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[暫し暗闇の中を歩いて。
いや、どこに足をつけているのかも判らない、ちゃんと前に進めているのかも判らない、それは不安定なものだったのだが。
ある一線で、匂い――世界の匂いが変わっているのに気づく。
足をとめた。]
ん……ここ、何かの出口かもしれねぇ……。
洞穴の出口にしちゃあ、妙だけどな。
向こう側も暗いし…まだ夜なんかな。
[振り返って、ディーノにそう言いながら首を傾げる。
そもそも今何時で、あれから何時間経ったんだ?]
―自宅・朝―
〔昨晩は家に戻ったとたん、強烈な睡魔に襲われ、ベッドの上で泥のように眠ってしまった〕
〔朝になり、昨日の作業の片付けが手付かずのまま放置してある事を思い出し、工房へと向かう。がらんとした空間の中に、受け皿が一つ、無造作に転がっていた〕
…パト…ラッシュ。
〔受け皿を持ち、暫し目を瞑る〕
〔それを台所に置くと、黙々と片づけを始める。手際よく作業を終えると、受け皿に水を入れ、工房を出た〕
〔向かった先は、昨日教えた小さな洞穴〕
〔何人かの自警団員がいたが、誰もこの男の行動を咎めようとはしなかった〕
〔まだうっすらと残る血の後の近くに受け皿を置く〕
…水。
まだ途中だったろ。
飲めよ。
…。
〔何か言おうとしたのだが、喉に引っかかって上手く言葉にならない〕
〔短い沈黙の後、一歩後ろに下がる。そのまま元来た道へと帰っていった〕
〔日は既に中天に昇っていて、今日も蒸し暑くなりそうだった…〕
〔いつものように、教会へ向かう。死者の弔いがされていて、献花台にはいくつかの花が飾られていた〕
〔アッカーソン老夫婦がちょうど帰るところであった〕
〔お互い、軽く会釈をするだけで無言のまま〕
〔かける言葉など、見当たらないし、かけて欲しい言葉なんてものも無い事をよく知っていた〕
…。
〔こめかみの辺りからじっとりとした汗が流れるのもそのままに、無心に、祈る。祈る。祈る…。何を願うのか、何を望むのか。自分でもわからなくなっていた。〕
…煙草、買いに行かなきゃな。
〔それだけ言うと立ち上がり、広場を通り、雑貨屋へと*向かった*〕
―雑貨屋―
[朝方]
[扉の外で自警団員が]
[呼ぶ声が聞こえた]
知らない。
[その一声だけが返る]
[立ち寄った自警団員は]
[仕方無く戻っていった]
[日は上がってゆく]
[けれど]
[店を開ける気にもなれず]
どうして。
信じられるんだろう。
[ただ]
[誰もいない店の中]
[座っている]
〔暑い。額に流れる汗を手の甲でぬぐう〕
〔雑貨屋に着くと、扉は固く閉まっており、何人かの自警団員が困ったように雑貨屋の前から帰っていくところだった〕
…なんだ?
フラン、店開けてないのか。
体の具合でも悪いのか?
〔閉ざされた扉を軽くノックする〕
おい、フラン?
どっか調子でも悪いのか?
すまんが、煙草を分けて欲しいんだが…。
〔恐縮したように声をかけた〕
[新たな声の主]
[それは]
ランディ。
[自分自身を信じろと]
[そう言った人]
…うん。
分かった、開けるよ。
[立ち上がり]
[扉を開く]
調子が悪いとか。
そんなんじゃないんだ。
ただ…。
[誰にも会いたくなかった]
[そう呟いて]
〔雑貨屋の扉が開く。厳しい表情のフラン、その口から紡がれた言葉〕
〔誰にも会いたくなかった〕
〔どうしてそう思ってしまうのか、思考の流れは推測できた〕
…悪い。
あー…、迷惑なら、すぐ帰るよ。
煙草だけ…。
悪い…。
〔軽々しく、元気を出せよ、とも言えず。店の中に入っていいのかどうかもわからず〕
〔フランから視線をそっと外して、生やしっ放しになっている顎鬚を撫ぜた〕
…いいよ。
ランディなら。
だって、信じてくれるんでしょう?
[小さく首を振って]
[どうにか微笑を浮かべ]
[店の中へと誘う]
凄い汗かいてる。
タオル持って来るね。
[奥に入れば]
[出されたままの湿布薬と布]
[強い薬の匂いが漂う]
[暗闇の中、パトラッシュと共に出口を求め彷徨う。どれくらい歩いただろうか。進めど進めど外への出口は見えて来ない]
出口、見つからないね…。
ここ本当に洞穴の中なのかなぁ?
[歩いている間、ずっと違和感を感じていた。歩み進めど疲れはしないし、腹も減らない。確か自分はろくに食事もせずに出て来たはずだ。そんな時、パトラッシュが足を止め、こちらを振り返った]
え、ここが?
外に出たにしては何か違うような…。
夜だとしても、月も星も見えないよ?
[空を仰ぎ見る。広がるのは暗闇ばかり。星の瞬き一つも見えない。その時だった]
─………ィ………─
…ぇ?
[小さく声を漏らす。誰かに呼ばれた気がした。それは酷く懐かしい声]
─ディ……ディアナ─
─君も来ちゃったんだね─
…ディ…? ディートリヒ?
どこに居るの!?
[聞こえた声は双子の片割れ、自分の半身。きょろきょろと見回すと、前方で何かが淡く光を放つ。暗闇の中に浮かび上がったのは、幼き日の姿のままのディートリヒ]
ああ、ディ。そこに居たんだね。
ようやく姿が見れた。
…君は昔のままだね。7年前のまま。
[懐かしそうな笑みが浮かぶ。ディーノを幼くしたような子供には物憂げな表情が浮かんでいる]
─君には、何事も無い、普通の生活を送って欲しかった─
─でも”あの力”を持っている以上、やっぱり避けては通れなかったね─
ディ…?
[ディートリヒの言葉に訝しげな表情を浮かべる。その様子に彼はにこりと笑みを浮かべて首を横に振り]
─何でもないよ─
─避けては通れなかったけど、君はそれ以上の宝を手に入れた─
─それで、十分─
[ディートリヒの視線は傍のパトラッシュへと向かう。それを追うようにしてパトラッシュに視線を移す]
…うんっ!
[その言葉に嬉しそうな笑みを浮かべた]
─さぁ行こう─
─ここから先は僕らが住まう場所─
─君達が望む場所、望む姿で居られる場所─
─君達が望むように過ごせば良い─
[そう言ってディートリヒは招き入れるように背後の闇を指し示す。その遠く奥には僅かに光が輝いていた]
〔無理に笑う姿が痛々しかった〕
〔だが、誘われるままに店に入るしかなく〕
〔ふと鼻を突く、薬の匂い〕
うわ。強烈な匂いだな。
俺の煙草からも、湿布の匂いがしそうだぜ。
〔ゆるりと店内を見回し、目当ての煙草を棚から取り出す〕
[タオルを手に]
[奥の部屋から戻る]
[白いタオルを手渡しながら]
ああ。
ここんとこずっと作り続けていたからね。
でも作った端から消えちゃうから。
…あたしにも染み付いているかも。
[肩を竦めて]
[確かに身体にも染み付いた匂い]
ごめんね。
薬草臭い煙草だなんてさ。
まあ、身体にいいとでも思って?
[小さく笑う]
〔霊を言い、タオルを受け取って汗をぬぐう〕
〔勧められるままにそこへ腰掛け、胸にたまった空気を吐き出す〕
〔ややあって。
…シャロンとディーノがお互いを占い、人間判定をしたこと。
…パトラッシュが自警団に撃たれ、命を失った事。
…それなのに、ディーノが人狼に喰われた事。
…その事実によって、疑いの晴れた自分が独房から出された事、などを。
自分自身でも整理するかのように、淡々と説明した〕
[整理された説明を]
[時折頷きながら聞いてゆく]
そう、なんだ。
じゃあディーノは人狼じゃなかったんだね。
庇ってたからパトラッシュは人狼じゃ無いってこと?
[一瞬疑うような顔をするが]
[すぐに思い出して]
ああ。
エリカちゃんには死んだ人の魂が分かるんだっけ。
ランディが出してもらえたってことは、そういうことかな。
[窓の外を見る]
じゃあ、残る占い師はシャロン?
これからはシャロンが人狼を探してゆくのね。
〔吹き抜ける風が気持ちいい〕
〔汗が引いていくのを感じた後、広場のほうへ視線を投げたまま問いかける〕
…なぁ。
ノブを占った日の、シャロンの言葉。
覚えてるか?
「人と断定できるのは、自分がその狂人だったときに、人狼とコンタクトをとっている人だけ」
俺が宿屋の主人から聞いた御伽噺にゃ、そんな奴は出てこなかった。
いったい、何処から仕入れた情報なんだろう。
同じように旅をしてたディーノは知らなかったみたいだし。
なぁんか、引っかかってよ…。
〔残る占い師はシャロン、と言うフランの言葉に、怪訝な表情を向ける〕
おい、人狼伝承では、能力を持った人物は一人ずつしか出てこなかったんだが。
フランは、シャロンを信じているのか?
[外が騒がしい。
どうやら、自警団員達がシャロンを探していたようだが、元より、逃げるつもりも、隠れるつもりも無い。
シャロンは、宿屋の自室で、冷たい笑みを張り付かせたまま、自警団員を待った。
―――ややして、宿屋の扉が荒々しく開かれた。
ごく単純な場所に、やっと気づいたようだ。
足音はだんだんと大きくなり、
自室の前で一度止まった。
そして、
次の瞬間、さらに大きな音で扉が開かれた]
あらあら。
みなさんお揃いで。
そんなギラギラした目で、私に何の御用かしら?
「とぼけるな!
お前が、我々を外に連れ出した後に、占い師候補であるディーノが死んだ!
それは、お前が狼を手引きしたとしか考えられないだろう!」
・・・愚鈍な考えだこと。
「まだあるぞ!
お前は我々にあの犬が人狼だという考えを受え付けた!そして、お前が偽者で、狼とグルだということはすでにリークされているんだ!」
・・・ただ、勝手に妄想に踊らされただけじゃない。
「うるさい!
いいか!?拷問にかけてでも、狼の居場所を吐き出させてやるからな!覚悟しろ!」
まあ、怖い。
もっとも、何人かは拷問という名を借りて、私を犯そうと思っている人もいるようだけど?私が・・・狼の仲間だとかそんなことも関係無しに、自分の欲望を満たそうとする下衆な人間・・・。
「・・・っ!?」
[少しだけ、自警団員の間にどよめきが起こった]
・・・犯したいならどうぞ?
見せてあげる。私の全て。
[そう言ってシャロンが、上着のボタンを外し始めた。
ゴクリと生唾を飲む音と、少しだけ理性のある人間の「よせ!」という叫び声。
一種のパニック状態が起こった。
―――そして。
その上着を全て脱ぎ捨てたとき、騒ぎは一瞬にして収まり、全ての人間は青い顔をして、その場に蹲ることとなった]
さあ―――?
どうしたの?見たかったんでしょう?
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