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[ゆっくりと歩いていった先には、ランディがいて、
自警団の連中にでも嬲られようと思っていたが、
ランディの手で殺されても、
別に構わないと思った]
―――こんばんわ。ランディ。
[少し笑ってみようと思ったが、
何故だろう。
どんな笑い方を今までしてきたのか、
今はもう、
あまり分からなくなってきて]
〔雑貨屋から宿まではそう遠くない〕
〔早足で行けばあっという間に着いてしまう〕
…あ、フランにタオル返すの忘れてたな。
ま、いいか。後で返そう。
〔また新たな煙草に火をつけ、自警団員すらいない無人の広場をゆっくりと横切り、宿屋までぼんやり進む〕
〔どうやってシャロンに切り出そうか〕
〔そもそも俺と会話してもらえるのか〕
…あー、やめやめ。
当たって砕けるしかねぇだろ。
なるようにしか、ならんもんだ。
〔そう思った瞬間に〕
〔シャロン、その人から、声をかけられ、驚く〕
[…そんなこんなで、暫く気まずい沈黙が続くわけで。]
…ぁー……えっと、その…なんでも無い…から……
[済まなそうに言い訳すると、親父はフ…と軽く笑んで。]
「そうか…お前、継いじまったのか。」
[そう呟く姿は、なんだか寂しそうにみえた。]
――シャロン。
[その意思は]
[最早何物でも揺るがないだろう]
[それが]
それが、貴女の選択なのね。
[それが分かるから]
そう、貴女も死を選ぶの。
そう、なの。
[囁きが]
[僅か掠れて]
う、ふふふ・・・ふ・・・ふ・・・
[チョコレート。
チョコレート。
暖めて。
暖めて。
少しずつ
少しずつ。
溶けていく]
ランディ・・・。
ええ。ランディ、よ。
でも、生きてて欲しかった。
[ぽつりと呟く。それはもう如何しようも無いことだ。
如何しようも無いことは言うべきではないと知っていながら。
口にせずに居られなかった。
ただしその呟きは低く小さく。殆ど誰にも聞こえないような声で]
[つと、頭を上げて空を見る。
空の彼方から、ぽつりと雫が一滴、零れ落ちた。]
これ……リディア、が呼んでる?
[感覚がそう伝える。身体が、浮く。]
[瞬間、月の光が強くなって目が眩む]
[瞳を開ければ描きあげたばかりの姿が目の前にあって息を飲む]
…………。
[少し戸惑いながら]
[ようこそ?とスケッチブックに書いて見せ]
[でもこの人たちは私の秘密を知ってるはず…ほんの少し警戒しながらも笑顔で]
[行くべきだろうか。
それとも。
思考が空回る]
……も……やだよ、こういうのって……!
[言葉と共に、大きな瞳が、揺らいで。
それを、黒猫が心配そうに見つめる]
シャロン…。
〔気持ちの整理をつけるかのように、唾を飲み込んで〕
お前さんに、聞きたいことがある。
宿屋の主人から聞いた、この村に伝わる人狼伝承にゃ、人狼とコンタクトの取れる人間って奴は出てこなかった。
あれは、何処で仕入れた情報だ?
〔風は少し湿り気を帯びていたが、汗が引くには十分な温度へと変化していた〕
嫌いだった。
最初は嫌いだった。
利用しようと思っていた。
利用して。
捨てようと思っていた。
だけど。
貴方が。
貴方が。
どこまでも優秀で。
いてくれたから。
貴方が望む。
私が望む。
ところへ。
一緒に。
〔シャロンの様子に、眉をひそめる〕
…?
お前さんの、それは独り言か?
…それとも…。
人狼と、会話、してんのか?
〔わざと区切り、強く、言葉を発する〕
[パトラッシュが黙り込んでしまったように見えて。光が降り注ぐ不思議さも相まって、しゃがみ込み抱きつくようにパトラッシュの首に腕を回す。何も言わず、ただそうして]
[空を見上げるパトラッシュにつられ、空を仰ぐ]
リディアが…?
[呟かれたその名を不思議そうに繰り返す。途端、身体を浮遊感が襲い、思わず目を瞑った。その浮遊感が治まったのを感じるとそっと瞳を開ける。その先にいたのは──]
…あ…リ、ディア?
[パトラッシュの言った通り、リディアの姿。言葉を話さず文字で表す彼女に首を傾げた]
[しばらく、そうやって、泣き出すのを堪えていたものの。
黒猫の、案ずるような鳴き声に、辛うじてそれを押しとどめ]
そ……だね。
行かなきゃ。
……決めたんだよ、ボク……逃げない、って……。
[小さな声で紡ぐのは、決意]
あの時みたいに逃げて、何もかも無くすのは嫌。
ここには……無くしたくないものがあるから。
[呟いて、蛍石のペンダントを握り締める]
……行こう……リエータ。
[いつだか、母親に…何でこんな奴に惚れたんだと聞いたことがあった。
「男って言うのはね、イザって時に頼りになる。それだけで十分なのよ。」
なんとなく思い出した、その言葉。
幼かった自分は、ただ腑に落ちなく思っていただけで。]
…親父……。
「なんとなく、判ってんだろ?てめぇが出来る事だの、使命って奴だの。
…だったら、きっちり悔いなくやってこい。」
[黙って、その目を見つめて頷く。]
「…もってけ!」
[いつも腰に帯びていた古びた鞘の短剣を、放って寄越された。
意外なほどの重みと、手になじむ感触に、思わず目を丸くする。]
…あぁ、ありがとう…父さん。
[一言継げて、家を飛び出した。
父がいつもしていた右手の手袋は、机の上に無造作に放り出されていた。]
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