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─宿屋1階・酒場─
[主人に作ってもらった甘いパンケーキを味わった後、カウンターの隅でぼんやりと考え事を巡らせていた。
二人の占い師、その一方が死んだ意味を]
……あの時と同じなら……どちらかが……同じなんだとしたら。
人狼は、的確に、真なる力の主を狙ってきた……そういう、事に、なるのかな。
それとも、逆……疑いを、向けるため?
ぅぅ……わかんないなあ……。
[カウンターに伏して、ぽつり、呟く。
遠すぎて、それだけで掠れそうになる幼い頃の記憶。
それを、必死で思い起こしながら思考をめぐらせていた時。
ざわめきと共に、宿の扉が乱暴に開かれた]
ん?
そーすっと、宿屋の親父も適当な御伽噺を俺に教えたのかよ?
…まぁ、そういう類の話は、家ごとによって多少違うもんだしな。仕方ねぇか。
〔小さく肩をすくめる〕
何を基準に考えたらいいのかわからんのが辛いな。
俺は自分の信じたい事を信じてる、自分勝手な親父だからよ。
リディアが人狼だってわかった時、皆が少なくともあと一匹はいるって言ってたろ?
あれ聞いて、人狼はあと一匹しかいねぇんだなって思い込んじまったよ。
思い込みって怖いな。
…なぁ、フラン。
もし、人間でありながら、人狼とコンタクトが取れる奴が、占い師って名乗り出たらさ。
本物の占い師がどっちかなんてのは、人狼にゃ簡単にわかっちまうんじゃねぇのかな…。
俺はそう考えたんだが、どう思う?
〔煙草を吸うために店の外へ、戸口にもたれかかり、かちり、と火をつける〕
え……ちょっと、何……?
[呆然と呟くのには、委細構わず。
扉を開いた者たち──自警団はどやどやと2階へと上がって行く]
……なに……あれ?
[思わずぽかん、とした声を上げれば、主人はさあな、と嘆息する。
連日、自警団に騒がれて、参っているのだろうか]
……マスター……疲れてるなら、御師様の飴、食べるといいよ……?
[その様子に、思わずこんな言葉を投げかけて]
[煙草を吸おうとするランディと]
[一緒に店の外へ]
[日差しが眩しい]
マスターも専門家じゃないし。
あたしだって御伽噺を細かくなんて憶えてないよ。
そうだよね。
思い込みって怖いよね。
それにばっかり頭が行っちゃう…。
え?
ああ、うん。そうだよね。
だってコンタクトが取れるなら、人狼だってその人のことを知っていることになって。
ならばもう一人が占い師で。
…あれ?
でも占い師がコンタクトを取ったりする?
[混乱する]
[首を傾げる]
[それから、しばしの空白を経て。
再び、降りて来た自警団の面々は、妙に虚ろな雰囲気を漂わせていた。
その様子を、主人と、黒猫と共に呆気に取られて見送って]
…………なに、ほんとに…………。
[呆然と呟くものの、その様子には、何か引っかかる者が感じられた]
ね、マスター。今、上にいるのって……。
[客はシャロンだけだ、と。返って来るのは吐き捨てるような言葉]
「どうも、あの姐さんは……訳がわからん。
あの、犬っころの事といい……全く」
う……そういう言い方はないと思うけど。
[そうは言うものの、気にかかるのは確かなので]
……一応……何があったか、聞いてみよう……かな?
……取りあえず……何があったか、聞いてくる……。
[確かめたい事も、ない訳ではないし、と。
その部分は声には出さずに]
え……あは、大丈夫だよー?
危ない事なんて、きっと、ないって。
[大丈夫か、と問う主人ににこ、と笑ってこう言うと。
黒猫を両腕で抱きかかえるようにして、2階へと]
えと、お邪魔します……。
[そっと声をかけつつ、部屋の中へと滑り込み]
あのー……今、自警団の人たち、来てたみたいですけど……何が、あったんです?
[しばし躊躇った後、こんな問いを投げかけて]
うーん……なんだか、物々しいなあ、っていうのはあったんですけど……。
[問いに、首を傾げつつこう答え。
それからふと、衣類の乱れに気づいて、一つ、瞬く]
……どうしたんですか、それ……?
[着衣に乱れた所など、今まで見た事がなかっただけに。
それは、気にかかって]
・・・。
[何故か、少しだけ口を開くのを戸惑ったが、ゆっくりと口を開いた]
・・・人狼探しにかこつけられて、乱暴されかけたのよ。
自警団に分かるのは、私が人間だということ。
それしか分からないのにね。
[帰って来た言葉に。ほんの少し、目を見開いて。
でも、それにしては、立ち去る時の自警団の様子は異常さを感じさせて。
……微かな違和感]
……そっか……そういうとこ、困っちゃいますね、ほんとに。
後で、団長さんに厳しく言ってもらわないと。
人間……人間だから……できちゃうのかも知れないですね。
同じ人間を傷つけるのも、殺すのも……躊躇いなく。
[エリカの言葉に少しだけ笑う]
うふふ。
別に大丈夫よ。
彼らには、私の裸を見せたから。
見たなら、怯え、惑い、呆けて、帰るしかないわ。
だから、二度と私を乱暴しようなんて思わないでしょうね。
開けてはならない。禁断の箱の中身を見たのですから。
…うん。
人狼には誰が占い師なのか分かっているのかもしれない。
…でも。
もし真の占い師を知っていてもだよ。
疑いを向けるために仲間を切り捨てたって。
そんな可能性もない、かな?
…だって。
あまりにも怪しすぎない?
残った方を疑えといわんばかりで。
なんか、あたし。
でもとかそんなのばっかりだね。
[考えながらぽつぽつと言って]
[最後に溜息と一緒に笑った]
禁断の箱……って。
[帰って来た言葉に、ほんの少し、戸惑うものの。
笑いながらの問いには、ふるり、と首を振って]
遠慮します。
今は……狂ってるヒマなんて、ないですもん。
同じに、しないためにも。
[最後の一言には、やけに強い、意思の響き]
…そう!そこなんだ。フラン。
人狼とコンタクトの取れる占い師がいたら、そいつはもう、占い師じゃないだろ?
占う必要なんか無いんだ。
誰が人狼かわかってるんだから。
〔パズルのピースがひとつ嵌ったような気分になり、少々興奮したようにフランに話しかける〕
人狼は邪魔者を喰らって生きる。
クローディアは占い師だった。
ノブは人狼リディアをその手にかけた人間だった。
ディーノは?
シャロンが占って、人間と判定したから、それだけで喰われるのか?
もしかしたら、目撃されるかもしれないリスクを犯してまで、ディーノを喰うメリットを考えると…。
そして、ディーノが一人になるチャンスを作った人物が誰だったのかを考えるとな。
俺には、ディーノが本物の占い師で、シャロンは人狼とコンタクトの取れる人間…狂人って奴にしか、思えないんだよ。
〔と、ここまで一気に己の考えを吐露する…。しかし、目を瞑って小さく付け加える〕
…証拠となるものは、何も無いんだが、な。
ああ、そうだな。
俺みたいに考える人間がいるのを期待して、わざと仲間足りえる人間を喰ったのかもしれんな。
…そうか。
フランは、シャロンを疑ってないんだな。
〔やっと吸えた煙草を味わいつくすかのように、小さくなったそれを地面にぎゅっと押し付け、煙を消した〕
そう、同じに。
ボクが、ここに来るきっかけの時と。
姉様が壊れてしまって。
父様と母様が人狼に殺された……。
……故郷が、なくなっちゃった時と。
[静かに口にしたのは、遠い日の記憶。
それは、忘れていた力の目覚めと共に、思い出したもの]
疑ってないわけじゃなくて。
…誰も信じられないというか…。
[潰される煙草]
[それを目で追いながら]
信じられるとすれば。
こうして目の前で話しているランディくらいかな。
[下を向いたまま]
[寂しげに笑う]
お前の信じたい人間が見つかったんなら、良かったよ。
〔ほっとしたように、笑い、フランの頭を撫でる〕
…シャロンか…。
あんまり俺、喋った事ないんだよな。
そのせいかね。
妙に、信じようって気持ちにならんのは。
〔宿へ視線を移し〕
…嫌そうな顔されんのが、関の山かもしれんけど、話してみないとわからんのも道理。
玉砕覚悟で、疑問をぶつけてみっかな…。
…長話しちまったな。悪い。
俺、今からシャロンと話してくるわ。
あの時はボク、ほんとにちっちゃかったから……ほとんど、何にもできなかった。
いつも母様にくっついて、教えられたとおりに力を使って……人の魂を視るだけだった。
……もしかしたら、考えたくなかったのかも知れないけどね。
大好きだった姉様が……壊れて。
人狼の手助けしてるなんて、思いたくなかったもん。
[くすり、と。
ほんの少し、寂しげに笑んで、黒猫を撫でて]
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