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しんど…
[ぜぃはぁ言う背には、漆黒の大きな羽根。
全く薄金のかけらもないその羽根は、息と共に揺れて。]
悪い、利用、する…。
…元気じゃねぇ、よ…本当。
つら…
[その足元に、黒い翼で体を包むようにしてゴロリと横になった。
口を開けて荒く息をつき、蒼白になった顔からは汗がぽたぽたと落ちる。]
もう、俺無理かも…。
[空を飛べるはずもないのに、地面さえ不確かで。
立ち尽くす侭、ラスの家と、空を見比べる。
ひたすら重く、深い呼吸。
頼む、と、言われたのに、裏切りたいわけではないのに、]
会いたく、ないな。
[ここにいれば、おそらくスティーヴは戻ってくるだろう。
そう思えば、知らず足は駆け出した]
[名を呼んだ。それ以上、言葉はなかった。
歯を食いしばり、速度を上げる。逃がす訳には行かない。
大切な者達の為に、結界樹の中の者達の為に、そして誰よりも――ラス自身の為に。]
『―――馬鹿野郎がっ!』
[胸の内で罵倒し、ただひたすらに闇の翼を追う。
だが「虚」の力と「陽光」力に敵う事なく、見失った。]
………チクショウ!
[吠え声は雲の海に消える。
漣の音に肩を震わせながら、しばしその場に留まっていた。]
おやおや…。
それは、大変そうですね。
[ 足元に横になったのを右目で見ながら。]
………無理ですか。
それは、それで困りますね。
嗚呼、何か飲みますか?
[ そう言って室内へと入る。]
猟師 スティーヴが「時間を進める」を選択しました
猟師 スティーヴが「時間を進める」を取り消しました
はー…
…きもちー……
[遠慮なく立ち込める「虚」の空気に、じわりじわりと息が戻り熱が引くのが分かる。
目を瞑ると海から来る冷たい風も、熱を冷ます力となっているよに感じた。]
「虚」が気持ち良いなんてな。
腐ってる。
[自嘲気味に、呟く。そこにいる女に向かってか、自分に向かってか、定かでは無いが。
室内へと入る姿に、ゆると顔を上げて]
…水。
[それでも彼女を良く思わない気持ちはあるようで、笑顔にはなれない。]
[自分が逃げているのだと、気付いたのは人目を避けるような道で呼吸を整えるため、立ち止まった時]
…ごめん、ね。
[荒い息の合間、呟いた謝罪は宙に消える。
重たい身体を引きずって、屋敷へと戻れば自室へと引篭った。
唇を噛む。
かすか血の気配がしても*気に*止めることも無く――…]
………違う。馬鹿野郎は俺だ。
ラスが苦労していることは知っていた。
ずっと抱え込んでるだろう事も。
……………頼らせてやれないで、何が大人だ。なあ、――。
[白の海に親友の名を呼び、拳を握り締める。
爪が肉に食い込み、血が滴った。]
[ 部屋の中に置いてある水差とコップを近くに置く。]
自分で汲んで下さい。
人が腐ってるみたいに言わないで頂けますか?
[ 椅子の上に置いた本を持ってもう一度室内へ。
それを、テーブルの上に戻した。]
……俺の後悔など後回しだ。
―――ラスを、封じねば。
[低い声を響かせ、紫紺の翼を大きく動かす。
巻き起こる風が白の波を散らし、赤の雫と混じり消えた。]
[ それから、ゆっくりと羽根を広げる。
薄い金色ではなく、その色は底の無い闇の色。]
………虚って素直ですね。
[ 否応なく向けられる感情に、悦んでいるようで。]
嗚呼、すいません。
面白いわけじゃなくて。
私はその力には出会いたくはありませんね。
痛いの嫌いですので。
[ やはり嗤いを噛み殺したように答える。]
腐ってるのは、俺、だよ。
…でも自覚あるならあんたも、なのかもな。
[くく、と喉で楽しそうに哂い、腕を伸ばして水差しに手を伸ばす。
逆の手でコップに手を伸ばそうとするが、面倒になったので水差しに口をつけてがぶがぶと飲みだした。半分くらいは零れて体を伝ってしまったが、そこからは薄く水蒸気が上がった。]
素直、素直な――そうだと思う。
だから、「虚」に全て任せれば、とても楽だ。
気持ち悪い、腹が立つ、キライ、疲れた。
だから壊す。
それだけだ。
−ラスの家−
[戻った時にはカルロスの姿はなく。
その代わり騒ぎに目を覚ましたお袋さんの姿があった。
戸惑い不安を訴える目に、ただ頷く。]
………大丈夫だ。
もうすぐ先生も来る。家で大人しくしていてくれ。
[詳しくは言わず、そう告げて薬の袋を渡す。
赤が幾らか移ったそれに小さな悲鳴が上がり、ようやく手の平から血が出ていることに気付いた。]
……ああ、すまん。
風で手を切ったようだ。
[ベルトポーチから血止めを出して塗る。
簡単に布で巻き、疾風に大丈夫だと撫でてその場を後にした。]
[ 返ってきた言葉に明らかな嫌悪を示す。]
………叩き出しても構いませんが?
[ 背中の羽根を大きく動かして、近付く。
太陽の下に出れば、その羽根は薄い金色に輝いた。
水差から直接飲んでいる様子を見れば、呆れたように。
深く溜め息をついた。]
[ 足元を付いて来ていた闇は日光の直前で動きを止める。]
くすくす……。
やはり、思ったよりお元気そうですね。
今日は何を壊すのでしょうか?
今度は失敗しないといいですけど。
[ またも嗤いを堪える。]
[疾風は、遠慮なくスティーヴの足元に纏わりつき尻尾を振る。
撫でられて嬉しそうにキュンと鳴くと、去って行く彼の姿を舌を出して嬉しそうに見送っていた。]
…今日は流石に、あんたがやってくれよ?
俺はちょっと、疲れた。
あぁ、そうだ、あの弾かれた力は…多分、アヤメだ。
あの光を、間違いはしない…。
彼女には手を出さない方が良いかもしれない。――こうなるぞ。
[少し肩を竦めながら、低い声で呟いた。]
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