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―回想―
[フーゴーが結社の人だと言うのに、驚いたように瞬き。
口を挟むまもなく、皆が次々と喋るのをただ聞いている。
回復したらしいダーヴィッドの姿にほっとしていた所で、不意に自警団員がやってくれば怯えたような視線を向ける。
そして連れて行かれるダーヴィッド。
ソレを止めようとしたヴィリーが自警団員に殴られる姿。
あまりの驚きと怯えに動くこともできず、傍にいたクロエが震える手で腕をつかんでも、ただ呆然としていた。]
あ……
[クロエが駆け出して往くのが見える。
ドアの外の喧騒が収まり――ぎゅ、と瞳を閉じた。
これでは、まるで殺させるために助けたみたいじゃないか、と唇をかみ締める。
外に出て行く勇気もなく、倒れたヴィリーを運べるわけでもなく、ただその傍で立ち尽くしていればフーゴーとクロエが戻ってくるのが見え。]
あ、うん……クロエ、大丈夫?
[クロエを部屋へ、とフーゴーに頼まれたなら、僅かばかり色を没くした顔で頷き。
大丈夫だと言うクロエに心配そうな視線は向けるものの、無理に居座ることはしなかった。]
うん……じゃあゆっくり、休んで。
[こくりと頷き。
酒場へと戻る。
占い師と名乗った人たちももう部屋に引き上げた後だろうか。
リッキーに毛布をもらって、ヴィリーの傍に座り込む。
一人で家に帰るのも恐くて、そのまま夜を明かした。]
[うつらうつらとした朝の時間、フーゴーがやってきたことにも気づかない。
ただ、宿の部屋のほうからざわめきが聞こえれば、半分覚醒したような、寝ぼけてるような視線を一度だけ、向けた**]
―回想終了―
―回想・昨夜―
[飛び出してゆくクロエを追いかけるフーゴーの後に続くこともできなかった。
ユリアンから寄越された声に応じることもできなかった。
立ち尽くすゲルダに声を掛けることもできなかった。
戻ってきたクロエの視線を受け止めることもできなかった。
世界が紗に包まれているかのような倦怠感だけがその時の全てだった]
…っそ。
[かなりの時間が経ってからようやく身体を起こした。
酒場の片隅には横になったヴィリーと、隣で座り込み眠っているらしきゲルダ。
そして椅子に座ったままのライヒアルトが居た]
ライヒアルトさんも残ってたのか。
…怖くはねえの?
[起きていれば問いかける。
答えが返れば曖昧な笑みを浮かべ。
それよりも心配が勝つのだと聞けば下を向いただろう]
[それじゃ、と言って酒場を出て行った。
自分の部屋に戻る前、従妹がいるはずの部屋の前で足を止め]
占いじゃ自分の証は立てられない。
…親父さんには悪いが、羨ましいとすら思っちまうよ。
[苦い溜息]
可能性は一つずつ消していってやる。
少なくとも、あいつは…ユリアンは。
[誓うよな言葉に続け、小さな声でおやすみと呟いた]
―回想・朝方―
[ユリアンの部屋の反対側、逆の角部屋で目を覚ました。
荷物の中から革のポーチを取り出し、白い布の上に置かれていたカードケースを仕舞う。
後はいつもと同じに身支度を整えて部屋を出た]
この匂いは。
[鼻にかかったそれが何であるかは容易に想像がついた。
廊下の先には酒場へ入ってゆくクロエとフーゴーの背中。
扉の中を覗けば無表情のライヒアルトが死体の傍にいた]
説明、頼んでいいのかな。
[客観的な状況を聞くことはできただろうか。
感想は特に語らず、分かったと言って酒場へと*向かった*]
……。
[そこにいまだ存在していたのは何なのか。
それは、死してあらゆるモノを見ることの出来るようになった存在だったとしても、理解は出来ないものだったのだろう。
ただゆらりと蠢くそれの元に、森に住む大いなる存在が問いかけた]
『───娘よ。
お前は、何故いまだにそこに存在している。
もう分かったろう。
人間など、愚かな生き物だ。仮に彼の者が人狼だったとしても、人の知恵を持った存在などに寄り添うなど愚の骨頂でしかない。
お前がどれだけその想いを託したのだとしても、その全てを踏みにじるだけの救いようの無い存在だ。
お前の命を分け与えても、相手は一切守る気など無かった。
さあ……解き放たれて、また旅立つが良い。
お前についている鎖など、我が噛み切ってやろう』
[人狼騒ぎが一度起きれば、魂はその騒動が起こるまで束縛される。
それを、大いなる存在は、いとも簡単に断ち切ってやるとそう言っているのだ。それだけでも、この存在がとてつもない力を持っているのだということが窺い知れた]
……みゅう。
[だが、少女は小さく首を振り、それを断った]
『何故だ?
お前が守りたかったもの。そして、それ以外の全ての人間が愚かな連中なのだぞ。
同じ種族同士で殺し合い、信じあうことも出来ず、慈しみあうことも出来ない連中じゃないか。
我々は、自分が成すべきことを知っている。
それなのに、何故とどまり続けようとする?』
[その存在の言葉は、今現在だけのものではない。
遠い、遠い未来になっても何一つ変わらない人間へ向けての言葉でもあった]
―朝・酒場―
[夢現で聞いていた声がちかくなり、クロエがフーゴーにいわれて酒場にやってきたころに、ようやくのそりと動き出す。
ヴィリーはまだ眠ったままだろうか、すこしばかり心配そうな視線を向けてから、クロエや、外に出て行ったライヒアルトを見やる。]
……誰か……が?
[血の匂いは此処まで届かなくても、皆の雰囲気でなんとなく察せられるものがあり。
誰にともなく、小さく呟いた。]
……みゅう。
[それでも、少女の意思は変わらなかった。
必要としている人間に捨てられ、誰にも守られず、ただ容易く殺されたというのに、それでもなお、少女はこの場にいたいのだと。
記憶を捨て、多大なる代償を支払って会いに行った結末が、一度も幸せになることも出来ずに、不幸なままで死んでいったというのに。
感情も、想いも、記憶も全て捨ててしまったというのに。
何も、何も救われなかったというのに]
『……お前は若すぎたな。
ただ一度の気まぐれの好意を、そこまで純粋に持ち続けてしまっているのだから。
他の全てではなく、そのただ一つ持ち続けているものを捨ててしまえば、幸せになれていただろうに』
[その存在は、人間臭いため息のようなものを吐き出した]
病気……?
[返された言葉に、小さく呟く。
その説明だけで、納得できるかと問われれば、否なのだが。
それ以上追求しても、何かが変わるとは思えず]
……なんか……さびしい、ね。
[極小の呟きは、誰かの耳に届いたか。
フーゴーに促されるまま、酒場へと歩む。
ぶち猫は、ライヒアルトを見て。
それから、ちょこちょこと後を追ってきた]
『お前が愛し続けている人間どもの言葉を借りるのならば、我はこう思っているよ。
「我の愛しい娘を不幸にしやがった奴らなど、死んでしまえ!」とな。
だが、所詮は老獪の想いでしかない。
お前がそこにいたいというのならば、我にはどうすることもできん。
願うのならば……精々早くに人間に愛想がつかないかと思っている。
───さらばだ。娘よ。またいつか会おう』
[言葉はそれきり消えて、少女はただ一人残された。
いつか、森の中で一人捨てられたときのように、いつまでも、そこに居続けた]
[酒場につくと、詰め所に行くというフーゴーを見送り。
やや間を置いて現れ、外へと向かったライヒアルトを見送る]
……リっくん、なんか、甘いものほしい……。
あー……レモネード、少し甘めでちょうだい。
あと、ツィンになんか食べさせてあげて。
[リッキーに向けてこう声をかけ。
それから、ゲルダの呟きに、そちらを振り返った]
……リディちゃん、だよ……。
ライ兄さんが、最初に見つけたみたい。
[静かに返す声は、微かに震えを帯びていた]
― 宿 森へと向かう前の話 ―
リディさんの様子を見に来ましたら、
私が第一発見者になりました。
それで、おそらくフーゴーさんに疑われているのでしょうね。
[このような状態でも、
常を保とうとフィールドワークに向かおうとした矢先。
アーベルに状況を問われ、やはりいつもと変わらぬ調子で答える。]
…――昨夜、私は怖くないといいましたよね。
[相手に何故疑われたか?と問われる前に、付け足される言葉。]
私は、そういう感情――…悲しみなどもそうですね。
良く分からないのです。
どう、その感情を表せば良いのか分からない。
――とある医者からは、
おそらくある種の病気だろうと云われました。
だから、それに対して疑惑を向けられたとしても、
私は私の態度を改める気はないし。できません。
私は、私としてしかいられないのだから。
[アーベルにとっては謎かけのように聴こえるだろうか。]
それで死んでしまうなら、まぁ、仕方ないでしょう。
[説明はそれでお仕舞だとばかり、くるりと踵を返せば、
背後で「分かった」と声がした。]
―別荘―
…うたがわしきは余所者、か。
[そんなことを言っていた占い師候補のことばを思いだし、羊皮紙にむきあう手をとめた]
それが理由になるとしたら、あたくしもなのよねぇ。
生きのこるには、難易度がたかいかしらぁ。
[きのうの出来事を、ものがたりとして記したそれをかたづける。
ためいきをつき、別荘をでた]
― 森 ―
[頭上で鳥達のさえずりが聴こえる。
その音色に、碧の眸を細めて頭上を見上げた。]
嗚呼、失敗しました。
何方か、餌などあげて下さっていると良いのですが。
[思い起こすのは酒場に置き忘れてしまった、
保護をした小鳥のこと。
けれどフィールドワークを止めてまで向かおうとしないのは、
やはり学者が学者であるから。]
…――私は、さびしいのでしょうか。
[しかし、ふっと手が止まり、我知らず落ちる言葉。
クロエが零した呟きは、学者の耳に届いていた。]
分かりません。
[そもそも――さびしいという感情が良く分からない。
だから、自分がさびしいかと問えば、
分からないとしか、云いようがなかった。]
…―――。
[森を渡る風が黒髪を揺する。
その刹那微かに胸に湧いた感情は、
名を付ける前に、次の風に吹かれて消えた。]
─自衛団詰所─
……おぅ、一つ連絡に来たぞ。
[詰所の扉を開けるなり、フーゴーは団員達に言い放った]
今朝俺の宿で人狼に襲われて死んだ奴が見つかった。
リディっつー小せぇ嬢ちゃんだ。
[団員の中で一人だけ、他とは違った反応をした奴が居たか。それを目端に捉えつつ、フーゴーは続ける]
ついてはその遺体をどうするかを聞きたい。
こっちで弔って構わねぇなら、そうする。
ああ、いきり立つな。
俺はこの通り、人間である証明を持ってる。
[勝手なことをするな、と言いかけた団員に先んじて左腕の袖を捲った。見せられた銀に何人かの団員はたじろぎ、勢いを無くす。人間である証明とは言え、噛み痕は生々しく、取り巻く銀も異様に見えはするか]
…向こうの取り仕切りは俺が請け負う。
死者の弔いも、こっちで済まさせて貰うぜ。
[有無を言わせぬように言葉を紡いだ。それは今後の処刑は自衛団任せにはしないと言う宣言でもあったか。反論が無いのを確認すると、フーゴーは踵を返し詰所を出た]
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