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…いいえ、望んだのは、私。
姉様のように、なりたくて。
[それなら役目を果たせと。
そう朱花は訴える。熱と痛みをもって]
でも、リディちゃん、は…
[開いたままの扉から、僅かに残っていた熱も去ってゆく。
静かに冷えてゆく部屋]
[開け放たれた扉。
誰かの声が聞こえた気がした。
妙に足が重くて、一歩一歩、ゆっくりと進む。
ザフィーアは先に行くことはなかった]
[ゆっくりと振り向く]
いない、よ。
ここには、もう、いないの…。
[扉の前に立つ影に告げる。
座り込んだ体勢のまま]
あおいはな、ちらして。
どこか、いっちゃった…。
ん?
[彼はすぐに入っていった]
[誰の部屋だろうとそちらに向かう]
[部屋の中から声がした]
…
[へぇ、と、小さく口が動いた]
[名前を呼ぶ、何時もの声。]
なぁに?
[どこかに行ってしまったと、嘆く声。]
・・・・ぼくは、ここにいるよ?
[暗闇の中呟いた。
急に、光が射した。]
[胡桃色と、灰銀色。
白の上に、鮮やかな色。
鉄に似た臭いが、強く満ちていた]
……何、やってんの。
[少女が何を言っているのか、わからなかった。
だって、こんなに綺麗に咲いているのに。
――違う、これは、彼女の花じゃない]
起きなよ、リュー。
寝ぼすけ。
起きないと、グリンピース御飯に入れるよ。
[脇を擦り抜けてベッドサイドに左手を突いて、リューディアの頬に触れた]
[冷たかった]
[ミハエルが掃除をした広間はしかし、それが簡単に落ちないことを意味していた]
[かすかに黒い]
[しかしそのままキッチンへ向かう]
[食べやすいものを用意しておこうと思ったのか]
[スクランブルエッグを]
[スチームミルクを]
[そしてやわらかいパンとバターを机に置いた]
こんなに、冷えてる。
下で温まろう。
早く行かないと、御飯取られるよ。
[レディ=アマンダに。
……違う、彼女は、もういない]
それに、こんなに汚して。
掃除とか洗濯、誰がすると思ってるの。
[ノーラさん?
……違う、彼女も、もういない]
起きてるよ。
[呼び掛けに答えても、更には返らない。]
ああ、ユーリィまた無理してるでしょ。
ぼくはこっちだよ?
――レーネまで?
2人して、どこ見てんのさ。
[訝る様に言いながら、その視線を追い――]
[ユリアンがリディの傍に寄る。
くたり、と触れていた手が床に落ちた]
もう、食べなくて、いいね。
もう、食べられない、ね。
もう、痛くない、ね。
苦しく、ないね。
[視線はリディへと動いて]
もう、いないんだね…。
……お嬢様どころか、お姫様気取り?
でも、生憎と僕は王子様じゃないんだよ、眠り姫。
[返事は、無かった。
蔦の伸びたような蒼い花は千切れて、赤を帯びている。
それより何よりも、あるべきはずのものが、無かった]
なんで、そんな大切なもの失くすの。
[それは彼女自身の手によるものでないのは、明白だった]
……っきろよ、
馬鹿、
リューディア……!
[涙は出なかった。
泣かなかった。
泣けなかった。
泣くことは、出来なかった]
[――クァ、][鴉がないている]
[イレーネの言葉が聞こえる。
わかっている。
もう、彼女は、 ないのだと。
それでも、わかりたくなかった]
・・・・誰だか知らないけど、早く起きてあげなよ。
レーネもユーリィも心配してるじゃないか。
さっきから何度も呼んでるじゃないか、リューディアって。
・・・・・・・・リューディア?
本当にかわいそうに
[くすと笑う]
[食べ終わった食事を片付ける音]
人の心を持つからこそ、人であるのに。
泣けないとまで思われているんですねぇ、人狼は。
ユリアン…!
[運んでもらった時、聞いた言葉が甦る。
ユリアンに聞いてくれ。
咄嗟に手が伸びた]
お願い。
もう、休ませて、あげて…。
[その腕を掴もうと。
大した力ではなかったけれど]
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