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−森・結界樹−
[湖のほとりに立ち、
高く聳える樹木を望む。
水面に映る緑を、金糸雀色の瞳が写す。
背に生えた、二対の異なる銀翼が揺れた]
……、
[微かに震えかけた手を、拳をつくって抑える。
トンと地を蹴り、根の上へと渡った。
細い手が、そっと、幹に触れる]
[アヤメの言葉にも、狐はひょうとくちぶえを吹くような音をたてるばかり。
そしてスティーヴが長老のそばへと。
――一度狐を見るのは、何ゆえかなど、よくわかるようなもの。
くすり、くすりとわらった。]
――鷹目殿は厄介なもので。
あァ、でも ……、
…もう、イヤなんだ。
疲れたんだよ…。
[羊の世話をしながらの独り言が、「声」に乗っている事も気がつかず、呟き続ける。]
いい人ぶるのも。
いい息子ぶるのも。
…このまま、あと何十年俺はここでずっとこうしてりゃいいんだ。
もう、疲れたんだ…。
[足下を見回すも、落ちていたのは枯れた実のみ。
頭上高くにある新しい実は、己の手には届かない。
視線を水平に戻して、膝を突く。
一対目の翼がピンと張り、
二対目の翼は根に沿うように流れた]
AIRANAC,
'honom uri... uru inakan ?
[呟くような声に呼応して、
湖面が仄かに金を帯びて光る。
ひかりの鳥は、深くにいるようだった]
[羊の世話が終わると、頭をぶつけないよう肩を屈めて家に入る。
母親はまだ寝ているようだったから、軽い食事を作って台所へと用意をし、置いておく。
自身は少しのパンを齧ると外へ出、そういえば、と呟いて飛び上がろうと膝を屈めるも、背中がずくりと疼いて。]
……やばいかな。
[呟くと、家の裏手の少し広い場所、人目のつかない所で翼を広げる。
その翼は――漆黒。
く、と一度目を瞑るとそれは一瞬の夢だったかのように薄金へと変わり…だが、彼の額にはまた玉の汗が浮いた。]
[向かったのは自宅ではなく施療院。
カレンに兎の燻製と薬の原料の肝などを渡し、籠を手にアヤメの家へ飛ぶ。]
…………今夜はもう家から出るな。二人共だ。
術を使ったのなら疲労は深いだろう。きちんと休め。
……肝心な時に倒れたくないならばな。
[後回しにしていた小言をきっちり言ってから、口を噤む。
しばしの逡巡の後、切り出したのはオーフェンの事。]
………お前達と同じ様に倒れた子供がいたぞ。
深紅の瞳を縦に細くして飛び掛ってきた後、急激に力尽きた。
俺には判らんが、あれもお前達と同じ【力】を持つのかもしれん。一度話をしておくといい。
ああ、別に怪我などさせてないぞ。……俺にもない。
今はどうか知らんが、カレンと共にいたから大丈夫だろう。
[顰め面で立ち去り、小屋へと戻る。
逆に己が倒れては小言の意味がない為、残りの差し入れを腹に収め、ようやくまともな眠りについた。]
[スティーヴが去ると、長老の疑惑のまなざしがつきささる。
面の下でおかしそうに嗤い、狐はそちらへと近づいた。]
長老殿。
なにか言いたいことが――?
俺は、嘘をついてはいませんよ
けっして、ね。
…幻視は、やっぱり苦手、だな…。
[ましてや、「虚」の力を弾かれ霧散された今、酷く体に負担がかかる。
苦しげな声で、呟いた。]
これの事をお聞きに?
――あァ、家の誰に聞いても口外はしないでしょうからねェ。
ご安心を。
俺は、呑まれはしませんから――
[くすくすとわらう。
そうして頭を下げて、場を辞した。]
−小屋−
[裸窓から朝日が突き刺さる。
目を眇めて体を起した。体は軽い。
大分回復した様子に頷き、肩を鳴らした。動くべき事は多い。]
………意識はしっかりしていた様だな。
[外に干した筈の服がない事に気付き、口の端を上げる。
用があればまた来るだろうと思考から切り捨て、雲海へ飛ぶ。]
…しんど…
[息を整えていると、家に届け物をしに隣人が来た。
両親を起さなくて良いように、翼をしまうのも忘れて慌てて玄関へと回る。
隣人から、昨日ネロが封じられた話を聞くと、眉を下げて心配げな表情を作った。]
それは…彼は、虚にとらわれていたんですか?
[答えが何であろうと、心配げな表情は崩さずに軽い感想を述べる。
額の汗と青白い顔を心配され、大丈夫、等と軽い会話を交わしてから隣人が去った後、、大きな溜息をついて肩を落とし届け物を家の中へ置いてから再び外へと出た。]
−上空−
[風を切り島を巡る。
人が多く封じられ虚の力が強まったなら、何か感知できるかと目を凝らす。
ふと遠く何かが見えた気がした。目を眇め、空を滑る。]
……ラス?
[鷹の目が捕らえた一瞬の違和感。
だが術に向かぬ身には、薄金に隠されたそれを看破は出来ず。
ただ眉間の皺を深くしたまま、竜胆色の髪の元へと。]
[大きく旋回する、大きな翼が落とす影に気がつき、目を細めて上を見た。
嬉しそうに目を糸にして笑うと、手を振る。
振られる手の方向と逆の方向に、後ろに縛った髪が揺れた。]
スティーヴさん!
/*
目撃はまずいだろうからぼかしておいた。
特攻はGJ出したアヤメの仕事だろう。
今更ながら術苦手設定が便利すぎて困る。ダメ親父だがな。
―自宅―
[昨夜、家に戻った後は、いつもどおりに朝を迎えた。
食事を取り、向かう先は結界樹。
理由はとくになかった。
あえていうなら、昨日落とした実がどうなったか見るために。]
[目を細めて笑う姿は常と変わらなく見える。
尻尾の様に揺れる髪に細く息を吐き、少し離れた場所へ降り立った。一度羽ばたいて大きく重い四翼を背に畳む。]
……今朝も早いな。
精が出る…のはいいが、ちゃんと休んでいるか?
[額に薄く残る汗の後を見、問う。]
――あれは
[進むのを止めるわけではない。
わらうと、狐はばさり、羽ばたいてそちらに着地する。
湖がまぶしかった。]
やァ、エリカ嬢。
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