろうか?
常を知る者がその行動を見れば、
いつかのゲルダではないが、嵐が来ると云うかもしれない。]
…――リディさん、すみません。
[学者がその部屋に辿り着いて、どれほどの時が経ったのか。
人が起き出してくる時刻にはなっていたか。
血の匂いを訝しんだ人が、その部屋の扉を開いたなら、
無表情で死した少女に謝る学者の姿を見ることができるだろう。
――嵐の代わりに訪れたのは、少女の死だった。]
私は、貴女がそのようになっても、何も思えないのです。
両親が亡くなった時もそうでした…――。
[淡々と紡がれる独白。
それを聴いたものはあっただろうか。]
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